見出し画像

【おもいオモイ】ep5

時は遡る事、数日前(ep2)

【ミーレア地方】サントレイヤ王国 スラム街 教会内
スラム市民A「お姫様と一緒に行ったぜ、ザズ」
ザズ「ご苦労」

ザズによって捕らえられたレドの弟、サアカは手足を縛られ、口にも布が噛まされていた。
サズはサアカに近付き、口角を上げて静かに笑った。

ザズ「計画通りに事が運ぶと気分がいいな」

レドやサアカの前で余裕のある大人を演じていたザズは、指を鳴らした。鎧の動く音がどんどんと大きく聞こえ、教会の扉から紫色に輝く魔石が埋め込まれた「不敗兵」が現れた。

サアカ(まさか、あの不敗兵も操っていた!?)

このスラム街から抜け出す前に出会った不敗兵はレドの左腕によって紫の結晶を破壊した。リリーナの動揺から察して、国の闇には違いないとサアカ自身も思っていたが、不敗兵を操ることが出来る事は予想外だった。

サアカはなんとかして、拘束を解こうと藻掻くが、不敗兵が近付き、拘束したサアカを持ち上げ、ザズとともに移動した。

ザズ「暴れない。僕が指示すればすぐにでも不敗兵は君を殺すし」

淡々と殺害予告された。
ザズは無言で歩いていく。不敗兵はザズの後ろについて回り、サアカはスラム街が遠くなるのを観ることしかできなかった。
裏道を通っていくと、いつぞやの東門にたどり着いた。重い鉄の扉の音が聞こえる。
そのまま連行されて、ザズは足を止めて、不敗兵に指示をした。サアカを下ろし、拘束していた縄を解いた。


【ミーレア地方】サントレイヤ城 執務室
サアカは驚きを隠せなかった。

サアカ「•••ガデラ王?」
ザズ「叔父との感動の再会はどんな気分だ?『サアカ•ウィリス』」

ザズから唐突に告げられた言葉にサアカは理解できなかった。憎きガデラ王が叔父で、自分に名字がある事。
そして、その憎き男の朽ちた姿が目に入った。

ザズ「なんて可哀想な男だろうか、愚王ガデラ。娘は拐われ、親戚に恨まれ、挙げ句に義姉をこの手で血に染めた私利私欲の王よ」

ザズは不気味に笑った。
何一つとして正しく理解できなかった。頭の中にはずっと疑問しかなかった。感情よりもこの疑問を解きたかった。
すると、不意にサアカが涙を流した。
ザズはそれに気付き、サアカの耳にこう告げた。

ザズ「お前の兄は全てを知っている」

その一言で、ザズの首を掴んだ。

サアカ「兄様はずっと苦しんだッ!!寝てる時でさえ、稽古してる時でさえッ!!僕の前で泣いてない兄様の事をッ知った様な口で語るなッ!!」

サアカは力任せにザズの首を絞めた。

ザズ「ぐっ•••、っ•••!!」

ザズの首を絞めている時、ザズの耳飾りが揺れた。
その耳飾りに目を奪われ、力を緩めたサアカの手から、崩れ落ちるザズ。

ザズ「っが•••!!ゴホッ!!ゴホッゴホッ!!•••っく!!」

咳き込むザズを見下すサアカ。
兄であるレドは「全てを知っている」。その言葉が脳に焼き付いて、離れなかった。
なら、何故レドはガデラ王を恨んでいたのか?
フラつきながらも、ガデラ王に近付き、首飾りにそっと手をかけたサアカは、怯えながらも首飾りの開閉スイッチを押すと、幼いリリーナとリリーナの母親が笑顔に写っていた。
目を背けたサアカの視線の先には倒れたスタンドがあった。
スタンドを持つとそこには、ガデラ王とリリーナの母親、まだおしゃぶりを咥えてるリリーナとサアカとレドの両親、まだ笑えていたレドに抱えられているサアカ。
みんなが笑顔で笑っていた「家族写真」だった。

