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【おもいオモイ】ep1

???『魔法が物を言う世界。勿論、魔法が使えない者は、下に見られ、権利すら存在しない。』

だが、そんな世界でも抗う人間は少なからずと存在する。そして、時は経ち―•••。

「魔術」、「錬金術」が生まれた。魔力が微量だが、工夫すれば魔法の様に扱えるようになった。こうして文化が発展し、現在は•••。


【ミーレア地方】サントレイヤ王城 執務室
建国から続く血統、ミセス•ブルク王族。現王ガデラ•ミセス•ブルクは頭を悩ませていた。

兵士「現在、サントレイヤ自治区にモンスターの目撃情報が多数、寄せられています。農村地域にも作物の被害報告が、」
ガデラ「•••分かった。王宮騎士を派遣させる。」

今、サントレイヤ周辺ではモンスターによる国益の被害が毎日のように報告されている。家畜がモンスターに成った、森にゴブリンの集落が出来た、様々な事が一斉に起きていた。他国にも救援要請を送ったが同様の事件で手一杯と返された。
かつてこの国を守った勇者が存在した。その者には不思議な刻印が施されていて、モンスターを屠る聖なる魔法があった。だが、近年、勇者一族との連絡が途絶えている。現王ガデラは深く、ため息を付いた。

???「お父様?お加減が悪いのですか?」

声のする方へ向くとそこには愛娘のリリーナが居た。金髪にサファイアの様な瞳。次期、女王になる年若い娘。

ガデラ「玉座には来るなと申しただろう?リリーナ王女。」
リリーナ「も、申し訳ございません。近頃のお父様が酷くお疲れのご様子でしたので、心配になって•••。」
ガデラ「親身になってくれるその気持ちは嬉しいが、今は勉学に励みなさい。」

少ししょげた表情でリリーナは執務室を後にした。

ガデラ「•••やはり、早計だったか。だが、これ以上、被害を出してしまえば立ち直りも遅くなる。」
現王ガデラは兵士を呼びつけ、用件を伝えた。


【ミーレア地方】サントレイヤ王都 スラム街
翌日、サントレイヤ国内が騒がしい。
古びた布を被り、路地裏から覗いてみた。

国民「き、聞いたか!?聖なる儀式が行われるらしいぞ!!」

頭を傾げた。聖なる儀式が行われる?聖なる儀式とはなんのことか。赤髪の青年は少し悩んだ。

???「兄様、儀式が行われるらしいですよ!!」

扉から飛び出してきた赤髪の少年。

???「サアカ、兄様じゃない。」
サアカ「あっ!!ごめん、レド兄さん」
レド「よし、サアカ。さっさと行くぞ」
サアカ「レド兄さん、もしかして!!儀式に?」

サアカは目をキラキラさせてレドの袖を掴んだ。だがレドはため息をついた。

レド「•••今日は、ザズから仕事を頼まれてるだろ。さっさと行けば、儀式とやらも見れるだろ」


サントレイヤ王国には魔法も魔術も錬金術も使えない無能力者や訳アリで此処に来た奴らの掃き溜めになっている「スラム街」がある。
レドが14歳、サアカが8歳の頃にこのスラムにやってきた。それから、盗みを中心にレドは警護や討伐、サアカは解読、錬金術と得意分野でスラムの住人から信頼を勝ち取った。
ザズはこのスラムの参謀のような存在。昔は王立の学校に通っていたらしい。裏で貴族達からの信頼もあると噂されるほどの実力者から直々の依頼は緊張と心が踊る。
ザズがいつも居る教会に入ると教壇の前で待っていた。

レド「ザズ、すまない。街の様子に気取られた」
ザズ「•••ぁあ、儀式か。巫女を火山に連れていき、大地を鎮める、あの。」

ゆったりと語る。忙しなく動くレドとは違い、ザズの言動は時がゆっくり流れる様に感じる。多分、あれが大人の余裕というのだろう。


ザズ「さぁ•••、今回はかなり、大きい仕事だよ。どうやら貴族様は、呪封されている物が欲しいそうだぁ。」
レド「呪封?どんな形だ?」
ザズ「それが、形が分からない。ただ場所は判っている。此処だよ」

