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つれづれ雑記*テレビに映った、話*

 ずいぶんと昔、テレビがお茶の間の最大の娯楽であった頃。
 「パンチDEデート」という番組があった。関西テレビの制作であったから、関西以外の地域では放送されていなかったかもしれない。
 現在の上方漫才の重鎮、西川きよしさんと、当時は「桂三枝」と名乗っておられた、桂文枝師匠がお2人で司会をされていた、何というのか、視聴者参加型恋愛バラエティ?番組だ。
 
 オープニングで司会者のお二人が交互に言う、タイトルコールが印象的だった。
「一目会ったその日から」
「恋の花咲くこともある」
「見知らぬ貴方と」
「見知らぬ貴女の」
「デートを取り持つ」
「パンチDEデート!」
 
 
 「パンチDEデート」は、カーテンで仕切られたステージ上で、左右に恋人募集中(という体の)の男女が分かれて座り、最初はカーテン越しに司会者を通じてあれこれとお互いの情報を交換する。そこに、西川さんや三枝さんがいろいろと茶々を入れ、散々笑いを取ったのちに、最後はカーテンが上がって対面となる。
 当時、このときの掛け声(?)の「ごたいめーん」という言葉が流行っていたようにも覚えている。
 
 そしてしばしの歓談の後、2人は後ろ手にボタンを持ってステージの中央に背中合わせに座る。
 1、2、3、の号令の後、相手のことが気に入ったらボタンを押し、そうでなければ押さない。2人共がボタンを押せば、2人の間に大きなハートが点灯し、めでたくカップル誕生、というわけである。
 
 この非常に昭和的でベタな番組に、私は出演したことがある。
 いやいや、このステージに上がったわけではない。出演者の応援団の中のひとりという立ち位置で、あの、観覧席?というのかな、あそこに座ったことがあるのだ。

 大学生の頃、私はあるクラブに入っていた。そこそこ伝統のある古い部だったようで、OBがたくさんいた。
 部活はお金がかかる。学生の頃に部活に熱心だったOBほど、寄付というか心付けというか、いろいろ面倒をみてくれたりする。

 あるとき、そんなOBのひとりからある依頼が入った。
 年末放送予定の「パンチDEデート」に部員全員で出てくれないか、というものだった。

 なんでも、OBの勤務先がその「パンチDEデート」のスポンサーをしているとのこと。
 この番組も長らくやっていて、そろそろ出演者申し込みが少なくなってきたらしく。
 年末だし、何かどーんと面白い企画、ないか。
 などという話が企画室で出たのかどうかは知らないが、そのOBからクラブに打診があった。
 部長を出演させ、その応援ということで部員全員(30人くらいいたと思う)も参加させないかという話だった。
 出演料などはないが、交通費とお弁当代は出るそうな。

 私たちの学年はそうでもなかったのだが、ひとつ上の学年がノリのいい(パリピとも言うが、この時代はまだこの言葉はなかった)先輩が多く、たちまち乗り気になった。
 部のOBと先輩の言葉は絶対、だった時代。

 そんなわけで、年末も近づいたある日、私たちはぞろぞろと、関西テレビのスタジオにでかけた。
 撮影は昼過ぎからだったと思う。
 スタジオ内のことも撮影風景も、残念ながらいろいろ記憶がおぼろげなのだけど、とにかく、テレビの裏側はこうなってるんだなぁと、妙に感心したりがっかりしたのを覚えている。
 いつもテレビの画面で見ているのは、本当は(当たり前のことだが)張りぼての作り物なのだ、これがブラウン管(お若い方々はご存知ないかな)を通せば、いつも見ている画面になるのか、と随所随所で思った。

 撮影は、我らが部長が出演する回とは別にもう1コマ撮影した。
 週4回の番組を2つずつまとめて、月に2回撮影するのだと言う。なるほど、そういうふうになっているのか、確かにそうすれば効率的だな、と妙なところで感心する。
 
 スタッフさんの指示に従って、私たちはステージを見下ろす観覧席にぞろぞろと並んで座る。裏側を見ると鉄の太いパイプで組んであって、まるで急場拵えのサッカー観戦の観客席のようだった。
 天井には照明やらケーブルやら何やらが、いっぱいぶら下がっていてゴチャゴチャしている。
 やがて、あれはディレクターさん?というのかな、丸めた台本?を手に、首にヘッドホンをかけ襟元にマイクを付けた(インカムなどというものはまだなかったのだろう)男性が、観客席の前に出て、いろんな説明をしてくれた。
 ただ、その内容はさっぱり覚えていない。
 覚えているのは、私語はしないこと、合図をしたら拍手をすること、そして「拍手は細かく早く」ということ。
 そうしないと、マイクが音を拾いにくいのだそうだ。
 私たちは撮影が始まるまでの間、ディレクターさんが納得するまで延々と拍手の練習をした。
 そして本番中、観覧席の前でしゃがんで待機しているディレクターさんの合図で事あるごとに何度も何度も「細かく早い」拍手をした私たちは、次の日、筋肉痛になり、見ると手のひらには内出血の跡ができていた。
 しばらくの間、部員の間では「細かく早く」という言葉が笑いのネタになった。

 さて、肝心の(?)結果の話だが、部長とそのお相手(いかにも女子大生らしい可愛らしい人だった)は番組ラストでハートが灯り、めでたくカップル成立となった。
 が、しかし、このとき、実は部長には付き合っている彼女がおり、OBの顔を立てて彼女公認の上で出演したのだった。
 お相手の女性には予めその旨を伝えてあり、彼女も似たようなものだったそうで、2人で示し合わせてハートを点灯させたらしい。

 ブラウン管の向こうの張りぼての作り物だったのは、どうやらセットや観覧席だけではなかったようだ。
 
 ちなみに、番組が放送されたとき、深夜のテレビの前に正座して鑑賞したけど、私たち部員がいる観覧席が映ったのはほんの数秒だった。
 まあ、わかっちゃいたけど。

#日々のこと #エッセイ
#昭和のテレビ #恋愛バラエティ