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【おもいオモイ】ep2

ザズから受けた貴族の依頼が結果として失敗に終わった。呪封されていたドラゴンの血が暴走し、レドの左腕に付着した事で、不敗兵の魔石を壊す程の強力な力を得た。代わりに、ザズにサアカを人質に取られ、サントレイヤ王国のリリーナ王女と2人、城壁の外へ出された。


【ミーレア地方】サントレイヤ領内 草原
レド「近くの農村で宿を借りるぞ、あんたはそれで良いよな?」
リリーナ「あんた、じゃないです!!」
レド「分かったよ、リリーナ王女様」
リリーナ「王女も要りません!!」

レドは面倒くさそうにリリーナを見た。リリーナは少し不満そうな顔をしながらも、すぐに暗い表情に戻った。

リリーナ「•••私のせい、です。本当にサアカ君を人質にするなんて」
レド「サアカも分かってたんだろ。あいつもスラムで色々と経験してたからな。案外、あっさりしてるだろう」
リリーナ「•••あの、レドさん。これからどうするんです?」
レド「さぁな、国が諦めるまで逃亡するか、逆に勇者を倒すか、どちらかだろう?」

どの道、果てがない。国が諦めるまでには寿命も金も尽きる。だが、仮に勇者を倒せても、『魔王』という異名が広がり、傭兵や冒険者、そしてスラムで人質になったサアカに危害が及ぶ。文字通り、八方塞がりの現状だった。
そんな事を考えながら、草原を歩いていく。

しばらく、歩くと農村が見えた。後ろを振り返るとリリーナの歩幅が最初より小さくなっていた。心なしか足を引きずる様に見えたレドはリリーナに近づき、無言でお姫様抱っこをした。

リリーナ「•••ぇえ!?あ、あの!?」
レド「気付くのが遅かった•••。お前、いつから靴擦れした?」
リリーナ「えっ•••と、半分から、です•••。でも、大丈夫です!!治癒術使えますから!!」
レド「そんな事で治癒術を使うな、適切な処置をすれば、自然治癒で治る。もうすぐ、着く。我慢してろ」

突然のお姫様抱っこに戸惑いつつ、後から湧き上がる恥ずかしさでリリーナは靴擦れの痛みを忘れてしまった。


【ミーレア地方】サントレイヤ領内 農村
農村に着いたレド達は近くの木箱に座った。レドは懐から金の入った袋を取り出し、中を覗くと身支度が出来る程の金とスカイブルーの宝石が入っていた。不思議に思ったレドは考えなしに宝石を取り出すとリリーナが宝石を見て驚いた。

リリーナ「ちょ•••ちょっと!!これって、世界で珍しいクアデラ産の『大地のオアシス』ですよ!?な、なんで!?」
レド「なんでってザズが渡してきた袋だしな」
リリーナ「分かってないです!!」
レド「そんな驚くか?この宝石」
リリーナ「そうです!!その宝石、売れば一等地で豪邸を建てても、余りが沢山出るんですよ!?」
レド「•••『依頼に成功すれば、一生分の金が手に入る』。あの野郎•••」

ザズは約束を果たした。状況が状況でサアカはザズによって人質になり、リリーナと2人、国が諦めるまで逃亡生活が可能になった。なってしまった。
頭の切れるザズはレドがサアカを取り戻す為に戻って来る事を見越したのだ。サアカの救出の機会を潰した。

レド「とりあえず、宿を取ってくる。靴擦れしてるんだから、動くなよ?」
リリーナ「はい。あの、左腕に気をつけてくださいね?」
レド「あぁ、分かった」

レドはローブに身を包み、農村の宿に向かった。扉を開け、中に入ると暇そうな少年が店番をしていた。

少年「•••いらっしゃいませ、宿泊ですか?」
レド「そうだ。2人だ」
少年「はーい、200クークル」

200クークルを払った。

少年「夜はモンスターが活発に動くから、外出ちゃ駄目だよ」
レド「忠告、ありがとう」

宿から出て、リリーナを迎えに行ったレドは農村の農地を見た。すると、リリーナが駆け寄ってきた。

リリーナ「宿、取れましたか?」
レド「あぁ、靴擦れしてるんだから無理に歩くな。明日に支障をきたすぞ?」
リリーナ「はい、ありがとうございます」

レドはリリーナを持ち上げ、宿に入った。少年が部屋の鍵を開けて、親切に扉まで開けてくれた。
部屋にはベッドが2つ。片方にリリーナを下ろした。

リリーナ「そこの男の子、ありがとう。助かりました」

少年は照れくさそうに、レドに鍵を預けて、そそくさと下の階に降りた。リリーナは終始、笑顔だった。
レドは、リリーナのヒールを脱がし、靴擦れした箇所を見た。幸いにも、症状は軽かった。

