見出し画像

【おもいオモイ】ep4

•••最悪の場合、レドは悪竜の復活の媒体になるかもしれない。


【リトルワールド】セントラルエリアF20 客室
リリーナは悩んでいた。問題が解決すれどまた問題が発生して、また解決してその繰り返し。
レドの左腕はサントレイヤ王国で建国から続く国宝。その瓶にはドラゴンの血が封印されており、王族は長年、その瓶を守り続けた。
蓋を開けるとその瓶は意志を持つように蠢き、瞬く間にレドの左腕を侵食した。
赤黒い左腕は、魔石の力でモンスターになった動物やサントレイヤ王国のスラム街で見たアンデッド「不敗兵」を触れるだけで解除できた。スラム街から外へ出た近くの農村では大きなイノシシのモンスターから放たれた魔法を左腕だけで耐えた。
それもこれも悪竜ガゴンの血だからこそ出来た話だった。
セツナが言った最悪の場合は現状としてある可能性の1つだった。その言葉の裏にはレドを倒す覚悟を持てという静かなものだった。

あれから数日が経った。
レドはまだ目が覚めない。落ち込んだ気持ちを抱えて、リリーナはセントラルエリアを後にした。


【リトルワールド】船内メインホール
引きずった気持ちを抱えたまま、無意識の内にメインホールに出た。

リリーナ「こんな気持ちになったってレドが目を覚ました時に目覚めが悪いと思う。うん、私も何かしよう!!」

自分にムチを打ち、気合を入れる。初日にクラウムから一気に説明されたエリアを思い出し、リリーナは指を指した。

リリーナ「スクールエリア!!」


【リトルワールド】スクールエリア
この飛空艇には教育機関も併設されている。幼稚園、保育園〜大学まで全部、作られていて教師は特に要件のない専門家チームが基礎知識、応用、専門を担当している。この船の関係者であれば、出入りが自由とされている。

リリーナ「へぇ•••本当に学校だ!!」

リリーナはレドと出会う前まではサントレイヤ王国の貴族学校に通っていた。勇者の来訪で一時的に学校を休んでいたが、その間に学友ラストが「巫女」に選ばれた。巫女の話や勇者の話は王城に行き交う兵士の会話から聞き、居ても立っても居られず、父親である国王ガデラに直接、聞きに行くと門前払いされた。
それからどうする事も出来ず、勇者の旅立ちを祝う会場に素直に喜ぶことも出来ず侍女に部屋に戻ると伝え、会場を後にした。廊下から見える中庭が好きで、ぼーっと眺めていたら突然、何かぶつかった様な大きな音が聞こえ、音の鳴る方へ走るとそこには左腕を押さえたレドの姿だった。
それから数日間とはいえ目まぐるしく事態が発展した。

リリーナ「レドはサアカ君が心配で、私はラストの事が心配。凄く心配」

方向は別でも、目的は同じだった。大切な人を救いたい。だから、少しでも情報を集めて早く助ける。

リリーナ「うん、ここは学校だし図書室を借りよう。強くなって、ラストもサアカ君も助ける!!レドと一緒に」

リリーナは図書室へ足を進めた。
その姿を見つめる男の子の姿があった。

???「•••サントレイヤ王国の王女リリーナ•ミセス•ブルク。」


【リトルワールド】セントラルエリア 魔力感染治療室
トントンッ
扉の叩く音が聞こえた。アカネはどうぞ、と言いセツナが入ってきた。
セツナ「どうやら、リリーナ王女様は父君である国王ガデラに一切の情報を漏らしていないらしい」
アカネ「なら、ここの学校に通わせる?」
セツナ「一理はある。だが、勝手にやればサントレイヤ王国との提携が消える。とりあえず、リリーナ王女様の身柄はこちらで預かると手紙を送ったがよくは思わないだろうな」

悩む間にレドを見る。

アカネ「状態は安定してるけど、悪竜の侵食はやっぱり早い。採血結果は見ての通り、本人と悪竜の血が混在していて、殆ど結合してるよ」

悪竜ガゴンを護り龍として崇めるサントレイヤ王国。年々、外交が上手くいかないと風の噂程度には聞いていたセツナはアカネに言った。

セツナ「このまま、レド君の治療を進めてくれ」
アカネ「"治療"ね。分かったよ」

治療室を後にするセツナは、ありとあらゆる手を模索していた。
サントレイヤ王国はレドを魔王とし、リリーナの奪還を目的に勇者を動かした。恐らく、レドの生死は問わない。「王国」にとって重要なのは、娘の命より国宝である悪竜ガゴンの血が入った瓶。