ザズがサントレイヤ王国の地図に指す。
•••サントレイヤ城、東館。

サアカ「ここって、確か王女リリーナ様がお住まわれている場所ではないですか?」
ザズ「そ、正解。リリーナ王女の部屋に隠し扉がある。そこに目的の物が存在してる。」

サントレイヤ城に忍び込む。捕まれば、重罪どころか処刑必至だろう。サアカも呼び出した理由は解読能力が長けているからだろう。

ザズ「これ、拒否権ないって。後、君達は依頼主からの指名、ね。」
サアカ「えっ、僕達を指名?」
レド「きな臭く感じてきたな。」
ザズ「どうやらね、決行は1週間後の夜。ついさっき入ってきた情報だけど、勇者様が見つかったってさ」

【ミーレア地方】サントレイヤ王都 スラム街 レドの自室
レド「•••どう考えたって怪しい。」
サアカ「レド兄さんの言う事は分かるけど、でも拒否権。無いってザズさんが言ってたし」
レド「分かってる。どのみち、1週間後にはこの胸騒ぎにも決着がつく。」

部屋のベッドに寝転ぶ。サアカがいつも通り、窓際で本を読み始めた。1週間後の決行が成功すれば、一生分の金銭が手に入る。ボロい天井を眺めながら、外の騒がしさに耳を傾けた。

スラム市民A「おい、巫女が決まったてよ!!」
スラム市民B「聞いたぜ、ラスト•ハイドバルド嬢だろ!?」

同じスラム街の住人の話が気になった。

レド「ラスト•ハイドバルド?」
サアカ「ハイドバルド家、軍事に通してる2流貴族だね。噂じゃあラスト嬢は元々、スラム生まれで養父のエルダ様に買われたって」
レド「お前はいつも、知ってんな」
サアカ「一昨日、ザズさんと喋ってたの」
レドは納得した。見飽きた天井から目線を外し、懐から高価な短剣を取り出し、眺めた。
サアカ「•••1週間後、成功しなきゃだね。兄さん」
レド「あぁ、復讐するぞ。ガデラ•••」

1週間後一一・・・

【ミーレア地方】サントレイヤ城
国内は勇者歓迎ムードでお祭り騒ぎだった。城内も慌ただしく、メイドが行ったり来たり、兵士が右往左往。自室で静かに待っているリリーナを置いて。
現王ガデラは王座で勇者一行と謁見中。

ガデラ「よくぞ参られた、勇者一行」

一方その頃、レド達は――•••。

【ミーレア地方】サントレイヤ王国 貴族街
レド「•••よし、サアカ。城に入るぞ。解読、頼む」
サアカは縦に頷く。魔術をレドに掛けた。
サアカ「兄様、真っ直ぐ屋根伝いからリリーナ様の部屋に直接行けます。•••あと、これを。」

サアカから渡されたブレスレット。翡翠色の宝石が埋め込まれているシルバーブレスレットだった。

サアカ「僕が作りました。結界を破れる魔術が施されています。」
レド「ありがとう、サアカ。」

そう言い、レドは得意の身体能力で軽々と屋根伝いに、あっという間にリリーナ王女の部屋に着いた。サアカのブレスレットのおかげで、結界を自動的に破ってくれて無音で侵入出来た。
ザズが言っていた通り、部屋の隠し扉を探す。すると、本棚の本を押すと隠し扉が出てきた。レドはその扉に手を掛けた。

レド「!?」

扉の隙間から黒い瘴気が漏れ出した。徐々に瘴気の量が増えていく。たじろいだ瞬間、扉が大きく開き、呪封されたであろう箱が破裂した。

レド「しまった!?くっそ、逃げるか!!」

小さな瓶の蓋が独りでに開いた。赤黒い液体がレドに向かった。振り返った瞬間、赤黒い液体が左腕に当たった。

レド「ぐっ•••!?っ!!」

あまりの激痛に体が縮こまった。すると、廊下の方からヒールの音が足早に聞こえた。
激痛に悶えながらも、なんとか脱出を試みようと窓枠に手を掛けた時、運悪く扉が勢いよく開いた。

