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宇宙におまかせの1日

これで5回目だ。
「そう、さっきの〝えっちえふ〟ってやつだよ」
3年ぶりに会った彼が、黒霧島の水割りのグラスを空けて笑った。 よっぽど気に入ったのか、響きがつかいやすいのか。HFを連発して、楽しそうに笑う。
本当は〝えいちえふ〟と発音してほしいのだけれどまあいい。

HFはハイアーフィールドの略だ。
目に見えるもの、物理空間以外の領域。わたしはそのハイアーフィールドの扱いを学び、超感覚的にそれがわかるようになり、さまざまな設定を変えることを遊んでいる。
こうだったらいいな、をハイアーフィールドで揺り動かすと、実際にそれはさっさと物理空間に現れてくれるのでなかなか楽しい。 無理だとあきらめる前に揺り動かすだけなのだ。

目には見えないけれど、確実に存在する情報の空間がある。
感情とか、きもちとかも目には見えないけどあるじゃん。 過去も未来も、信念だって存在していると思わない?
そう言うわたしを見つめながら、彼はこう言った。
「うん。わかるよ。そうだと思う」
その素直さにちょっと驚いた。

きっと彼なりに馴染みがあったのだろう。目にはみえないけれど、人間にもモノにも見えない空間がある。そこに情報があり、現実の土台となっている。 そんなハイアーフィールドの存在を、彼はすんなりと受け入れた。
「できる・できない、って本当はないと思う」
「やりたい・やりたくない、しかないと最近思うようになった」
そう話すと「それ、この間インドの人が言っていたのと同じだ」と言われた。インドに渡り、山奥で修行したという日本人のセミナーに最近行くようになったというではないか。 なんだかあやしい……一瞬そう思ったけれど、2人であーだこーだと話すのはただ楽しかった。

彼は前世でとても悪いことをたくさんしたという感覚があるらしく、カルマを軽くしないといけないと何度も言っていた。「これでもだいぶ軽くなったんだ」
わたしにはカルマという概念がない。だからなにかの美しい物語を聞いているかのような気持ちでずっと聞いていた。それは心地のよい時間だった。

そうしてランチだけのつもりが、いつのまにか日が暮れて、気づけば居酒屋で美味しいハモのお刺身を食べていた。 しかもその頃にはチャネリングでミーナという次元の違う住人から話を聞きながら話すという、なんともあやしく面白い会に変容していた。 もはやインドで修行したという人のセミナーのほうがまともに思える。

なんで生きているんだろう。

なんで生まれてきたんだろう。

お金ってなんだろう。

時間ってなに?

彼の疑問と探究、対話と議論は尽きることなく、拡大と収縮を繰り返した。

彼の見ている世界とわたしの見ている世界の違いが、どんどん鮮やかになっていく。 宇宙のつくりがまったく違うのがわかる。そしてミーナというからだのない存在は、そのどちらも高く見下ろす視点からいろんな例え話を織り交ぜ、時にわたしたちの現実に衝撃を与え、時にふわりと心を緩ませて笑わせるのだった。

相手との違いを突ついたり、同じ部分をいちいち数えなくていい。 戦わなくていいし、自分を下げなくていい。 ましてや優位性を誇示しなくていい。 わたしたちの間に横たわる信頼関係の中で、どこまでも広がる不思議な感覚。 普段開けるのをためらっている扉をいつのまにか全開にしているわたしがそこにいた。

「なんか、ジェットコースターに乗っているみたい。3次元にいるはずなのに、気がついたら4次元とか5次元って感じ。ちょっと受け入れがたい部分もあるけどね。視野が広がった感じ」
もずく酢をすすりながら彼は笑った。

「いま、僕の〝えっちえふ〟がものすごい勢いで広がっているなあ」 「・・・本当だ。しかも軽くなってる」
あやしいと思われたらわたしは傷つくに違いない。だから反応をみて出力を変えよう。 気づけばそんな風に相手の顔色を伺うことをやめていた。

違う宇宙が目の前に広がっていることがただ嬉しい。 ああ、思っている以上に、人に合わせて嫌われないようにとがんばってきたんだな、わたし。 そんないくつもの気づきを頭の片隅ですくいとりながら、彼がいろいろな顔をして笑うのを見ていた。

話は尽きないまま、あっという間に閉店となった。 店を出たわたしたちは、肩を並べて夜の街を歩いた。
「今日は来てよかったよ。ありがとう」
「数年ぶりに会って、まさかこんな話ができるとはね」
「本当にね」「本当に」「まさかね」「いやぁ驚いた」

「じゃあね」とそっと手を合わせて彼は改札へ向かった。
貴重な宇宙仲間と出会えた日。
新しい扉から旧友と出会い直した、不思議な日。
次に会えるのが楽しみだな。

その瞬間、ふと思い出した。
「宇宙の理(ことわり)の話が楽しくできる人たちともっと出会う」 という設定でHFを揺らがせて設定したことを。
そうか。だからか。
ならば、今度は
「宇宙仲間たちとお互いに最高のタイミングで出会い、最高に楽しい時間を過ごす」 

「共に過ごす人と、お互いに望む未来をつくるための有益な情報をわかちあう」 

「わたしという宇宙の情報を喜んで手に取る人たちと出会い、そのつながりがますます拡大する」

 を設定しておくことにしよう。

きっと、また彼に会えるだろう。最高のタイミングで。
さらにこういう話を愛するわたしを愛する人たちと、これからまだまだ出会うに違いない。

それがいつかはわからない。でもそれでいい。
そんな人生がいいな。楽しいな。
半分の月を見上げながら、少し笑った。

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