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つれづれ雑記*待ち合わせ事情、の話*

 最近は、待ち合わせ、という言葉の意味が、以前とはずいぶん違ってきているように思う。

 お若い方々はおそらくご存知ないだろうし、そうでない方々も、もしかしてもう覚えておられないかもしれないが。
 恋人、友人、家族、取引先の人、その他、誰かと外で待ち合わせて会う、というのは、昔はほんのちょっとタイミングが狂うと大変なことだった。
 
 たとえば、○月△日の××時にA駅の南改札で会いましょう、と約束する。
 それぞれに時間に間に合うように家を出て目的地に向かい、普通にそこで会えたら、特に何も問題はない。
 ただ、何が起こるかわからないのが世の中。
 たとえば、電車が遅れるとか、乗るバスを間違えたとか、途中で忘れ物に気づいて取りに帰らなくちゃならなかったとか、坂道を登っていて先を歩く老婦人の紙袋の中に入ってたオレンジが全部転がり落ちちゃったとかで、時間どおりに着けないことがあったり。
 たとえば、待ち合わせ時間が、××時だったか、◽︎◽︎時だったか、場所が南口か中央口か、忘れてしまったとかメモを無くしたとかで、正確な待ち合わせ場所や時間がわからなくなったり。
 
 今なら、携帯電話(スマホ)で簡単に連絡が取れる。
「ごめーん。おばあさんのオレンジ、拾ってあげてて。ちょっと遅くなるかも」
「あの、すみません。待ち合わせは南口でしたっけ。中央口でしたっけ」

 でも、携帯電話がなかった時代では、いったん外に出てしまうと、お互いに連絡を取るというのは非常に難しいことだった。

 昔から、私は人を待たせるのが苦手で、約束の時間にかなりの余裕をみて家を出る。
 両親が共にそういう人だったのと、学生時代に入っていたクラブが集合時間にはめちゃくちゃ厳しかったので更に拍車が掛かり、私は今でも、待ち合わせの時間の必ず15分前には到着するようにしている。
 
 さて、私にはひとり幼馴染がいて。
 小学生低学年の頃からだから、もうかれこれ半世紀近い付き合いになる。
 この彼女が、若い頃、恐ろしく時間にルーズだった。(だった、と過去形なのは、彼女の名誉のために言っておくと、今はそこまでひどくはないからだ)
 学生時代、彼女と買い物とか食事とかで待ち合わせの約束をすると、時間どおりに来たためしがなかった。
 30分くらいの遅刻はザラで、ときにはそれ以上、遅れてくる。
 あまりに遅いときは、さすがに少し心配になるし、腹も立ってくるが、とにかく出先では連絡の取りようがない。普通なら、そこらの公衆電話から彼女の家に電話するくらいしか手段はないのだが、実は当時、彼女は寮暮らしで電話は管理人室にしかない。家族でもないし緊急事態でもないのに、わざわざ電話するのは気が引ける。
 仕方ないので、毎回、申し訳なさそうな顔をして「ごめーん」と走ってくる幼馴染が来るまで、ヤキモキしながら待つことになる。
 
 しかし、おかしなもので、映画とか旅行で電車に乗るとか、そういう絶対的に時間の制約があるものの場合は、彼女は遅れてこない。つまりは、確信犯(この使い方は合っているかな)なのだ。
 いい加減、腹も立つが、しかし、そこはまあ、腐れ縁、というか、何と言うか、怒りきれない私も悪かったのだろう。
 今から思えば、本屋とか喫茶店とか、時間の潰せるところで待ち合わせればよかったのかもしれない。
 
 そういえば、昔、駅の改札近くには伝言板があった。1メートル四方くらいの黒板で、待ち合わせている相手宛に「○○時まで待ってました。来ないので先に行きます」とか伝言を書き込む。まあ、相手が来なければ見ないのだから、そのときはこれも意味はないのだけど。
 あの伝言板、私は使ったことはないが、ドラマや少女漫画などでは、ちょっとしたロマンチックな小道具になっていたように思う。

 そうだ、それから、昔はデパートや駅なんかで、構内?店内?放送っていうのもあった。

 〜ピンポンパンポーン…
 ○○からお越しのS様、S様、お連れの方がお待ちです。中央出口までおいで下さい。
…みたいな。

 以前、家人から聞いた話だが、ずっと昔、休日に同僚数人と出勤していたとき、某在阪球団のホームグラウンドに贔屓チームのゲームを見に行っている別の同僚を、球場に電話して呼び出しをしてもらったことがある、と言っていた。

〜ピンポンパンポーン…
 ○○からお越しのK様、お勤め先からお電話がありました。至急折り返し、ご連絡をお願いします〜

「何か用事があったん?」
と聞くと、
「いや、オモロイかなと思て」
 ……いやいや、めっちゃくちゃ迷惑やろ。
 当時の甲子園(あ、言っちゃった)の職員の皆様、お手間をとらせて大変申し訳ありませんでした。

 こんなことも、今は昔になった。店内呼び出しなんて聞かなくなったし、駅の伝言板もなくなった。
 みんなが電話を携帯していて、いつでも誰でもどこでも、すぐに連絡がつく。
 とても便利だし、安心だ。それに難癖をつけるつもりは毛頭ない。
 娘らは、「昔、待ち合わせとかどうしてたん? 途中で変更も出来へんし、何かあっても全然わからへんやん? 怖いなぁ」
とか言う。

 うーん。それはそうだけど。
 でも、そうしか出来なかったし、それで何とかなっていた。今でも、もし何かあれば何とかする。何とかする方法を考えるだろう。
 不便を知っているのは、それはそれで有利なのかもしれない。
 
 それに…すれ違いもドラマやん?

#つれづれ雑記 #エッセイ
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