セツナ「胸糞だな、『王国にとって』娘より魔王を優先するなんてな」

セツナの懐から電子音がなった。小型の機器の側面を押すと、声が聞こえた。

???「もしもし、セツナさん。アカギです」
セツナ「どうした?」
アカギ「スクールエリアにリリーナ王女様を目撃しました。図書室で何か、調べ物をしてるようです」

リリーナ王女様が調べ物?スクールエリアには基本知識と基礎魔導書ぐらい•••。

セツナ「恐らく、国勢に関わる本を探している可能性があるな。アカギ、王女様を止めてくれ。お前と同い年だから、気さくに応対してくれる筈だ」
アカギ「承知しました」
A‐623「マスター、サントレイヤ王国から返答が届きました」
セツナ「分かった、A-623(ムツ)」


【リトルワールド】スクールエリア 高等図書室
この船は、本当に書籍が豊富だった。
地方ごとに区分されていて、暇さえあれば後学の為に通っても良いとさえ思えるほどの物量だった。
リリーナ「悪竜ガゴンに関連する本があれば、レドが助かる可能性が少しでも上がる筈」
???「そこには悪竜の本はないよ」

声のする方へ振り向くとオッドアイの男の子が立っていた。

リリーナ「ご、ごめんなさい。関係者じゃないのに、不法侵入してしまって•••」
???「問題ないよ。だって無関係者はそもそも校外で門前払いされるから」
リリーナ「じゃあ、私は関係者なの•••ですか?」
???「うん、それよりも自己紹介しないとだね。オレはアカギ。君と実は同い年なんだよ、リリーナ王女様」

丁寧なお辞儀をするアカギにリリーナは本能的に後ろに下がる。

リリーナ「ご、ごめんなさい。少し驚いてしまって•••初めまして、アカギくん」

リリーナはアカギを少し眺める。
奇しくもレドの弟、サアカと雰囲気が似ていた。

リリーナ「レドが起きたら、間違えそうだなぁ」
アカギ「はい?」
リリーナ「へ?あっ•••もしかして、口に出てました?」

咄嗟に口を手で隠し、恥ずかしそうにアカギを見た。すると、アカギは笑った。

アカギ「セツナさんから聞いてたけど、リリーナ王女様は結構お茶目な人なんだって思って」
リリーナ「そんな事•••!?」

高等図書室であれやこれや、と談義をしてる時、扉の開く音が聞こえた。

クラウム「おー居た居た。リリーナ、服が出来たから試着してくれ」

クラウムが手招きして、リリーナとアカギは高等図書室を後にした。廊下を移動してる時にクラウムは言った。

クラウム「リリーナの連れが目を覚ましたってよ」

レドが目を覚ました。
その言葉だけで、走り出そうとしたリリーナの腕を掴んだクラウムはニッコリ微笑んだ。

クラウム「廊下は走らない」
リリーナ「•••ごめんなさい」


【リトルワールド】セントラルエリア 魔力感染治療室
目を覚ますと白い天井が見えた。

レド(•••確か王都の農村で魔物に襲われて、左腕が輝いて。それから、意識が朦朧としていて)

鈍い体を起こすし、辺りを見渡すと医療器具やら何やらと病院で目が覚めたらしい。立ち上がろうとした瞬間、激しく揺れた。
揺れの反動で白いベッドにまた倒れた。

レド(船か?高波でも来てるのか?)

