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映画【うんこと死体の復権】レビュー

【 注意 】
※この記事はうんこや死体といった生々しい単語がたびたび出てきます
※多少のネタバレなら気にしないよという方だけお読みください

うんこと死体の復権とはどんな映画か?

うんこと死体の復権とは、探検家で医師の関野 吉晴さんの初監督作品である。
飛行機などは使わずに自らの脚力と腕力だけでアフリカへ渡る旅を記したドキュメンタリー『グレードジャーニー(1993年)』で有名になった関野さん。

関野さんが旅で出会ったアマゾンのマチゲンガ族はうんこや死体を土へ還す習慣があるのを知る反面、うんこや死体は焼かれCO2を排出する日本の在り方に疑問を感じ映画を撮ることにしたそうだ。

映画には3人のキーパーソンが登場する。

1人目は糞土師ふんどしを名乗る伊沢 正名さん。
糞土師とはなんぞや?と思った方も多いだろうが、端的にいうと50年間野糞をし続けて野糞の重要性を伝える野糞の伝道師である。
野糞をするために山を買ったという強者。

2人目は保全生態学者高槻 成紀さん。
玉川上水やその他の場所でタヌキの糞に集まる糞虫や動物の死体を食べるシデムシなどを子どもと一緒に観察する会を開いている。
生物多様性の恩恵を受けている人間が、利便性を追求するあまり生物多様性を壊しかけていることに疑問を投げかける。

3人目は絵本作家舘野 鴻さん。
動物の死体を食べるシデムシを取り扱った絵本を描くほどシデムシや死体に強い興味やシンパシーを抱くアングラ寄りな人。
絵本を通して子どもに生や死の普遍さを伝えている。
映画のなかで「昔はもっとうんこや死体が身近にあった」と言っていたのが印象的だった。

関野さんを中心にユニークなおじさま4人がうんこと死体をめぐる旅に連れていってくれる、そんな映画。

モザイク無しのうんこ(人糞)にあなたは耐えられるか?

はじめにいっておこう。
この映画は始まって数分でうんこ(人糞)がスクリーンに映し出される。しかもこれでもかというくらいどアップで。

綺麗な黄土色のうんこがばーん!

これは私の体感値だけど、映画全体を通して10分に1度くらいの頻度モザイク無しのうんこ(人糞)が出てくる。
「うんこ」という単語にいたっては会話のなかで2〜3分に1回くらいの頻度で交わされる。(もしかしたらもっと?)

あと当然のように蛆虫ウジムシが出てくる。それも何度も。
うんこに群がる蛆虫やその他色々な虫たちは食欲が旺盛であっという間にうんこを喰っていく。
かなりネタバレになるけどうんこが微生物によって分解され土に還ったあと、その土をみんなで味見するシーンもある。

・・・もう一度、いう。

元々はうんこだったもの(土)を、味見するのである。
しかも「ナッツみたいな香りがする」「あぁ、おいしい」とか言って。

私も初めは戸惑ったが人間には適応能力という便利な機能が備わっているので徐々に慣れる。
ガチャガチャで同じアイテムが出てきたようなテンションで
「なんだ、また蛆虫かぁ〜」と心の中で呟く自分の心境の変化が新鮮で、気づいた時には映画に夢中になっていた。

蛆虫にだんだん慣れる私


※予告編では一瞬だけうんこや蛆虫がノーモザイクで出てくるので、耐えられるかどうか試してから映画を観に行くと良いでしょう


この映画を勧める理由

この映画はうんこと死体ばかりを映し出す露悪趣味な映画ではない。

うんこはただ汚く臭いだけの物体ではなくて、人間の目に入らないところで他の生物の餌となり命を支えていた。
死体も同じで、腐臭を放つおどろおどろしい存在ではなくて分解されて土に還ってその土からやがて植物が芽吹き・・・というように自分以外の生物へと変容してった。

普段見ることができないうんこと死体の世界を関野さん達はきわめてポップに見せてくれた。

『ああ、うんこって土でするとわりと短期間でにおいがなくなってこんな風に土へ還っていくのね』
『たぬきのうんこから植物の芽がはえてくる様子ってけっこう感動的』
『死体を食べる虫がいるから山で死んだ動物は土に還ることができるんだなあ』

うんこと死体について知らないことだらけだった。

冒頭で関野さんが「今の私たちは自然の循環の輪から外れてる」といっていた。
映画を通して考えざるを得なかった。
人類が水洗トイレの清潔さの恩恵を受けていることと、清潔さの裏側に追いやられたうんこと死体の価値について。


この映画の面白いところはうんこや死体と言ったネガティブ2大スターに焦点を当てているのになんだか爽やかで愉快な気持ちになってしまうところだ。

うんこや死体は汚い、臭い、こわい、などのイメージがひっくり返り、いつの間にか植え付けられていた既存の価値観から離れ、遠い知らない未知の世界へと連れて行ってくれる旅のような映画なのだ。

きっと映画を見終わる頃には自分が死んだら火葬ではなく土葬にしてくれと思うはず。
大自然のなかで野糞をしてその辺に生えているトイレットペーパーよりもホワホワな野草でお尻を拭いてみたくなる・・・はず!

