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一路、信州へ

過日、信州へと赴きました

昔の知人との約束を果たすこと
尊敬し愛してやまない画家
犬塚勉さんの絵を直に見ること

いろいろな目的を詰め込んで

特別な旅だったので
果たせて本当に良かった

昔の知人とは
日本画家の台伸八さん
「放浪の画家」と呼ばれた人です
とても優しい人でした
そしてロマンチックな人でした

「いろんなことが思い出せなくなってきた」
という手紙を最後に連絡が取れなくなりました

ある日何でもなくやって来るお別れに
その頃の私はとても鈍感だった

「信州の山を一度見せたい」と
送ってくれた写真に写っていた青い山々を思い出しては
もう来ない手紙を思うばかりでした
自分ごとに振り回されて、台さん自身を振り返れなかった

信州の雲はとても表情が豊かでダイナミックで

きっともう雲の上にいるであろう台さんが
近くで笑っているような気さえしてきた

「来たよ!」と何度か呼びかけてみたけど
どうかな
少しは、届いたかな

若輩だった私の瞳を満月のようだと褒めてくれた台さんと
陽が落ちてから会う機会は一度もなかった
せめてこうやって青空の下で地球のヒダのように折り重なる山々を
一度でも、一緒に眺めておけば良かった

東京から福岡へ帰ってしばらくの頃は荒んでいて
瞳はおそらく昼にのぼる満月のように霞んでいた
それでも
途絶え途絶えした手紙よりもよほど
喜んでもらえたのではないかと苦く、悔やむ

信州は美しかった
出会った人達もあたたかくて
何もかもが眩しいところでした

豊かな時間をいただいたこと
冷たい地底に積もって固まっていたザラザラとゴツゴツを
見事にさらってしまってくれたこと

言い尽くせませんが、ありがとうございました

犬塚勉さんといい
台伸八さんといい

信州は今や私にとって
尊敬する画家さん達の故郷のような存在です
お二人とも信州の出身でも、信州に住み続けた人でもないのに
はっきりと呼ばれた気がしたのは不思議です
(台伸八さんは群馬県桐生市に、犬塚勉さんは東京都にお住まいでした)

犬塚勉さんの展覧会は
西日本の豪雨による被害やコロナ禍により3年ぶりの開催でした

どうしても会わなければならない人に向かって駆け出すような気持ちで
もう、西日本に来るのを待ってはいられなかったのです

入り口をくぐって絵の前に立ったら
しばらく動けなくなりました
絵を見て涙が溢れたのは初めてです

何がこんなに自分の琴線に触れるのか
まだ言語化できていません
でも多分、それはしなくていい

だいぶ長いこと見失っていた自分が
遠回りして帰ってきたような気がします

高遠美術館入口にて

38歳で夭折した彼の作品に
もっと生きている自分は何ひとつ及ばない
こんな人が早くこの世を去って
どうして自分が生き残っているのだろうと思わないこともありません

それを辛く感じたこともありました

でもなんとなく
もういいんだよと思えた
衝動的ではなく、心の底から

カーラジオでDJが
「今日の夕陽は特別きれいでしたね!」と言ったとき
ここに呼んでくれた二名の画家に心から感謝があふれました

遠く離れて会えない人でも
その作品しか知らない人でも
こんな素晴らしい縁を紡いでくれる
だから私はまた旅人に戻ろうと思います
たくさんの愛すべき出会いと別れを死ぬまで繰り返すために



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