「光る君へ」うろ覚えレビュー《第24話:忘れえぬ人》
■カロリー高めな24話
24話はなかなか内容が充実した回であった。
いろいろあるが、目立つ事柄をピックアップしてみた。
・藤原宣孝のまひろへのプロポーズ
・周明のまさかの暴走
・乙丸の中身
・藤原伊周と隆家兄弟への恩赦
・さわの死
・一条天皇と定子の再会
封を切る前のマヨネーズのチューブのように、ドラマの中身は充実していて、ツヤツヤでパンパンだ。
まだ他にもあったかもしれないが、上記だけでも過剰カロリーだろう。
よい意味で。
■宣孝という人物の器
越前にやってきた藤原宣孝によるまひろへのプロポーズ。
それを目撃したのは、23話の終盤だった。
我々視聴者の期待をアオリに煽って音楽に乗せてたと思ったら、ストンと終わった。
かと思えば、24話ではさっそく続きを見せてくれた。
結果、宣孝しか勝たん。
「わしの妻になれや」とまひろに言った彼は続ける。
「戯言ちゃうで」
「あの宋人(周明)と海を渡ってみもやなぁ、忘れられん人(道長)からは逃げられへんやろ」
突然のプロポーズに驚きながら、まひろは尋ねる。
「忘れられへん人がいてもええのんですか?」
するとコンマ1秒の速度で
「ええで。それもお前の一部や。丸ごと引き受けるいうんはそういうこっちゃ」
と即答。
大人すぎる。ああ。
実はその場面の中で宣孝が発したあたしのお気に入りの名言は以下である。
「自分な、自分が思てる自分だけが自分やないねんで、わかってんの、自分?」
みたいなやつ。
含蓄あるじゃないですか。
考えたことなかったけど、そうかな、と思わされた。
あたしが過去にこれに似た言葉を聞いたことがあるとすれば、
「ちゃうちゃうちゃうんちゃう?」
(訳:チャウチャウではないのではないですか?)
くらいである。
器の大きいところを見せた宣孝。
「都で待ってるで」
そんな言葉を残して越前から都へと戻っていったが、まひろを待つ、という余裕の貫禄を見せた。
年齢的には父娘ほどの年齢差の宣孝とまひろ。
のちにまひろは、父親の藤原為時に宣孝の妻になるつもりだと告げるが、為時は驚きのあまりまたもや腰をやってしまった。
最近まひろの父はマンガ的だ。
実際の研究によると、どうも紫式部は越前に行く前から父親のはからいもあって宣孝との結婚話が進んでいたとも言われる。
■周明、安くて殘念賞。まひろ、敢闘賞。
周明が殘念極まりなかった24話。
『店長がバカすぎて』(早見和真著)ではなく、『周明が安すぎて』である。
周明は中国語の勉強を理由に頻繁にまひろと会い、全速力で2人の距離を縮めていった。だが、視聴者としてはすでに周明の下心を知っているからすべてが白々しくて見ていられない。
「2人で宋へ行こう」
「左大臣に手紙を書いてくれ」
まひろを抱きしめて、キスまでしようとして・・・。
それにしても、平安時代の恋人関係にある男女というものは、普通に会えばキスとかしていたのですかね。想像ができません。
さて今回、2つの予想が裏切られた、と感じている。
まずは周明が安っぽかった。
本当は彼にはもっと狡猾で、目的のものを手に入れると同時にハート泥棒までやってしまうような知能犯を期待していたんだが。
周明の行動は性急にすぎたし、短絡的すぎた。
そして、対するまひろは想像していたより賢かった。
さすがにあの周明の安っぽい演技にひっかかるほど彼女は愚かではなかったのだ。
周明のキスを止めた。
「抱きしめられたらわかるねん」
抱きしめられた感触で周明の演技を見抜いたのだ。すごいね。
しかし、この場面で同時にあたしも我に返った。
そうか、まひろは紫式部だもん。主人公じゃん。
簡単に周明の手に堕ちるなどと、そこまで彼女を見くびってはいけないのである。彼女は聡明なあの紫式部なのだ。
周明の短絡さはまひろへのナンパテクニックだけにとどまらなかった。
色仕掛けが通じないと見て取ると、すぐさま花瓶を叩き割って、その破片を使ってまひろを脅し、都の左大臣(道長)へと手紙を書かせようとしたのだ。
平安時代のドラマが妙に現代ドラマっぽくなった瞬間である。
周明よ、そういうの、あんたの頭で考えたらまずいってわかるんじゃないの? 短気なの?