レド「これなら、塗り薬と靴を変えれば大丈夫そうだな」
リリーナ「ふふっ」
レド「何だよ、急に微笑んで」
リリーナ「いえ、サアカ君の言う通りだなと思って。『兄さんは心配性なんです』って」

ザズと話してる間にそんなに仲良くなっていたのかと思ったレドは少し笑って、サアカの現状を思い出して、傷心した表情になった。リリーナはその表情に釣られ、暗くなった。
ザズは約束を果たした上で自分とスラムの保身の為にサアカを人質に取った。

リリーナ「•••そういえば、自己紹介。まだでしたね?お互い」
レド「ん?あぁ、俺はレド。傭兵と盗賊を生業としている」
リリーナ「私はサントレイヤ王国現王ガデラの娘。リリーナ•ミセス•ブルク。趣味は冒険譚を読む事です」

リリーナが手を出すと、レドは握手に応じた。

リリーナ「レドさん、気になったことが•••」
レド「敬語は要らない。呼び捨てで構わない」
リリーナ「•••あっ、はい。じゃあお姫様扱いはしないでね?」
レド「善処する」
リリーナ「で、気になった事があって。農地のことだけど」

リリーナは宿屋の窓から農地を見た。農地の殆どが荒れに荒れ、残った農地は備蓄にもならない程、少量だった。思えば、宿屋の少年も年若いのに元気がなかった。

リリーナ「最近、昼夜関係なく、モンスターが暴れているとお父様が悩まれてたの。•••この現状を見るに再建するには本当に『巫女』の祈りが必要なの?」
レド「巫女?もしかして、ラストなんとかっていう子が選ばれたとかの話か?」
リリーナ「ラスト•ハイドバルド。エルダ子爵の娘で私の学友なの」
レド「火山に行って、大地を鎮めるとか言ってたな」
リリーナ「•••正確には、巫女を火山に落とす事で、魔力の流れを良くする」

リリーナの言葉に驚きが隠せなかった。
この世界の常識である『魔力』は、元を辿れば無尽蔵に魔力を保有するドラゴンが討伐され、その遺体から異常なまでの魔力が広がり、魔力を帯びた薬草や魔力汚染で家畜がモンスターになったり、荒廃したり、繁栄したりと各地で大きな現象が観られた。
人間も例外ではなく、魔力に耐性を持つ者、持たぬ者と多種多様に枝分かれし、世界を統制する組織『アルカイド』によって区別が付けられた。

レド「つまり、この地方の魔力は枯渇しつつあるって事だよな?」
リリーナ「そうかもしれない•••、お父様は何も教えてくれなかった」
レド「•••よし、なら確かめる」
リリーナ「えっ?」
レド「聖なる儀式は人を火山に落とす事で魔力の巡りを良くするんだろ?俺の左腕はドラゴンの血が巡っている。だったら、左腕を切り落とせばこれ以上、聖なる儀式とやらは100年位はやらずに済むだろ」
リリーナ「自分の体を大事にしてください!!」

当然、リリーナは怒った。レドは心の何処かで、自己犠牲の精神が働いてしまっている。それをリリーナは感じ取った。

リリーナ「確かに、学友であるラストも大事だけれど、それよりもレドは自分を大事にして!!」

リリーナの怒りは最もだった。レドは反省の色を示しながらも、変異した左手が不気味で仕方なかった。切り落とせるのなら、切り落としたい。
レドは生まれた頃から魔力はなく、魔法も魔術も錬金術も使えなかった。投薬方法で魔力を造る手段もあったが、レドはそれすらも出来なかった。
左腕がドラゴンの血で侵食され、諦めていた魔力を得る事は嬉しい事だが、同時に自分が努力した剣術を否定されている気分にもなった。

リリーナ「立て続けに起きて、気持ちの整理が出来ないよ」
レド「今は、リリーナの友人とこの腕をどうするか、だな」
リリーナ「ドラゴンの血が入っているから解呪するにも、古文書を手当たり次第、探さないと•••」
レド「それよりもまずは服だな、流石にこの格好じゃあバレる」
リリーナ「なら、エブリックに行こうよ!!」

この農村から南に歩いた豊富な花々が舞う中規模の町エブリック。サントレイヤ王都と比べれば、品数は少ないが、それでも潤沢な町ではある。

リリーナ「エブリックの町外れに王都御用達の服飾職人が居て•••」
レド「却下。俺達はお尋ね者だ」

しょげるリリーナに正論をぶつけるレド。話してる間に夜が更け始める。すると、外が騒がしくなって来た。モンスター達が活発に動いてる証拠だとレドは気にしなかったが、リリーナは窓を覗くといくつもの灯りが見えた。

