見出し画像

プログラムノート(ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第2番、第5番)


ベートーヴェンはピアノ三重奏曲というジャンルにおいて革命をおこした作曲家といえる。

画像1

ベートーヴェンより先に生まれながら同じ時代の古典派に分類される、ハイドンやモーツァルトもピアノ三重奏曲を多数書いている。しかしそれは『ヴァイオリンとチェロの伴奏付きピアノソナタ』と言う認識の作風で、あくまでピアノが主役であった。さらに、音楽愛好家がサロンや家庭で演奏するための娯楽的な意味合いが強かった。

画像2

同じ室内楽でも弦楽四重奏は芸術性の高いジャンルとされており、それを作品1としてデビューする若手作曲家も数多くいた。その中で、ベートーヴェンはピアノ三重奏曲を作曲家としての幕開けに選んだ。

それが第1番から第3番までのピアノ三重奏曲のセットである。これらは1793〜95年頃に書かれたと推測されている。この曲の初演においてピアノはベートーヴェンが演奏した。今回のコンサートではその中から第2番を選んだ。(2部後半)

作品1にピアノ三重奏曲を選んだベートーヴェンであったが、再びこのジャンルに戻ってくるのは1808年とかなり期間があいてからのことだった。交響曲第5番『運命』や第6番『田園』、ピアノ協奏曲第5番『皇帝』などが完成した"中期傑作の森"の真っ只中である。それが作品70の第5番と第6番のピアノ三重奏曲である。ピアノソナタとして構想されていたが、ベートーヴェンの年金事情を左右するエルデーディ伯爵夫人マリーの依頼によりピアノ三重奏曲として発表された。

(第4番はクラリネット奏者に依頼されて書いた、クラリネット、チェロ、ピアノの変則的な三重奏のためここでは省く)

本日のコンサートでは第5番を演奏する。(2部前半)

画像3

第2番ト長調Op.1-2

4楽章構成。

第1楽章(Adagio-Allegro vivace:幅広く緩やかに-明るくいきいきと速く)

序奏付きのソナタ形式。ピアノ三重奏を娯楽から芸術へと押し上げようとする意気込みを感じられる構成と充実した内容。提示部(速くなったところ)のモチーフが序奏に伏線のように存在しているのがおもしろい。

第2楽章(Largo con espressione:遅く、表情豊かに)

ソナタ形式。ピアノによって主題が提示される。穏やかで明るい響きのホ長調で書かれる。(ト長調から見て並行長の同主調)

第3楽章スケルツォ(Allegro:速く)

三部形式。チェロの独奏から始まる軽妙な楽章。第1楽章と同じくト長調。中間部が終わると、また最初と同じメロディに戻る。

第4楽章(Presto:めっちゃ速く)

ソナタ形式。ト長調。急かされるような第一主題と、戯れるような第二主題からなる。珍しく第二主題がメインに展開される。とにかく忙しい楽章。


第5番ニ長調Op.70-1 "幽霊"

"幽霊"というニックネームは第2楽章の雰囲気が幽霊が出そうだからと言う理由で付けられたらしい。作品自体には全く関係ない。

第1楽章(Allegro vivace con brio:速く、生き生きと活発に)

ソナタ形式。劇的な主題提示から始まり、すぐにチェロの美しい旋律が登場する。全体を通してジェットコースターのような起伏の激しさを持つ楽章。激しさと穏やかさのギャップを楽しめる。第2番に比べて、ベートーヴェンの個性が溢れ出した作品に感じられる。

第2楽章(Largo assai ed espressivo:非常に遅く、そして表情豊かに)

ソナタ形式。ニ短調(ニ長調から同主調)圧倒的なエネルギーを見せた第1楽章と全くの対極をなす楽章。静寂の中に緊張感を持ち、神秘的な雰囲気を持つ。

第3楽章(Presto:めっちゃ速く)

2楽章が夢だったかのように、軽快で生き生きとした喜びに満ちた最終楽章。第1楽章と同じく華やかな雰囲気を持つニ長調のソナタ形式で書かれている。


追記

コンサートでは作品番号順ではなくあえて5番を先に演奏します。5番はベートーヴェンの個性が強く現れた強いエネルギーを持ち、2番は古典的でありながらもこの曲にかける意気込みが感じられる充実した内容で音楽作りにも苦労しました。後半の始まりには華やかな5番を、特別な思いで描かれたであろう第2番をこの日のプログラムの最後に用意しました。

お楽しみいただければ幸いです。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?