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銀河の船と金貨と小さな人たち

人は死ぬと、大河を船で渡り、あちら側へゆくという。

その船賃として、古くには棺にコインを入れる風習があった。

その習わしは今ではほぼ失われているし、ましてやその大河の存在をあらためて真面目に語る人もいない。

だが「どうかこの人が心穏やかに、どうか無事に向こうの世界へ行けますように」という残された人の祈りは、変わることなく息づいている。

その祈りが、一枚の金貨に形を変えることを、知る人はいない。

それが太陽のように、死者の頭上でキラキラと輝くことも、

見えないだけで、いまもその船が大河を行き交っていることも、

誰も知らない。


時々新月の夜に、わたしはその船を見ることがある。

よーく見ていると、その金貨のまわりには、小さな人がたくさん守るように寄り添っているのが見える。

その小さな人たちの顔は、よく見えない。

けれど、彼らがそれを心から誇らしく思っていることは、遠目からでもなぜかわかる。


小さな舟に、すくと立つ死者の頭上で

輝く大きな金貨が、ゆっくりと空を渡っていく。


その光景はとても美しく、

人の願いと祈りそのものだと思える。


時空を超えて照らす唯一の光。


きっとそのことを、

あの小さな人たちもわかっているのだと思う。

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