リリーナ「レド、あれって王宮騎士と勇者様では?!」

リリーナの言葉で、急いで窓を覗くと王宮騎士と勇者一行がモンスター相手に果敢に挑んでいた。しかも、村の被害も考えない縦横無尽でデタラメな動きで素人の勇者一行が足を引っ張り、王宮騎士は打つ手を失っていた。
リリーナは急いで、下に降りようとするがレドはリリーナの腕を引っ張り、部屋に戻した。

レド「俺達はお尋ね者だって言っただろ!!」
リリーナ「でも、王宮騎士の皆が!?」
レド「王宮騎士は手練れ揃いだろ?部下を信じるもの、上司の務めだ。それに俺達が出来ることはモンスター討伐の協力じゃなく、村民の避難誘導だ!!次期、女王になるんだろ?」

レドの言葉は確かだった。目を閉じてが深呼吸をして、リリーナは力強く縦に頷いた。レドはそれを見て、武器を持って急いで下の階に降りた。

レド「少年、裏口はどこにある?」

モンスターの襲来で怯えた少年が奥の扉を指した。

リリーナ「ありがとうございます!!レド、村民の避難誘導は私がします!!護衛をお願いします」
レド「分かった。農村の隔離シェルターを探してくる!!」
少年「お、お姉ちゃん達、危ないよ!!外にはモンスターが居るんだよ!?」
レド「困ってる奴を見かけたら、助けるのが大人の役目だろ?」
リリーナ「はい、私達が守ります。レド、気を付けて」

レドは縦に頷き、裏口が出る。
王宮騎士や勇者に見つからず、安全な道で村の隔離シェルターを探した。村自体は狭いが政府指定で必ず隔離シェルターが存在するが、何処を探しても隔離シェルターである魔石を使った魔防結界装置が見当たらなかった。
レドは一旦、宿に戻った。このことをリリーナに話すと少し驚いていたが、少年はやれやれと何かを知っていた。

少年「数年前に村長が売っちゃったんだ」
リリーナ「隔離シェルターをですか!?」
少年「うん。お母さんとお父さんが言ってた」
レド「•••そういえば、両親は?昼間も見なかったが?」
少年「僕を置いて、2人別々にどっかに行っちゃったんだ」

少年の言葉に硬直した2人は、色々察した。両親が別々に飛び去ったとなれば、この少年は何年にも渡って独りでこの宿を経営してる。
リリーナは王城の外がそんな事になってることも知らず、自分を恥じた。

レド「とりあえず、ここから離れるぞ。少年、お前も来るんだ」

少年は、レドの手を払って、後ろに下がって横に頭を振った。

少年「お母さんとお父さんが作ってきたこの宿を捨てる事なんて、出来ないよ!!」

少年の大声の主張が外に居るモンスターに聞かれ、大きな振動と共に宿の玄関が鋭い爪によって引き裂かれた。リリーナは咄嗟に少年を抱き寄せ、少年を守る。レドは飛んできた木片を切り落としていった。

レド「これはイノシシか?!」
リリーナ「額に魔石が付いてます!!」

天然の結晶体がイノシシの額に咲いていた。魔力の濃度が濃い所に長居したせいで、イノシシは変異し魔力汚染の結果、モンスターになった。
モンスターになった者は自我を奪われ、魔力の流れに沿って行動する。
そして、外部の衝撃によって動物的本能が刺激され、魔力に書き換えられ攻撃行動に移る。

レド「•••くそっ!!」

モンスターはレドに目掛けて、鋭い牙を振り上げた。短剣は儚くも飛んでいき、モンスターは牙の中心に魔力を込め始めた。
レドが体勢を立て直した瞬間、赤黒い閃光が放たれた。

リリーナ「レド!?」

あまりの衝撃に宿屋は全壊した。赤黒い閃光は音をなくし、モンスターは驚いていた。
レドは赤黒い左手を前に突き出し、立っていた。
ドラゴンの血で呪われた左腕がモンスターの赤黒い閃光を吸収したのだった。そして、レドはモンスターに向かって走り出し、左手で魔石を破壊した。
モンスター化したイノシシは雄叫びとともに倒れた。

レド「•••はぁ、大丈夫か?!2人共!!」
リリーナ「私は大丈夫です!!それより、レド!!」

興奮したリリーナがレドに駆け寄り、左手を掴んで喜んでいた。

リリーナ「まさか、あのビームを吸収できるなんて、驚きです!!咄嗟の判断で、魔石まで壊して!!」
レド「わ、分かった。分かったから落ち着け!!」

リリーナの手を振り解くと、王宮騎士達と勇者がレドに剣を向けて、臨戦態勢だった。その緊張感に包まれ、リリーナを庇うように前に出た。
剣もなく、ただ呪われた左腕だけ。農村民達がレドを化け物のように遠くで睨んでいた。

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