少しでも地球の環境問題に興味がある人には見て欲しい。
ただし強烈なインパクトがある映画なので覚悟は必要。

なぜ私はうんこと死体の復権を観たのだろう

私はもともとうんこが好きだったわけではない。
死体はそこまで興味はないけど毛嫌いするほど苦手ではないくらいの温度感かな。

ではなぜ私は数ある映画のなかで【うんこと死体の復権】を選んだのだろうか。


振り返るとそもそものきっかけは子供を産んだことだと思う。

2019年に息子を産んだあと、徐々に夏の気温が年々上がっていきニュースでは『猛暑』から『酷暑』へと表現が変わっていった。
春や秋は短く感じるし冬もあまり寒くないのでお気に入りのニット服が活躍する機会は減った。
小学校では熱中症になるからと真夏でもプールに入れない日があると聞く。

初夏に3歳の息子と手を繋いで公園へ向かおうとしたが暑すぎて歩こうとしない。
まだ幼い息子は体温の調節機能が未発達ゆえに汗をうまくかけず顔を真っ赤にして「もうあるけない・・・」と言って道端で座り込む。

私が小学生のころ、夏になるとセミ取りをしに公園へ行って帰宅してからおやつにかき氷を食べ扇風機の横で昼寝した。
もちろんエアコンを使わないと寝れないような熱帯夜もあった。
2024年の今現在の夏ではエアコンを24時間稼働している部屋にいないと幼い息子の命にかかわる。

ここ数年、夏がくるたびに強く不安に思う。
自分の息子が大人になった時この世界はどうなっているのだろう・・・。
将来もし息子に子どもができたらその子達はどのような世界で生きていくのだろう。

暑さに顔を真っ赤にする3歳の息子

この子はあの心地良い夏を知らない。
もしかしたらこの先もずっと知らずに生きていくしかないのかもしれない。
夏休みに学校のプールで友達と泳ぎ、日陰の涼しさに助けられながらおしゃべりして帰る平穏で幸せな道のりを味わえないのかもしれない。

日常の会話のなかで息子に「うんちってどこにいくの?」と聞かれたこともあった。
見えないところに長い管があって、そこから流れて施設で消毒されて最後は海に行くんだよと説明した。
見えない長い管。うんこは臭くて邪魔だからすぐに見えなくするのが正解という暗黙の常識。(かと言ってボットン便所の時代に戻りたくはないけどね)

6月に子どもとミニトマトの苗を植えた。どうやったら甘いトマトになるのか知りたくて私は土壌や微生物についての本を読むようになった。

小さな子供と接していると現代社会が抱えるひずみについて考えざるを得ないし、自然と地球環境に目が向くし、そうなると自然とうんこと死体の映画を観るようになるのだ。

チケット売り場で「うんこの映画のチケット1枚ください」といった時はさすがに少し恥ずかしかったけど、子供が生まれてから毎日のようにうんこをチェックしてお尻を拭いて臭いを嗅いでいるとうんことの距離がグッと縮まって抵抗がなくなった。

要は慣れだな。
水洗トイレに慣れてる私たちだけど、水洗トイレを突然だれかに取り上げられたらまたボットン便所に戻ってそれもきっといずれ慣れるはず。

話が逸れてきたけどようは子どもを産むと嫌でもうんこと死と距離が近くなってこういう映画に惹かれるということだと思う。

身近な人に映画を勧めてみたら

帰省中に映画を見に行ったので、映画館から実家に帰ったあと父親に聞かれた。

父「映画、なに観てきたん」
私「これ」

映画好きの父にチラシを見せると
父は「ふーん」といって違う部屋へ行ってしまった。

思ったよりも反応が薄いなと思いながら気を取り直して夫にも勧めてみた。

夫「映画どうだった?」
私「面白かったよ!モザイクなしでうんこ出てくるけど」
夫「え・・・」
私「あと蛆虫がフツーに出てくる。うじゃうじゃ〜!って」
夫「そういう映画か・・・」
といってこれまたどこか別の部屋に去っていった。

どうやらそういう映画から人は目を背けて別の場所へ行きたくなるようだ。
いや、ただ私が映画の魅力を伝えられてなかっただけかもしれない。
うんこと蛆虫といったパワーワードだけで人を惹きつけるのは無理があった。

だから私はnoteにこの想いを託した。
できればうんこと死体から目を背けないでほしい。凝視しろとはいわないから。
うんこは毎日のように私たちの体のなかから出てくるし、死体は生物がいずれたどり着くゴールのようなもんだし、身近な存在なんだよ。普段は忘れているけど。

おわりに

うんこと死体の復権の魅力は伝わっただろうか。
ぜんぜん伝わらないしむしろ観る気なくしたわ、とかいわれたら関野さんに謝るしかないけどここまで読んでくれた人ならたぶん観てくれるよね・・・?

余談になるが2024年9月27日から21_21 DESIGN SIGHTで「ゴミうんち展」という展覧会がはじまる。

世の中はうんこと循環に再び目を向けはじめているのではないだろうか?

将来、水洗トイレの他に循環トイレなんていって土に還すトイレができるかもしれない。

もしかしたらうんこと死体が復権する日は少しずつ近づいてきているのかもしれない。


★最後までうんこと死体のお話についてきてくださりありがとうございました。


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