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つれづれ雑記*上履きを洗う、話*

 n十年前、自分の子どもが小学校に通うようになって1番驚いたのが、上履きが不必要だということだった。
 
 え、土足で校舎に入るの、とびっくりした。
 同じ市内の小学校出身の家人に聞くと、
「昔からそうだよ」
と言う。(私は隣の市の小学校だった)
 ところ変われればということか。

 私がずっとずっと昔に通っていた小学校では上履きがあった。(現在は知らないのだけど、どうなっているのかな)
 バレエシューズ、というのか、キャンバス布地で色は白、つま先が底から繋がったビニール?ゴム?になっていて、甲のところに幅広ゴムが渡してあるスリッポンタイプ。

 それが当たり前だったので、全国共通だとずっと思っていた。

 私は小学生の頃、週末にこの上履きを洗うのが嫌いだった。
 当時は学校は週休2日でなく、土曜日は半日授業があった。
 土曜日になると上履きを持って帰ってきて、ベランダに置いたバケツに水をはり、上履きを浸けておく。吉本新喜劇を見ながらお昼ご飯を食べた後、上履きを洗う。
 現在は、汚れが落ちるズック靴用洗剤、とか、たちまち真っ白!スニーカー用洗剤、とか、良い製品がたくさん出ているが当時はそんな結構な物はない。
 粉の洗濯用洗剤を靴洗い用の取っ手のついたタワシに少量つけて、それで洗う。子どもの足の皮脂は靴下を履いていても侮れず、靴の中も結構汚れている。タワシを中に差し入れてゴシゴシとこする。それから甲、横、後ろ、底も忘れずにゴシゴシ。
 しかしこれが、全然きれいに白くならない。
 いくら力を入れてゴシゴシやっても、うーん、これ、きれいになってるの?という感じ。達成感に乏しい。
 ちっともきれいにならないのには、実は理由があった。
 
 私が通っていた小学校は創立100年近くという古い学校で、私が在学していた頃はまだ、ほとんどが木造だった。
 床は当然だが板貼り。そして、床には「油びき」がしてあった。
 「油びき」って何?  
 そう思われる方もおられるかもしれない。

 木造校舎の木の床に防腐と傷防止のために一種の油を吹きつける、あるいは塗り込む、という処置のことだ。これも、今はあるのかな、私にはわからない。

 地域によっては「ワックスがけ」などと言ったこともあるようだが、少なくとも私が小学生だった頃に使われていたのはワックスなどでは断じてない。掛け値無しの油だった。 
 あれはどういう成分だったのだろう。色も濃い褐色だったし、何だかコールタールみたいな匂いもした。今考えてみても、あまり身体に良さそうなものではなかった。

 油びきしたばかりの床は匂いがきつい(きつ過ぎる)ので、だいたいは夏休みなどの長期休みの間にしていたが、たまにどういう都合なのか普段の日曜日の間に油びきをすることもあって、月曜日の朝に登校してきたら「うわっ」ていうこともあった。

 油は透明ではなく濃い褐色なので床も茶色に染まる。うっかりプリントやノート、教科書なんかを落とすと悲惨なことになった。当然、上履きも。
 子どもの歩き方は荒っぽいので側面を油で汚れた底で蹴飛ばす。自分で自分の脚を踏んだりしようものなら、甲の上にくっきり茶色の脚型が付く。
 1週間そうやって過ごした白い上履きは見事にあちこちが茶色く汚れていた。
 
 上履きを洗剤で洗っても完全には落ちないのはその汚れの大部分が油汚れだからだ。    
 いつも何となく、落ちたかなー、というところで妥協するしかなかった。
 しばらく経つとその汚れがだんだん定着してきて、全体的に薄汚れた感じ、がデフォルトになってくる。
 特に男子の上履きなどは、お醤油、それも濃口醤油で煮染めたような色をしていた。
 
 当時はこれが当たり前だと思っていたから何の疑問も持っていなかったが、今から思うと、どうして油びきをした床でわざわざ白い上履きを履いていたのか、わからない。
 上履きを履くのならわざわざ油(それも茶色の)をひく必要はないだろうし、どうしても油をひきたければ土足にすればよかったのではないかなと、思ったりする。

 あの油びきの油の匂い。
 決していい匂いではなかったが、小学校時代を思い出すときには必ず、あの匂いが記憶と一緒によみがえる。
 
 
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#小学校の思い出
#上履き
#油びきの床って濡れると滑るんだよねー