見られた。赤黒い液体から激しい痛みが走る。崩れ落ちそうになり、なんとか踏ん張るが痛みで意識が朦朧としてきた。金髪でサファイアの瞳•••。
リリーナ•ミセス•ブルク。ガデラの娘。
兵士やメイドに見られたら、脅すしかない•••!!
レドはリリーナに手を掛けようと腕を伸ばすと。

リリーナ「待っててください!!今、治療します!!」

左腕に魔法を掛け始めた。痛みが引いていく。
だが、赤黒い液体の付いた部分は鈍いが動いていた。リリーナは魔法を使い続けるが、進展がなかった。
すると、廊下から兵士が来る音が聞こえてきた。魔法を大量に使ったリリーナの呼吸が早くなっていた。レドは悩んだ末にリリーナを抱えて、窓から飛び出した。

サアカ「兄さん!!よかっ•••ぇえ!?」
レド「さっさと行くぞ!!」

サアカに先導を任せ、来ていたボロい布をリリーナに被せ、抱えてスラムに急いで戻った。


騒動から一夜明け―•••

【ミーレア地方】サントレイヤ王都 スラム街 レドの部屋

朝から深い溜め息が出た。
レドは己の左腕を見た。赤黒い液体に触れて、起きたらなんと、左腕が異変していた。自分の力で動かせるが、爪が鋭利になって硬さもかなりだった。まるで、モンスターの腕だなとまた溜め息が漏れた。
ボロいベッドには、王国の王女がすよすよと寝息を立てていた。あの夜に起きた騒動が今や国内に広がり、誘拐やらと大きく見出しに載り、勇者一行は王女リリーナを誘拐した犯人を探すと名乗りを上げた。
レドは頭を抱えた。仕事も失敗し、王女も結果的に誘拐した。昨日の夜のザズが爆笑してた。

サアカ「•••レド兄さん、ザズさんが呼んでます。」

サアカの声で1週間前の胸騒ぎの決着がこんな形で着くとは思わなかった。重い脚を動かした。

レド「サアカ、あいつを見張っててくれ」
サアカ「分かったよ」

【ミーレア地方】サントレイヤ王都 スラム街 教会内
ザズ「昨日はお疲れ様、レド?」
レド「よく眠れるかよ•••。呪封されてる物がまさかコレだとはな」

赤黒く染まった左腕を見せた。ザズは凝視した。そしてすぐに縦に頷き、説明が始まった。

ザズ「レドの左腕は昔、サントレイヤ建国から存在してる物だろうね。逸話程度なら聞いた事があるんだけれど、建国当時の山が火山でそこに住む一匹のドラゴンが居た。ミセス•ブルク王族はドラゴンを撃退し、その時付いたドラゴンの血を小瓶に入れて永らく封印したって」
レド「•••つまり、どこぞの貴族様はこのドラゴンの血を使って何かをしようとしていた、と」
ザズ「そういう事だね。気付けて良かった反面、今や君達は姫様を誘拐した大犯罪者な訳だ」

ザズは懐から1枚の紙を取り出し、レドに見せた。
そこには、『リリーナ王女を誘拐した赤腕の男』と書かれていた。

ザズ「寝ていて知らないと思うけど、レド。君は王族から『魔王』と呼ばれている」

レドは色々と察した。

レド「つまるところ、ここから出ていけって事か」
ザズ「察しが良くて助かる。今朝方、憲兵が取引先の貴族を捕縛した、と連絡が入った。見られたのはレド君だけ。君の弟はこちらで預かろう」

レドは足早に自室に戻った。今日中に王女を連れ、王都脱出をして、頃合いを見ろ。永遠に続く、逃亡生活でもある上、勇者一行に命を狙われる状況。
自室に戻ると目的のリリーナ王女は起きていた。レドは二人に今まであった事を喋った。

リリーナ「私のせいですね。ごめんなさい」
サアカ「リリーナ様が謝る事ではないです!!•••もとを辿れば、僕らが悪いんです」
レド「しょげた所で状況は変わらない。リリーナ王女、あんたは俺と王都脱出するぞ。準備をしてくれ」
リリーナ「分かりました。すぐに準備します」

