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【創作大賞2022応募作品】創作物語“リペイント”〜闇から光の先へ 【10】

【10】
ガタンゴトンとゆっくりと走る電車の窓からは、吸い込まれる様な青い空に孫悟空のきんとん雲な白い雲、そこを流れる様に緑の山や畑が見える。
私と順子は向かい合わせの座席で、そんな長閑のどかな景色を眺めていた。
「順子と一緒に旅行が出来る日が来るなんて、夢みたいや」
「ほんまやな。お互いに色々あったもんね、良く頑張った」
「うん、自分への頑張ったご褒美やね」
子供の保育園のママ友として知り合って三十六年。順子とは同い年で今年、還暦を迎えた。
同じ時期に離婚してから、お互い色んな事があり疎遠になって居た期間も長かった。
それぞれの子供達も結婚して孫も生まれ、私達は、おばあちゃんになった。
子供達の提案で、二人で旅行を計画した。還暦旅行だ。
素敵な景色を見て、美味しいお料理お食べ、ゆったりと温泉に浸かりながら、今までの人生を振り返る。

白井が帰って来なくなった事をキッカケに、子供達を連れて引っ越した。
白井は今頃、また違う女と暮らしているだろう。
お互いにマイナスになる様な争いだけは避けたかったし、一時は惚れた相手を嫌いになり、喧嘩別れはしたく無かった。どうか穏やかに過ごして欲しい。

借金が完済出来た事と、体の事を考えて約二十数年勤めて来たバイトも思い切って辞め、親子水入らずの時間を過ごせる事で幸せを噛みしめていた。子供達も自分達の家庭を持ち親になっている。

長かった。。。
私の最悪の選択人生に巻き込んでしまい、幼い頃から普通ならしなくて良い苦労をさせ、沢山の我慢もさせてしまった事は。どれだけ詫びても埋めれる事じゃ無い。
遅くなったけど、これからは自分の人生を悔いの無い様に生きて欲しい。私も出来る限り力になりたいと思ってる。

愛菜ちゃんは猛との離婚後、再婚し幸せに夫婦で小さなカフェを経営している。

猛も再婚相手と幸せな生活を送っている。私を励まし、心を支えてくれ、一時は刹那愛ふりん状態だったけど、彼が家庭を大切に思う気持ちはわかっていたので、その幸せを壊す事は出来ずに、いつの頃からか自然と男と女の関係では無く”最高の友達”として繋がっていた。
猛と再会して居なければ、今の私は無い。幾ら感謝しても足りない。

平穏な時間の中でも、あの頃過ごした場所や、悲しく苦しかった時に流れていた音楽などに触れると、今でもフラッシュバックが起こり胸が締め付けられ、胸が締め付けられ、痛くなるする事もある。
負の人生から抜け出し、叶わないと思って居た”普通”の時間が、今、ここにある事に心から感謝しながら、還暦からではあるけれど、ゆっくりと過ごして生きたい。

帰りの電車の中で、うとうとしていると窓を叩く雨の音で目が覚めた。
外を見ると、空は晴れて居るのに雨が降っていた。
闇がやっと溶けて洗い流される様だ。
「順子。癒しの雨やね、また来たいね」
「また、計画しよ。これから楽しもうね」と話していると、雨が止み太陽の光の先に綺麗な虹が現れた。

”語り”
自分勝手な感情に流され、我儘放題に生きて来て、悔いは無いと思い進んで来た道は、あまりにも苦しい人生だった。
悲しい時、悔しい時、情けない時、嬉しい時、色んな感情が入り混じり、心の中だけで抱えきれない思いが、涙となって溢れてしまう。
だけど、涙は心を浄化してくれる。
泣く事は決して悪い事では無い、泣けない時の方が苦しかった。
私の人生は”波乱万丈”とは言い難い。
自業自得で、最底な人生だった。
荒波に揉まれ、叩きのめされ、一時は夢も希望も持てなくて闇の中から抜け出せないでいた時
一筋の光が見え、闇から光の先を目指し、気持ちを強く持ち最後の決意をした。
子供達と自分の為に
人生を”リペイント”した。
これからは胸を張って生きて行きたい。
そして同じ様な環境にある全ての人に伝えたい。
必ず道はあるので諦めずに強くなって欲しい。
〔完〕

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