サアカ「ぁ•••ぁあ、•••っう、•••僕は、僕達は•••兄様はどうして、ガデラ王に•••復讐、なんて•••真似を」

涙が止まらない。
どんな時でも、堪える事が出来た涙が全く止まらない。体が震える。涙で視界がぼやけている。
拙い足で歩き、崩れる様にガデラ王の膝でサアカは泣いた。
ザズはニヤついた。
首を抑えながら、フラつきながらも立ち上がり、天井を見上げ、上がりきった口角を戻せずにいた。

ザズ「ははっ、やっとだ。」

執務室を後にしたザズは、不敗兵に命令した。

ザズ「『巫女』を地下遺跡に移動させろ。あの女には、絶望をくれてやれ」

不敗兵は命令通りに、動き始めた。
収まらない笑いを堪えながら、耳飾りを触った。

???「計画は順調そうですね」
ザズ「あぁ、あんたか。まぁな、あんたらの助力で果たせる」
???「それは何より。こちらとしても、『能力者』を捕まえるいい機会です。あなたに商談を持ち掛けて良かった」
ザズ「あんたらの作ったこの『魔石』がこうも優秀とはな」

紫色に輝く魔石を見て、笑う。


【ミーレア地方】ケブル大草原
少し粗い道を馬車が走っていた。振動でお尻が痛い。
そんな事を思いながら、馬車の外に映る火山を緑髪の少女は見つめていた。

ラスト「•••巫女、かぁ」

王都から突然知らされた「巫女制度」。
教科書の歴史には一言で終わりそうな浅い説明だったこの制度が存在していた事に驚いた。
もう少し深い話をすると、巫女制度とは大昔に火山に住む竜が暴れ出し、魔力の質が高い『巫女』と呼ばれるその人が魔力が枯渇した竜に魔力を与え、朽ちたその身は火山の最奥に眠る。

そして、リリーナが『魔王』と呼ばれた人に拉致られて、間髪入れずに『巫女』に選ばれ、ずっと王城で魔力生成に特化した訓練をさせられて、文書からサントレイヤが治める領地を巡回し、祈りや願いを持ち、大昔に使われた地下遺跡に足を運ぶ。
今、その道中でお尻が痛い。

ラスト「あっ、飛行船」

噂程度に聞いていた謎の飛行物体。

ラスト「私も乗ってみたいな〜」

国境門を潜らず、自由に鳥のように飛ぶ。
飛行船に憧れを持ちながら、ただ目的地に着くのを静かに待っていた。


【ミーレア地方】サントレイヤ城 執務室
少し落ち着いた。
サアカは、ゆらりと立ち上がり、暗がりの執務室を後にした。
こんなに泣いたのは久々だった。
いつもは、レド兄様が頭を撫でてくれて、少し不器用な笑い顔を見れば、モヤついた気持ちが綺麗に晴れていたから。

サアカ「兄様に聞かなきゃ」

あの夜にリリーナ王女様の自室に隠された瓶を奪取する作戦の時に渡したシルバーブレスレットに繋がるもう一つのシルバーブレスレット。右手の人差し指をかざすと、半透明な魔力操作盤が浮かびだされた。
丁寧に操作をしていくと、かなりのノイズが発生しているが、少なからずとして繋がっている。

サアカ「兄様、兄様!!聞こえますか!!」

シルバーブレスレットに耳を当てると、微かに女性のすすり泣く声が聞こえた。
ずっと泣いている。
シルバーブレスレットが付けられたままなら、レド兄様はこの女性と一緒に行動している。
サアカは耳を澄ませると、別の声が聞こえた。

???「レ••••••••悪•••••••、治療••••••」

砂嵐が酷すぎて、全く聞き取れなかったが収穫はあった。
『治療』、希望的考察をすればレド兄様の呪われた腕を治療してくれる人が居る。
そして、すすり泣く女性の声は恐らくリリーナ王女様。
•••僕の従妹。
感情を無理矢理押し殺して、魔力操作盤を閉じた。

