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つれづれ雑記*学ラン、の話*

 
 中高校生の男子の制服に、学生服、いわゆる学ラン、と呼ばれるものがある。
 色は黒とか紺、詰襟に金属ボタンのあれ、である。
 我が家は娘2人なのでほぼ縁がなかった。

 軍隊みたいで前時代的だ、とか、あの窮屈な造りは青少年の健全な育成を阻害している、とか、一部ではいろんな批判を受けているみたいだが、私は、こっそり、そうかなぁ、学ラン、カッコいいやん、と思っている。(あくまで個人的勝手な主観です)
 
 が、時代の流れには逆らえないのか、最近は前ほど見なくなった。
 新設校ではこの時代がかった(?)制服は採用されないことが多いし、元々学生服だった学校もどんどんブレザーに変更になったり、中には制服そのものが廃止されたりすることもあるようだ。

 何となく残念だなぁ、なんて思うのは、事情を知らないおばさんのノスタルジー、だとは思うけど。
 
 私は中学生の頃、父の仕事の関係で海外に住んでいて、現地の日本人学校に通っていた。日本人学校は制服がなく、みんな私服で通学していた。
 中3の夏、高校受験のために帰国した私は、転入した中学で半年だけ、制服を着ることになった。
 その学校の制服は女子は紺のセーラー服、男子は詰襟の黒の学生服だった。
 
 セーラー服もだが、学生服を間近で見るのは初めてで(漫画で見たことはあったけど)あー、襟はああいう具合になっいるのか、ボタンは本当に金属製なんだな、などと改めて思った。

 ある日の授業中、ぼんやり前を見ていて前の席の男子生徒の背中が気になった。何が引っかかったのか最初はわからなかったが、その男子生徒の隣の席の別の男子生徒の背中と見比べ、その違和感の正体がわかった。
 
 ぱっと見は同じようだけれど、私の前に座っている男子の制服と隣の男子のそれは、何だかいろいろ違うのだ。

 まず色。
 黒という色は、みんな同じに見えるが実は何種類もある、とはよく言われることだ。
 式服礼服を選ぶとき、あまり安価なものを買うと他の人と並んだときに明らかに色が違って見えてカッコ悪いから、できるならそこそこの値段の物を張り込んだほうがいいと、昔、職場の先輩に言われたことがある。

 私の前の男子(仮にA君としよう)の制服の色は深くてとてもきれいな黒だった。生地もなめらかでツヤッとしていた。
 隣の男子の制服が特にどうというわけではないのだけれど、A君のと比べると色も生地の風合いもどうしても見劣りがした。と言うか、A君のものが良過ぎるのだ。

 そして、A君の制服の襟は隣の男子のそれと比べて心持ち高いように見えた。
 更にはよく見ると、A君の制服の背中には何か、ファスナーのようなものがついていた。
 とても巧みに縫製してあり、ファスナー自体も金具も隠れていてよく見ないとわからないのだけど。
 このファスナーは何のためなのだろう。
 考えてみてもわからなかった。

 その後も、A君の制服をさりげに観察していると、遠目に見てもやはり他の男子生徒の制服と違う。
 着丈も微妙に長いし、ウエストが緩やかに絞ってある。
 決定的だったのは、裏地。
 エンジ色のツヤツヤした裏地に何か、唐草模様(今から思うと、ペイズリー柄?というやつだったのかも)みたいな柄が見えた。
 他の学生服の裏地は知らないが、少なくとも、あれが学生服のデフォルトではあるまい。

 あれは何だろう?
 学生服をカスタムしているのだろうか。
 確かに見た目はちょっとカッコいいけど、あれは、学校的にはあり?なのかな。
 ちらっと見たことがある少年漫画(「愛と誠」ぐらいしか知らないが)では、確かにどう見ても学生には見えない学生たちが、制服を着崩して(?)いるのを見たことはあるが、実際にいるとは思わなかった。

 半年後、中学を卒業し、私が進学した高校は男子も女子もブレザーの制服だったので、残念ながら私と学生服の縁はこれで切れてしまい、その不思議な学ランのことはすっかり忘れていた。

 それからn十年が過ぎ、我が家の娘らが入学した地元の中学はセーラー服と学生服だった。
 夕食のとき、制服の話題になり、私は昔見たその不思議な学生服のことを思い出して家族に話した。
 娘らは「何それー」と呆れていたが、家人は「昔はおったなぁ、そういうの」と言う。

 家人によると、昔の中学では、入学当初は全員一律同じ形の学生服を学校を通じて申し込むが、学年が進んでサイズが合わなくなって買い替えるときには、それぞれ個人で制服販売店に行って購入したそうだ。あくまで家人の学校の話なので、地域差はあると思うが。
 もちろん、最初に買った制服と全く同じものも売っているが、ところどころ変えてある、たとえば、着丈、袖の幅、襟の高さ、ウエストの絞り込み、裏地、などがカッコよく(?)カスタムされている物も売られていた。店によっては、より細かい注文にも応じてくれたとか。
 そしてそういうのがあったら、まあ、そちらに心が動くのも中学生男子だろうか。
 学校側も少々のことなら大目に見ていたようだ。

 学生服の上着の長いのを長ランと呼ぶ。
 これに合わせるズボンは、ボンタンだのラッパだのと呼ばれるダボダボのズボン。
 一般的に、長ランは膝の少し上くらいまでの長さで、ズボンは腿あたりを掌で掴めるくらいのサイズ感。
 しかしながら、そこは中ニ病理論で「上着の丈は長ければ長いほど、ズボンはダボダボであればあるほどカッコいい」みたいな感じでどんどんエスカレートしていって、上着は下り階段で後ろを引き摺るほど、ズボンは片方に両足が入るほど、という具合の、まるっきり漫画に出てくるヤンキー(死語?)も、中にはいたようだ。

 そんな話をしていた頃、ちょうど「クローズゼロ」という漫画が原作の映画が流行っていた。
 小栗旬さんが主演だった。
 山田孝之さんとかも出ていたように思うけど、内容はあまり覚えていない。
 覚えているのは、小栗さんが着ていた珍妙な(失礼)学ラン。上着が極端に短くてウエスト部分くらいまでしかない。

 あの短い学生服を私は実生活で見たことがなくて。
 家人にその話をすると、あれは短ランと言って、当時この辺り(関西付近)ではあまり見られなかった、ということだった。聞いた話ではその頃は九州で流行っていた、らしい。
 
 学ラン、いや、カスタム学ランにも地域色や流行りがあったのだろうか。

 ちなみに、例の同級生の背中のファスナーについては、家人も首をかしげていた。
 あれはいったい、何のためのカスタムだったのだろう。
 未だもって、謎のままである。

#日々のこと #エッセイ
#学生服 #セーラー服
#あのダボダボズボン歩きにくくないのかな