【小説】通り魔と小さな野球グローブ

 少年と大変仲が良かった貧乏な叔父さんは、禿げた頭にいつもボロボロの小さな野球グローブを載せていました。その叔父さんがあるとき事業に失敗して突然少年の前から行方をくらましてしまいました。少年には新品の大きな野球グローブを残して。

 ふさぎ込む少年にさらなる不幸が訪れます。ある学校からの帰り道、突如通り魔らしき男に襲われてしまうのです。少年はさあっと血の気が引いて一目散に近くの公園へ逃げ込みます。けれど、あっと思ったときには、つんのめって転んでいました。西日を受けた黒い影がゆらりと刃物を振りかざします。少年は恐怖のあまり身がすくんで動けません。

 そのときです。男の首がすぱっと切断されて、カキーンと金属バットの打撃音。次の瞬間、黒い頭の影が火の出るような弾丸ライナーでブランコ越しの茜色の空に消えていきました。

 気がつくと、通り魔らしき男の姿はどこにも見当たりません。その代わり目の前には叔父さんからもらった新品の大きなグローブが落ちています。部屋に置いてきたはずなのに……。少年はおもむろにそのグローブを手に取って頭に載せてみます。そのずしりとした重みは叔父さんの悔しさだと少年は思いました。

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小牧幸助様のこちらの企画に参加してみました。

読みやすくいつも楽しく拝読しています。

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