しばらく揺れが続いた。
静かになり、揺れが収まったのを確認してから立ち上がり、体を確認する。
あの王城から侵食された左腕は禍々しく、胎動していて別の生物が住んでいるような感覚がした。
目を閉じて、深呼吸をする。すると、何か別のものが自分の体を巡っているのがわかった。

レド「とりあえず、部屋から出よう」

医療室から出ようとした時、近くにあった鏡に目が入った。
自分の片目が赤く染まっていた。


王城から侵食されてまだ数日•••。
本来ならサアカはザズに人質になる事も無かった。いや、そもそもサアカを置いていこうとした。だが、ザズはサアカを人質に取った。

レド「シラを切れば、サアカを人質にする必要がない。ザズはサアカを人質に取った•••」

鏡の前で考え事をしていると医療室の扉が開いた。

A-623「対象の起床を確認。•••おはようございます。『レド』様」

人型のロボットからとは思えない覇気を感じた。

A-623「動揺を検知。初めまして、私は飛空艇リトルワールドのメインシステム『エレクトロサーキュラーメカニズム』A-623。ムツとお呼びください」
レド「•••お、おう。よろしく」
A-623(ムツ)「起床直後で申し訳ありませんが、セツナ船長からお呼出しです。船長室にご案内致します」

【リトルワールド】セントラルエリア 船長室
リリーナ、レド、クラウム、セツナ、A-623(ムツ)が船長室に集まった。

セツナ「じゃあ早速で悪いが、お前達2人はあの農村で何をしていた?」

リリーナはレドと目を合わせ、これまでの出来事は喋った。過去を振り返ると、辻褄が合っている様で合っていない現状に全員が疑問に思った。
何故、サントレイヤ王国はドラゴンの血を聖なるものと扱ったのか。
何故、サアカを人質にする必要があったのか。

レド「目的は『呪封された瓶』の回収•••」
クラウム「その瓶を使って誰かを呪い殺すつもりだったとしか考えられないよな?」
リリーナ「お父様はそんな事、何も言ってなかったです」
セツナ「んじゃ、悪竜ガゴンを復活させる為か」
レド「•••いや、ザズはスラム街のNo.2。元貴族だからな、クラウムの線が辻褄として合う」

熟考の末、レドは最悪がよぎった。

レド(俺の正体を知っている•••?)

仮にザズがレドの正体を知っていた場合、出来事に辻褄がしっかりハマり、弟であるサアカを人質に取る理由も出来る。
なら、左腕が呪われる事も知っていた?

次々と最悪が構築されていく。

レド「なら、勇者は本当に勇者なのか?」
クラウム「んで、あのクズが出てくるんだ?」
セツナ「クズと決まったわけじゃ無いが、レドの言い分はそのザズと勇者が繋がってる線が濃厚って事だろ?」
クラウム「なるほど、ザズってヤツもクズって事か」
セツナ「色々、端折るな」

ザズの問題もそうだが、リリーナは学友の心配もあった。あの瓶が無くなってから、ガデラ王は勇者の派遣、巫女の選出を決め、学友ラストは火山へと足を運んでいた。『巫女制度』、それはサントレイヤ王国を順に回り、願いが亡骸を背負い、神殿に祈りを捧げ、火山にその身を投じる事で枯渇した魔力が補給され、バラつきはあるが短くて数年間は安泰に暮らせると伝わっている。
•••もし、この『巫女制度』もザズの計画の一部なら、ガデラ王は既に気付いて、対策を講じている筈と娘であるリリーナは思っていた。

リリーナ「第二都市、エブリックに向かいましょう」
???『ピースは揃った』
レド「あぁ、そうしよう」
クラウム「決断はえーな」
セツナ「•••。」
A-623(ムツ)「目的地を設定しました。リトルワールドはエブリックに向け、自動運行を開始します」

なんだかんだで、エブリックに向け発進した一行は束の間の休息を楽しんだ。
その裏で暗躍する影を警戒しながら。

セツナ「ムツ、魔力濃度感知の履歴を見せてくれ」

A-623(ムツ)はセツナに最近の検知データを渡した。セツナはパソコンに向かって、検知データを探し始めた。

セツナ「•••あった。やっぱり、そういう事か」

セツナは懐から端末を出し、とある人物に連絡を入れた。

???『はい。こちら、ノルド調査局』
セツナ「『魔龍』ガゴンの末端因子を見つけた。サントレイヤ王国に『アルカイド』が関与している。気を付けてくれ」
???『ご心配には及びません。我らは『我ら』ですから』
セツナ「そうかよ、じゃあな」
???『えぇ、貴方様もお気をつけて』

端末ごしに聞こえる無機質な声は静かに冷たく言った。
『アルカイドは能力者を永劫に封印されるのですから』
通信の切れる音が聞こえた。セツナは息を吐いて、船長室から見える船内をただ眺めていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?