レドとリリーナが準備をする所を眺めるサアカは悔しそうに握り拳をした。

サアカ「兄さん。僕、ガデラ王に自首してくる」

レドはその言葉に振り向くとすでにサアカは扉を開けて、走り出した。レドは、準備を放り投げ、サアカを追いかけ、リリーナをレドの後に付いて行った。
スラム街を抜ければ、王都の裏路地。さらに抜けた先が、王都の大通りだった。サアカは若さならではの動きで障害物を軽く越えていく。
スラム街を抜けて、道筋通りに進んだサアカは裏路地を捜索していた憲兵とぶつかってしまった。

レド「!?•••サアカ、離れろ!!」

レドが叫ぶとサアカは憲兵から離れようとするが、あっという間に首根っこを押さえられた。
リリーナが遅れて到着すると、驚いた。

リリーナ「サアカ君!?」
サアカ「や、やめてください!!僕は自首しに来ただけです!!」

何も発さない憲兵は無言で剣を高らかに掲げ、サアカに向かって振り下ろした。

ガキンッ•••ギギッ!!

間一髪、レドが憲兵の剣を受け流した。サアカを引っ張り、リリーナの方へ投げ飛ばし、構え直した。憲兵の挙動が明らかに可怪しかった。微動ながらも何か電流の様なものが流れている様な感じがした。

リリーナ「•••まさか、そんなっ!?お父様•••!!」

急にリリーナが怯えだした。続いて、サアカも憲兵を指してこう言った。

サアカ「あの兵士、胸から紫色の光が漏れてる•••」
リリーナ「あ、あれは•••『不敗兵』です。死んだ兵士の心臓に魔石を埋め込んだアンデッド、です」
レド「•••1回、死んでるからもう死なない。だから、『不敗兵』って事か•••!!」

予期せぬ、王国の闇を見た3人は憲兵を恐れた。

リリーナ「魔石は魔法や魔術でなければ、安全に壊すことができません。サアカ君、魔術は使えますか?」
サアカ「ごめんなさい、僕は錬金術しか•••」

万事休す、だった。リリーナは深く考え、レドの左腕を見た。

リリーナ「左腕を使ってください!!その腕なら、魔石を壊せるかもしれません」

突然の指示に戸惑うも、レドは左手を憲兵の魔石に触れるとガラスの様に壊れた。唸り声を上げながら、憲兵は倒れた。3人はお互いの顔を見合った。

レド「と、りあえず逃げるぞ!!」

サアカの手を引っ張り、スラム街に戻った。ザズにこの事を話すとかなり驚いていた。たちまち、この話がスラム街全域に伝わり、ザズは予定を前倒しして、レドとリリーナを王都の外に出した。

レド「ザズ!?早急すぎる!!まだ自室に荷物が残ってる!!」
ザズ「レド、もう戻れない。悪いが君の弟は預かるより人質の方が優れてる」
リリーナ「どういう意味ですか!?サアカ君は何も悪いことは•••!!」
ザズ「お前達が相手にした不敗兵には、魔石を破壊すると位置情報が王宮騎士に伝わるんだ!!」
レド「は?•••はぁ!?」
ザズ「これでもう、スラム街は最悪、火の海だ。火の海になるより、君の弟を王宮騎士に売り渡した方が懸命だ」

ザズは冷徹な目でレドを見た。
状況が追いついていないレドとリリーナは立ち尽くす事しか出来なかった。ザズはスラム街と城壁の隠し扉を閉める途中で、レド達に金の入った袋だけ投げ、隠し扉を閉じた。

リリーナ「•••そんな、酷い。どうして、サアカ君を人質にする?」

呆然とした。
レドは金の入った袋を懐にしまって、草原の方へ歩いた。リリーナは、レドの行動に困惑した。

リリーナ「唯一の家族じゃないんですか•••?」
レド「•••ぁあ。だが、まずは近くの農村で宿を見つけよう。•••安全でなきゃ、気持ちの整理がつけないだろ?」

微かにレドは震えていた。リリーナは伏せる事しか出来ない自分が嫌になって、レドの左手を掴んで、2人で歩き出した。
最悪の形で始まった旅路に待つ、数々の試練に2人はどう立ち向かうのか、まだ誰も知らない。

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