台風とパンナコッタ
台風19号。
被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。
1日も早く平穏な生活に戻れることをを願うばかりです。
本当にこわかった。本当に大変な週末でした。
お疲れさまでした。と言いたいところですが
まだまだ土砂の撤去作業や修復作業に当たらなければ
ならない方もたくさんいるのだと思います。
「あと数日で、あなたの家が水没するかもしれません」
そう告げられたところでどうすればいいんだろう
荷物を移動し、養生テープを貼って、抗う。
「死者8000人」「東京の1/3が水没」なんて新聞の見出しを
一応、鼻で笑ってみせながらも、
今回ばかりはぜんぜん笑えない。
コンビニに行って、パンを手に取る。
長期備蓄にもっとも向いた缶詰にかんしては、
ついスルーしてしまうところに自分の焦りを感じてしまう。
そういうとこだよ。
店内では、目の前でサラリーマンがカップ麺を手当たり次第、
カゴに入れていく。
カップ麺、普段はカラダに悪い「悪」と言われているのに
こんなときだけ正義の味方になっていく。
個人的にはカップ麺は普段は食べないようにしているし、
この手の小麦粉(特に麺類)が体質的にあまり得意ではないので
食べたらきっと具合悪くなるんだろうな。
本当の生命力ってなんだろう。
「これまでに経験したことのないような大雨がやってきます」
「数十年に一度の台風」
こんなフレーズ、最近も聞いたばかりじゃなかったっけ
生き延びる
生き残る
抗う。
緊急速報
来るかもしれない停電、
雨風による被害
洪水、河の氾濫
気にしないように黙々とパソコンで作業してみる
でも刻々と変わる空の色を前にどうしても落ち着かない
荷物をまとめ始めた、という知人もいた。
江戸川区の知人は、一家で数日前からホテルに避難しているそうだ。
富豪の知人はまだ運休中の新幹線を使い、地方の高級温泉に疎開しているとツイートで知った。
地獄の沙汰も金次第、とはまさにこのこと。
街からは人が消えたけれど、
硬く窓を閉ざした部屋の中では
それぞれの生活が続いている、わたしたちは生活を続けていかなくてはならない。
プライベート用のアカウントを開くと
同じく友人たちの鍵アカウントからは、
「お菓子を作り始めた」という投稿が
ポコポコと浮き上がってきた。
チーズケーキ、ブルーベリーマフィン、さつまいものフィナンシェ
エシレバターのマドレーヌ……バターの焦げる匂い、卵とアーモンドの甘い香りが画面越しに立ちのぼってくるようだった。
災害時におかし作り
不謹慎だ、と言われてしまう。
「台風の被害に遭って、大変な人もいるのに」と。
でも、「米の字」が張り巡らされた窓に囲まれて、
数時間後に上陸する台風そして
来るかもしれない停電を待つしかない己の非力さ。
執行猶予みたいな時間の前には、
お菓子でも作らないとくじけてしまう。
ひとりひとりが
静かに、懸命に、抗っているように思えた。
どうぞ、無事に。
焼き上げられてくる菓子には、
そんな祈りと恐怖が練りこまれているのだと思った。
私もふと、冷蔵庫を開けて
アーモンドミルクと生クリーム、そしてゼラチン、
砂糖のかわりのラカントSを混ぜて冷やす。
嵐の日のパンナコッタはなんだか、律儀で濃厚な味だった。
翌朝。
朝起きたら、とってつけたような青空と太陽が目に突き刺さる。
リビングに行くと、窓のテープはキレイに剥がされていた。
すでにわたしより早く起きていたパートナーが
ベランダの物干し竿と網戸を黙々と元の場所に戻し終え
コーヒーを煎れているところだった。
そんな愛おしい生活は、暴風雨の前には
すぐに吹き吹き飛ばされてしまうものなんだ。
だからこそ、生き延びて、守り、そして生き残っていけますように。
今日もまた、祈り続けていくのだと思う。
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