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【おもいオモイ】ep3

周りからの視線が刺さる。農村民達はレドを不気味に思い、睨みつける。王宮騎士達から剣を向けられている。嫌な空気だった。

レド「•••靴擦れ、治してなかったな」
リリーナ「レド•••」
レド「確か、魔力を込めれば治癒、出来るんだったな」

レドはリリーナに跪き、左手を患部にかざした。赤色に発光した左腕から魔力が流れるのを感じる。慎重にゆっくりと傷を治していく。
リリーナはレドが震えている事に気付く。ゆっくりと左手に触れて、おぼつかない魔力操作のお手伝いをした。

リリーナ「ありがとう、レド。あなたのおかげで治ったよ」

まだレドは震えている。リリーナはそっとレドを抱き寄せて、背中を撫でた。

リリーナ(そうよ、レドはこの状況が何よりも嫌だった。ザズに人質にされたサアカ君はレドにとって唯一の家族。今のレドにとって、家族を見捨てて逃亡生活をするのは何よりも負担がかかる)

レドの呼吸が少しずつ落ち着いてきた。完全に落ち着くまでは離れないと決めたリリーナに剣を構えた勇者が威張っていた。

勇者「ハッ•••、魔王がこーんな腰抜けだとは。お姫様に守られて、メソメソすんなよぉ?」

鞘でレドを小突く。

リリーナ「ちょっと、それが勇者なの!?」
勇者「何言ってるんですか?そいつは『魔王』であなた様を誘拐した張本人。まっさか、スラム街に身を潜めてたなーんてなぁ?」
王宮騎士A「これが赤腕の魔王•••。国に魔物を呼び寄せた張本人」

王宮騎士が畏怖の目でレドを見ていた。勇者を中心に王宮騎士達はレドに剣を向けて警戒する。勇者とリリーナの言い合いの隙に残りの王宮騎士がリリーナの身柄を確保し、レドから距離を取る。
レドがその光景を横目で見ると左腕が鼓動した。

???『世界はそれを望まない。託された想いに乗せて』

レドの脳裏に謎の声が響いた。頭を横に振って、現実を見ると左腕がリリーナの腕を掴んで離さなかった。リリーナはレドの左手を優しく握り返した。

リリーナ「お父様にお伝えください。私は、この者を護衛とし、世界中を旅する、と」

王宮騎士の拘束から離れ、レドの元へ駆け寄り、縦に頷いた。レドは立ち上がり、リリーナの手を握る。足早にその場から離れる2人に、舌打ちをした。

勇者「なに都合の良い事、言ってんだよ。お姫様?」
リリーナ「品性も欠片もない人に言われたくありません」

突き放した言い方をしたリリーナにキレた勇者は強引にリリーナを引っ張るが、レドがそれを阻止した。睨み合いが続く中、空から聞き慣れない機械音が響いた。そこに居た一同は空を見上げると、大きな鉄の塊が飛来してきた。
突然のことで驚くと、その飛行物体はレド達の後ろに着地して、扉が開いた。

男「微量だが魔力濃度が濃いと思って来てみれば、なに?この状況?痴情のもつれ?」

あっけらかんとする人が出てきた。

男2「んな訳、ねぇだろ。どう考えたって赤い配管工と亀の怪物の取り合いだろ」
男?3「いえ、その理論だと心理学的に桃のお姫様は恋愛感情を抱くのは可能性が少なくとも•••」
男2「はいはい、心理学だか恋愛学術だかはどうでもいいんだよ。A‐623」

取り合いの最中に飛来した飛空艇にあっけが取られる状況に誰も付いて行けていなかった。勇者は我に返り、レドの手を振り払った。

勇者「つーか、あんたら誰?あぁ、この魔王の手下ぁ?へぇ~•••サーカスか何かなの?男のくせに頭、ピンクとかwはっずかしい奴〜」

指を指して嘲笑った勇者に近付くピンク髪の男はそっと勇者の人差し指を軽く曲げた。

勇者「っいっっっだ?!」
男「その辺で許してやれよ、クラウム」
クラウム「•••ちっ」

舌打ちして不服そうに戻ろうとした時、レドの肩を掴み、無言で飛空艇まで連れた。リリーナも慌てて、付いていく。

リリーナ「あ、あの!?」
男「•••悪いね、かっこつけてる所に乱入して。俺達にも事情があるんだ」

申し訳無さそうにする茶髪の男は異形の機械体に指示した。すると、飛空艇の扉が閉まり、駆動音が聞こえてきた。

男「少し遅れたが、俺はセツナ。この飛空艇、『リトルワールド』の船長をしている」
リリーナ「飛空艇リトルワールド•••?」
セツナ「あぁ、世界中に起きてる異変の調査をしている。少し言ったが、魔力濃度が高くなった地域へ行って、調査と解決を主にしている」
リリーナ「でも、魔力は良いものでは?」
セツナ「それはサントレイヤ王国独自の歴史解釈だ。それについても、彼と一緒に説明しよう。だが、まずは」