サアカ「•••僕がしっかりしなきゃ。僕だってお兄ちゃんなんだから!!」

両手を強く握り、よしっと気合を入れる。
サアカが歩き始めようとしたその時、紫色に輝く不敗兵がこちらを睨んでいた。

???「健気ですね」

物陰から優しく笑っていた。

???「あんな事があっても、あの様に健気に振る舞うあの姿勢は感慨深いですよ」


【ミーレア地方】サントレイヤ城 魔法研究所

ザズ「ふふ、やっと復讐出来る」

魔石を握り締め、暗がりの部屋で不気味に笑い上げた。
この手にある最上級の魔石。大枚叩いて買った実力を早く見たくてザズは疼いている。

ザズ「あの頃の俺は甘過ぎた」


【ミーレア地方】王宮学術院
遡ること、数年前。
下級貴族だった若かりし頃のザズは一生懸命、剣を振っていた。
貴族という事もあり、王宮学術院に通う多くの生徒は魔法剣士になる。だから、剣を振って攻撃を当てるのではなく、剣に魔力を込めて剣撃で攻撃するというニュアンスがあっていた。
座学を終え、日差しが照らす中庭の廊下を歩くと、赤い髪の美麗な男の子が向かいから歩いて来た。

ザズ(あれが将来の•••リリーナ王女様の護衛役)

だが、彼には欠点があった。
それは、魔法が使えない事だった。
ある日の実技訓練の時は、彼はひたすら剣の基礎動作を繰り返し、繰り返し行っていた。
季節問わず、天候問わず、ひたすらに基礎動作を繰り返していた。
そして、魔法ありの対戦訓練では地味ながらも身につけた剣術と身体能力で一分も経たずに決着がついた。
それからも連戦、連勝と進み、気付けば彼の対戦相手は先生になっていた。
卓越した身体能力で先生から撃たれた火球魔法を剣で斬り伏せ、瞬きした時には彼の勝利が見えた。

先生「魔法が使えなくともここまでの実力とは恐れ入った。次代の王宮近衛騎士団長」
少年「いえ、俺はまだ弱い。魔法相手の相殺のコツが掴んでいません」

真面目に答える彼にクラスメイトはドン引きした。
あれ以来、彼を『無能力者』と煽っていた生徒は一様に『ゴリラ』と言い直していた。
そんな笑い話を耳に、日々を過ごしていた時、ザズの家が荒らされていた。
横たわるメイドに執事、そして片腕を抑えながら歩いてきた母がザズを見て、叫んだ。

ザズ母「この、面汚しがぁぁぁああアアアア"ッ!!」

乱雑に首を掴まれ、遠くの壁へを投げ捨てた。強い衝撃が身体全体を覆い、尻餅をつく。目を開けると、血濡れた執事で制服が汚れた。
頭を抑えながら、獣の咆哮の様に叫び散らす母親に恐怖を覚えた。

ザズ母「お前がッ!!あの時、ウィリス家、との勝負に勝てばッ!!勝てばッ!!」

荒れた髪がより恐怖を掻き立てる。
ただ謝って、ただ泣いた。
そんな人生だった。


【ミーレア地方】サントレイヤ城 魔法研究所
ザズール•エフォルド。通称、ザズ。
下級貴族だったザズは暴走した母親の狂言にて、貴族紋の剥奪、及び殺人罪により禁錮五年。

ザズ「いつ思い出してもクソだな」

魔石の輝きを再び見る。

ザズ「あとはこの魔石をあの女にぶち込めばァ」

審判を下した王族も、クソったれな母親も、元クラスメイトだった奴らも皆、この魔石で枯れた。
あとは王族の血族を『巫女』で殺す。
その後はゆっくりと崩壊するのを見届けるだけ。

ザズ「早く、着かねぇかな?巫女様」

壊れるように笑った。


一方その頃、ラストは巡回した供物を持って、地下遺跡の前に立っていた。
不敗兵が古びた石扉を力づくで開けて、ラストはその中に入って行った。
ザズはその報告を聞き、歩き出した。
一歩、一歩、着実に丁寧に完璧にする為に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?