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つれづれ雑記*最終手段は、の話*

 睡眠をとることはより良い人生を過ごすうえで、非常に重要な条件だろう。
 夜にぐっすり眠れて朝はスッキリ目覚める。
 それだけでその日一日勝ったも同然。
 
 現在の日本、国民のかなりの割合が睡眠に悩みを抱えているらしい。
 寝つきが悪い、いったん眠ってもすぐ目が覚める、夜中に目が覚めるともう眠れない、朝起きても寝た気がしない…などなど。
 より良い眠りを約束する(という)枕、布団、マット、パジャマ、室内アロマ、照明などのグッズももちろんだが、その他にもよく眠るためのライフハック(新しい言葉を覚えると、すぐに使いたくなる悪い癖…)が新聞にもテレビにもネットにも、山のように溢れている。
 曰く、寝る前30分前までに入浴する、湯は熱めがいい、いや、ぬるいほうがいい、浴槽にどっぷりつかるほうがいい、いや、半身浴がいい、スマホは寝室に持ち込まない、ミステリーだのホラーだの刺激の強い本やドラマなどは寝る前には読まない見ない、コーヒーは寝る2時間前まで、直前はホットミルクがいい、室温は何度で湿度はどのくらい…& more。
 
 日本人、どんだけ眠れないのか。
 真面目過ぎて、ストレスが溜まりやすいのかな。身体的疲労より精神的疲労が多い?のだろうか。
 
 ちなみに、私は眠れなくて困ったという経験はほぼ、無い。(そりゃ、アンタはそうだろうよ、という声が聞こえた気がするけど)
 いつでもどこでもすぐ眠れる、というほど神経太くはないが(そうなんだー、意外、という声も聞こえた気がするけど)いつもの自分の寝床ならば普通に眠れる。
 人間、年齢が上がると眠れなくなる、とよく言われるが、私に限ってはあまり当てはまらないようだ。
 
 この歳になった今も、眠れなくて悩むことはない、その代わり、と言っては何だが、学校に通っていた頃は授業中によく睡魔に襲われて困った。

 特に寝不足というわけではない。ただただ、眠い。

 初めて授業中に完全に記憶がなくなったのは中学2年、くらいだったか。
 英語の時間だったと思う。
 一瞬後、ヤバっ、と目を覚ましたとき、焦り過ぎて寝ぼけたのだろう、なぜか指名された、と思い込み、いきなり立ち上がって教科書を音読し始めた。
 すぐに教室の妙な雰囲気に気づく。先生や周りのクラスメイトのポカンとした表情。一瞬の間の後、クスクス笑いが広がる。
 あれれ?と思って先生を見ると、先生は苦笑しながら、「まあ、その熱意を買って、続けてもらおか」と言った。
 教室は大爆笑。私は顔から火が出るかと思った。

 まあ、ここまでの大失敗は後にも先にもこれだけだが、とにかく授業中に眠くなるのには困った。
 特に午後からの授業。
 おなかはいっぱいだし、窓からお日様がポカポカと照ってるし、ここに微風がそよそよと吹いて、念仏みたいな(失礼)先生の講義の声が聞こえてこようものなら、それはもう、子守唄のようなものだろう。
 
 しかし、眠ってしまうわけにはいかない。
 クラスメイトの中には、早々に諦め、教科書の陰で爆睡している者もいたが、私にはそこまでの度胸はなかったし、出来れば寝たくない。

 それでも眠いものは眠い。
 どうしようなく眠くなってきたとき、目を覚ます方法をいろいろ考えた。
 まずは、首をそろそろと左右に動かしたり、机の下で脚をバタバタしたり、手を握ったり緩めたり、とにかく身体を動かす。
 次に、鉛筆でノートや教科書に何か書く。落書きでもOK。お定まりの文豪の肖像画にイタズラ書きでも、好きな歌の歌詞でも可。
 いよいよヤバいときは、手の甲や前腕の内側をつねる。深くつねるのではなく、浅くつねったほうが痛いということをこの頃、身をもって覚えた。
 さもなくば、尖った鉛筆かシャープペンシルの先で手の甲を突く。
 どれも少々痛いが仕方がない、というか、痛くなければ目は覚めない。(これ、今やると、あらぬ疑いを受けますね)
 でも、本当に本当に眠いときは、この程度では全然効かない。何ならシャーペンで手の甲を突いたまま、意識が飛びそうになる。
 
 こうなった場合は、どうするか。
 
 実は最終手段がある。
 出来ればあまり使いたくないのだが、これは絶対的に効く。

 最初は偶然だったのだけど。
 英語の時間、めちゃくちゃ眠くて、机に肘を突いたまま意識が飛んだ(らしい)。
 次の瞬間にドサッという音がして、目を開けた。落ちたのは机の端に置いていた私の英和辞典だった。眠くてボーッとして、肘で押して自分で落としまったのだ。厚さ5センチくらいある分厚い辞書が落ちるとなかなかに大きな音がする。
 びっくりした先生がこちらを見ているし、クラスメイトも皆こちらを見ている。
 小さな声で「すみません」と言いながら辞書を拾う。その後で気付いた。眠気が消し飛んでいる。そして、そのまま、授業が終わるまで眠くならなかったのだ。

 おー、これだ。
 これを使えば、どうしようもなく眠くなったときでもおそらく目が覚める、だろう。

 皆にじろじろ見られて恥ずかしいのは恥ずかしいが、でも、それすらも目覚ましになる。

 そして、さらに私は考えた。これをもっと進化させよう。

 当時、中高生の間で流行っていた、缶ペンというものがある。
 あれは、ブリキ製だろうか、とにかく金属製のペンケース。蓋を蝶番で開け閉めするタイプがほとんどだった。
 授業中にこれを落とすのだ。
 当たり前だが、結構な音がする。言うまでもないが辞書が落ちる音とは比べ物にならない。そして、金属製なので落としても割れない。
 これなら、間違いなく、絶対に目が覚めるだろう。
 
 ただ、何度もやると、まず先生に目をつけられて叱責される。理由を聞かれて、眠気覚ましです、なんて言えるはずもないし。
 一度しか使えない、まさに最終手段、最終兵器、リーサルウェポンだ。
 本当にどうしようもなくなったとき、私には、これがある。

 
 ……先日、何の話からだったか、そんな話を娘らにした。
「それで結局、目、覚めたん?」
「実はね、やったことないんよ」
「?」
「いや、あのね、ものすごく眠くなって、缶ペン、どのタイミングで落とそうか、とかドキドキしながら考えてたら、そのうちに目が覚めるんよね。目が覚めたんやったら、別に落とさんでもええやん?」
「……なんじゃそりゃ」

 ということで、私の最終兵器は結局、一度も使ったことのないまま、御蔵入りとなった。

 ……どなたか、会社での、ものすごく眠い会議で一度試してみませんか。絶対に目が覚めると思いますよ。たぶん。(責任は持ちませんが)


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