セツナは首を動かし、レドを見る。追って、リリーナもレドを見ると少しふらついている。

セツナ「客室に案内しよう」

セツナがリリーナの肩を掴み寄せる。

リリーナ「あの?」
セツナ「飛空艇と言えど、かなり揺れる。基本的には手すりに掴まって移動してくれ」

セツナはクラウムにレドの介抱を指示して、手すりに沿って客室まで移動した。扉を抜けると、飛空艇に見合わない程の都市が存在していた。
でかい支柱の周りに沿うように螺旋階段があり、白を基調に青や緑、黄色に変色する蛍光ラインに大規模にガラスがはめられていた。
セツナに案内されて、黒と金色の豪勢な扉を開けると高級ホテル並みの景観と質の良いベッドが2つもあった。

リリーナ「い、良いんですか?!こんな豪勢なお部屋!?」
セツナ「この区画は全部屋、同じ仕様なんだ」

クラウムがレドを横たわらせて、レドはベッドに沈む。

クラウム「こいつ、あの主治医に見せてもらった方が良くねぇか?」
セツナ「アカネだったら原因特定も出来るだろう」
クラウム「んじゃあ、呼んでくる」

頼む、とセツナが言ってから部屋を後にするクラウム。リリーナは、レドを心配そうに眺めていた。

レド「•••っ」

謎の声がこびり付いて離れない。
心なしか冷や汗が出てきた。視界がかすみ、体が動かない。

???『龍の意志を信じなさい』

此処まで来た記憶が朧げだった。段々と呼吸が浅くなってくる。視界が、景色を捉える事が出来ず、ぼんやりと光だけが映る。
左腕からじわじわと温かい何かが流れてきている。
•••ゆっくりと目を閉じる。

アカネ「うん、これは魔力が枯渇してる。後は急激に魔力を生成してるから寝てるかも」
リリーナ「大事ではないって事ですか?」

朱色の髪が縦に頷く。白衣を正し、レドの顔に手を触れると静かに喋った。

アカネ「魔法が使える人にとって、は大事ない。この人の場合は元々魔力の基盤が出来てなくって、現在進行系で魔力の基盤を作ってる。魔力の生成で数日間はこのまま寝てるね」
セツナ「魔力の基盤に大きく関わってるのは•••その左腕か」
アカネ「うん、普通の魔法使いなら魔力の生成には自然物、食事をするか、あらかじめ魔石に力を流し込み、保管するんだけど。魔力の生成も消費も体1つで成り立っているよ」

レドの左腕は魔力生成と消費の無限機関が成立しているとアカネは言った。確かに、とリリーナは納得し、赤黒い左腕の原因であるドラゴンの血がレドを侵食し続けてるという事実にも繋がった。

クラウム「とりあえず、野郎は暫くお休みって事だな?」
アカネ「彼が目覚めるまで王女様も自由行動で良いと思うよ」
セツナ「•••一応、言っておくが王女は未成年だからな?行きつけには行くなよ、クラウム」

クラウムは笑って、リリーナの腕を引っ張り、腰に手を回して、部屋を飛び出した。その光景を見て心配そうにため息を吐くセツナも部屋を後にした。


【リトルワールド】船内メインホール
クラウムに引っ張られながら、気づけば広い空間に出た。辺りを見回すと、高い建物や空中に浮かぶ車らしき物や、道の先にはトンネルになっていて商業施設が立ち並んでいた。他にも、下を覗けば道路や出店にカフェが並び、活気溢れていた。

クラウム「どうよ?驚いただろ!?あんな船の中が街になってんだよ」
リリーナ「本当に•••!!凄いです!!」

来た道を振り返れば、かなり大きい建物だと言うのが分かった。

クラウム「俺達が来たのは船内で1番大きいビル。セントラルエリアっていう船の中枢機関がある」

別の方へ指を指すと、先程の商業施設が立ち並ぶ場所。

クラウム「あっちは歓楽街と遊戯エリアに繋がってる。子供好きや交流、教会がある」

また、別の方へ指す。

クラウム「それとこっちは出店が多い。食べ歩きやら趣味、雑貨が並んでる」

またまた、別の方へ指す。

クラウム「あっちは訓練場や試験場」

あれやこれやと指してはエリア説明が入る。段々とリリーナが混乱していき、情報過多で目眩を起こした。

リリーナ「ちょ•••ちょっと待って下さい。いっぺんに説明されると•••」
クラウム「あっ、悪いな。仲間が増えると誰だって嬉しくなっちまって」
リリーナ「い、いえ」

