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【ほめ8】小さなモルモットが救った命

自分の人生を褒めちぎって、恨みも呪いも褒めて浄化するこの企画『根暗のほめ道』第8回でございます。
今回で一旦最終回!

サラッと前回までのあらすじ。
ドラッグストアでバイトを始めた私。職場では可愛がられながら順調に働くものの、1年経ったころにオフで出会った人に襲われて病み、その傷口は性依存に発展してしまう。バイトは続かず、次の春には隣県の福祉系専門学校に通うことになったのであった。

バイトを辞めた秋に、一念発起専門学校に通うことにした。
隣県の福祉系専門学校である。福祉系の資格があればこの先困らないだろうという目算のもと生まれた発想だった。
学校にはスムーズに合格し、春には専門学校生になった。

隣県の人たちはとてもさっぱりして付き合いやすい人が多かった。
私もすぐに受け入れてもらえて、そこそこ楽しい専門学校ライフをスタートさせた。
隣県とはいえ通えない距離ではなかったので、私は実家でぽぽさんの世話をしながら学校に通っていた。ぽぽさんはもう4歳。そろそろぽぽさんもおじいちゃんだね、などと言いながら接していた。実際、ぽぽさんは少し運動能力が落ちて、ケージの中で寝ていることが増えた。

その学校に、現役看護師の講師がいた。
私は病気をオープンにして通学していたので、その講師も私が統合失調症を患っていることを知っていた。その講師はよく「精神病薬なんてやめた方がいいわよ」と言った。

馬鹿正直……いや、非常に素直な私はその講師の言うことを真に受けて、5月から断薬を開始した。

最初は非常に身体の調子が良くなって、「本当だ、断薬ってすごいんだな」などと思っていた。気分も上がっていたし、毎日がどんどん楽しくなっていった。講師にも良くなったと報告すると「そうでしょ、よかったね」と言ってくれた。

ある日突然だった。
断薬が私に牙をむいたのは。

6月の下旬、帰りの電車に乗っていた時、私はいきなり思った。
「あ、死ぬか」
電車を降りると、車に乗り込みそのまま下道で山道を走り始めた。
飲まず食わずで夜通し走り続けて、長野県のどこかの地域のホームセンターに開店同時に入り、ロープを買って更に山道を進む。

そして、この辺でいいか、と思ったところで車を停めて、手近にあった柵にロープを結んで、首を吊って死のうとした。
最初こそ結構いい感じに締まったが、どうも結び方をミスしたらしく、若干足が付く宙ぶらりん具合になってしまった。
何度試しても、中々うまくいかない。
そして、宙ぶらりんになって「どうしよう、このままじゃ死ねないぞ」と考えていると、頭の中にぽぽさんの鳴き声が響いた。

私はその瞬間我に返った。
「あ、私は死んじゃいけないんだ。ぽぽさんが待ってる」
そう思い、ロープをほどこうとした。
しかし、中々ほどけない。もう死ぬ気などない私はロープを嚙み千切ることにした。しかし太いロープは中々簡単には千切れず、口の中を血だらけにしながら噛み続けた。

何十分かロープを噛み続け、やっとロープは千切れた。
それから、どうやらかかりつけの病院が意外と近いということを知り、首にぶら下げたロープを切ってもらおうと病院にふらっと行ったら、そのまま強制入院になってしまった。

ぽぽさんに中々会えずやきもきしたが、自分がしたことはそれだけのことだったのだろう。閉鎖病棟は自殺防止でトイレのカギも閉められないし、ずっと叫ぶおばさんが隣のベッドだったりで中々過酷な生活を強いられた。

2週間後、7月半ば。
やっと一時帰宅を許されたので、実家に帰った。
ぽぽさんは年を取って動くのが大変なのか、少し疲れた様子で私を待っていた。
夜、抱っこして外で一緒に涼んだ。
「ぽぽさんが私を呼んでるって、わかったよ」
「ぽぽさん、私を助けてくれてありがとう」
「ぽぽさんが待ってくれてるから、死んじゃいけないって思えたよ」
そう伝えると、ぽぽさんはそのまま、私の腕の中で息を引き取った。4歳7カ月だった。

ぽぽさんは多分だけど、本当に私を待ってここまで生きてくれていたんだと思った。私が心配で、死ぬに死ねなかったんだと思う。
ぽぽさんを安心させられて良かった。
でも、最後の2週間を一緒に過ごせなくてごめんね。
いっつも慌てて、メンタルも安定しなくて、頼りない飼い主だったよね。
本当にごめんね。
でも、それよりずっと、ありがとうを伝えたい。
私に寄り添ってくれてありがとう。
私を癒してくれてありがとう。
私と一緒にいてくれてありがとう。
私を呼び止めてくれてありがとう。
私の元に来てくれてありがとう。
本当にぽぽさんには感謝しきれないほどのものを貰ってしまった。
この命だ。

それから私は真面目に服薬をし始めた。
精神疾患を患っている人は普通よりもメンタルケアに力を入れなければいけないのだと学習し、就寝時間を安定させたり、生活をルーチン化させることをなるべく続けた。すると波は次第に落ち着いてきた。
正直、それでもメンタルは安定しないことがある。
どうしてもストレスには弱いし、メンタルが弱いことに変わりはない。
でも、自分で管理ができる部分が大きいと学べたのはいい進歩だ。

結局その専門学校も諸事情で続かず、何をしても中途半端な感じになってしまっている私の人生だ。
私はいつも自分の人生をしょぼくれたものだと思いがちだけれど、冷静に考えればちゃんと定職につけているし、一人暮らしだって続けられてるし、そんな悪いもんでもないと思う。
高望みしない。大好きなクローバーをいっぱい貰っても、お腹いっぱいになったら余計に食べることはしないぽぽさんを見習わないと。満腹超えて食べようとする欲張りは、いつも人間ばかりなのだ。

そして何より、こうして振り返ることでやっぱりここまで生きて来た私すげぇって思う。よく命繋いだなって思う。
私、意外と逞しいじゃん。
よくやって来たよ。

そして、これからも生きていくよ。
ぽぽさんが繋いでくれた命を適当に終わらせたら、そんなの嘘じゃん。
生きることにあまり頓着しないタイプではあるんだけど、生きられる内は、真剣に生きるよ。

今回の企画は一旦ここで終わるけれど、やって良かった。
忘れていた気持ち、大切なことを思い出すきっかけになった。
noteはまた突発的に思ったことを書くかも知れないです。
その時はまた気まぐれに見に来ていただければと。

では、読んでくださりありがとうございました。

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