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【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十章「星めぐり」より

皆さんいい顔ですよ。人間は空を見上げると喉が突っ張ります。口を閉じておこうとしても顎の筋肉が疲れますから、どうしてもおのずと口が開いてきます。そうしていつしか馬鹿のようにぽかんと口を開けています。それが今の皆さんです

   でもこの六里ヶ原の星空は、馬鹿のようにぽかんと口を開けてでも見上げるべきものです。

 もし皆さんのうちの誰かが将来詩人や小説家になったら、名もなき花が咲いていたなどと間違っても書いてはいけませんよ。名前のない花はないんです。せめて名も知らぬ花と書いてください。でもいちばんいいのは、花の名前を知ることです

ガキンチョ節!

   星座とは、空の地図なんです。

 蠍の毒は後で効きません。刺された直後に症状が出ます。悪くするとすぐに死にます

なんちゅう天気だ。なんちゅう夏だ。ひでえ冬に続いて、ひでえ夏だ。こんなことは今までになかった。

   この夏はわが社にとって大打撃だよ

 この冬はおめえ、記録的な暖冬だったものを。野沢菜の出来がよくねえつうこと!

愉快な話はいずこにもなし、ちゅうわけか

   へえ、へえ、へえ、まあずこりゃ不景気だつうこと。カオスだった昔の活気がおめえ、懐かしいつうこと

 ソナチネ? なんだそりゃあ? たらちねなら知っているが

ピアノとフォルテ、アウフタクトとアプタクト、レガートとスタッカート、ソナタ形式における第一主題と第二主題、それから和声の緊張と弛緩といった対比は、それ自体が言葉のように語るの。

   拍子が変化している! ほら今は七拍子。ほら四拍子になった。ほら今度は五拍子。次は三拍子だ。すごいなあ、これが変拍子か!

 それだけえどあれだね真壁さん、木村さんはこの頃どうも少しボケたのう

娘が母親を背負って逃げる途中で、岩屑なだれに埋まったと考えられます

   遠足って、もっと楽しいものだと思っていました。今日の遠足は、暗い遠足ですね

   まあこれはこれで現実ですからね、仕方ありません。火山の麓で生きるわれわれが、見ておかなければならない現実です

 ユタカちゃんの経験は、全然豊かじゃないのさ。

どうか草花や野鳥や星のことをよく学んでください。

   悠太郎くんは学生運動って知っていますか?

 しかしかように平々凡々たる私をも、あなたは退けようとはなさらなかった。わが恩人にしてわが倅の命の恩人、増田ケンポウ社長

いつか教えた宮沢賢治の〈星めぐりの歌〉を憶えていますか?

(作品はこちら)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/703314535/113741973