少しシュンとなったクラウムにリリーナは少し慌てた。リリーナは深呼吸して、出店の方を指して、クラウムを誘った。

リリーナ「何か出店で買って、ゆっくりしましょう?」


【リトルワールド】観光エリア
リリーナとクラウムはそれぞれ、出店で小腹程度の物を買い、少し歩いた所のベンチに腰掛けた。

リリーナ「んぅ!?揚げ棒からチーズが!?」
クラウム「チーズドッグか。旨いよなぁ」

クラウムも袋の中から、色とりどりの丸い食べ物を口に放り込んだ。幸せそうに噛み、少し鼻歌混じりに上機嫌だった。

リリーナ「クラウムさん、それは?」
クラウム「これは俺のお気に入りの『エレメンタコボール』!!」
リリーナ「え、エレメンタコボール?」
クラウム「通常のタコボールとは違う。ましてや、たこ焼きではない!!このタコボールは•••いや、『エレメンタコボール』はなんと種類は38種類!!味や食感、色味まで全て違う。老若男女に愛される国民的料理っ!!」

キラキラと目を輝かせているクラウムにリリーナは何か分からないけど微笑ましくなった。

リリーナ「あのクラウムさん、リトルワールドって由来とかは?」
クラウム「んぁ?そういうのは、セツナが詳しいからな。まぁざっくり言うと、この船の中に入ると体が縮小されるとか、なんとか言ってたな」
リリーナ「しゅ、縮小!?」
クラウム「細けぇ話はセツナが適任だぜ。あぁ後、その服」

クラウムはリリーナの服を指して、リリーナもふと思い出した。

リリーナ(レドも服を変えなきゃって言ってた。確かにここなら、変装用の服が買えそう•••)
クラウム「•••採寸して服を新調するから、暫くは何処にも行けなくなるから〜•••って聞いてるか?」
リリーナ「へ!?あ、あぁあの、あの服良いなぁ~って思っただけで変装とかそんなやましい事は!!」
クラウム「いや、服を新調するから」
リリーナ「誰をですか?」
クラウム「君と寝放けてる野郎、2人分」

あわあわして、あちこち見ながら分かりやすく動揺と謙遜するリリーナに笑った。

クラウム「後からどうせセツナから説明あると思うけどな、君の連れは異常魔力で検査と治療が要るんだぜ?」
リリーナ「治療•••って出来るんですか!?」
クラウム「この船の技師を甘く見るなよ?」

クラウムは笑いながら軽い説明をしてくれた。
どうやら、レドの容態を確認しに来たアカネという女性医師は超常現象の類いを専門に取り扱っている名医で、他にも歴史に詳しい専門家や様々な人達がセツナ船長の指示でレドを集中治療する運びになった。それを知ったリリーナは凄く喜び、安堵した。

リリーナ「こんなにも早く、レドの左腕が戻る見立てがつくなんて、本当に良かった•••!!」

???『喜び、怒り、憎しみ•••』

セツナ「よ、リリーナ王女様。その様子じゃあ気分が少しは晴れたようだな」
リリーナ「セツナさん」
セツナ「呼び捨てでいいよ、社交辞令とかそういうの得意じゃないんだ」
クラウム「しっかし、何の用だよ?セツナ」
セツナ「あぁ、アカネの精密検査の結果。ドラゴンの血の正体がやはり『ガゴン』で間違いない」

セツナの言葉に目が開く。
悪竜ガゴン•••膨大な魔力を持つモンスターの始祖。灼熱、業火で地上を地獄に変え、重ねた悪行の末、大魔法によって次元の狭間に転移された。
研究者の間では世界に隕石を降らせているのはこの悪竜ではないのか?という推察が有力候補として挙がっている。

リリーナ「そ、そんな!?それでは、サントレイヤ王国はずっと悪竜ガゴンを崇拝していた事になります•••!!」

明かされたレドの左腕の原因。セツナは目を伏せ、静かに言った。

セツナ「最悪の場合、レド君は悪竜の復活の媒体になるかもしれない」

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