それだけ周明という男は、人生のどん底から這い上がり、中国社会の中で暮らしながらも、日本人として肩身の狭い思いをして生きてきた。
そのステータスからの一発逆転の人生を渇望しているのだ。
悔し紛れのように彼はまひろに告げた。
「宋はお前が夢に描いているみたいな国ちゃうで。日本を歯牙にもかけてへんし、見下してるで」
まひろを思い通りに動かすことのできなかった周明の悔し紛れの言葉のようにも聞こえるが、それこそが今まで周明が身にしみて知っていた中国の事実を吐露したに過ぎない。
宋という国にあこがれるおめでたいまひろに対して、身にしみて実情を知っている周明は、イライラしたに違いない。
今にも自分に最も近しい人物になりそうだったまひろという女性が、自分の短絡的な行動のために離れてしまった。思い通りにいかず、裏切られたと感じてしまった周明は、反動で大切だったはずの女性を傷つけ、関係を壊し、彼女の前に再び現れることを避けたのである。
周明とはギリギリで生きていたあやうく、傷つきやすく、哀しい男だった。
周明の計略は失敗に終わった。
「入り込めませんでした、あの女の心に」
彼は宋の商人のリーダーである、朱にそう告げた。
それに対しての朱の言葉は、
「お前はんの心の中からも消え去るとええけどな」
であった。
そう言われた周明は、まひろとの関係が崩れてしまってはじめて彼女への気持ちに気付いた。周明も、根っからの悪人ではないようである。
これから周明はどうなるんだろう。
これでバイバイなら寂しすぎる。
■乙丸、下男の矜持
他にも書きたいことはあるが、あまりに長くなるので割愛し、最後に乙丸についてだけは書いておきたい。
周明との出来事にショックを受けたまひろが、食事も摂らないでいた。
そんな彼女を心配したのが、健気な下男の乙丸だ。
まひろのことを「姫」と呼ぶのは、まひろの弟の乳母である”いと”と、この乙丸くらいのものである。
だけど、乙丸にとってまひろはやはり大切なお嬢様で、どこか憧れの対象でもある尊い「お姫様」なのだろう。
乙丸見てると、白雪姫と一緒にいる森の小人のイメージがして仕方がない。
そんな忠実な下男である乙丸に対し、まひろは結婚しない理由を唐突に問う。
直球の質問にタジタジしながらも、乙丸がその質問に訥々と答えるその答えと態度はあまりに尊かった。
彼は、ちはや(まひろの母)が殺害されたときに彼女を守ることができなかった自分を責め続け、せめて姫様(まひろ)だけは守り通そうと自分に誓っているからそれだけで日々精一杯なのだと語った。
それこそが彼が結婚しない理由だった。
まひろの家は上流階級の貴族ではない。そんな家の下男の乙丸は、ほぼ庶民だろう。だが、乙丸は彼なりに分をわきまえ、誠意を持って仕事に向き合い、プライドを持って最上を尽くそうと頑張っているとても健気で誠実な男だったのだ。
ちらーりと見たネットでは、「乙丸はこのドラマの良心だ」などという意見もあり、全く同感である。
まひろって、幸せな女性だな、とつくづく思う。
乙丸を終身雇用してあげてほしい。