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パク・グァンボムと辿る愛の不時着考察(前編)


 舞台は2019年、北朝鮮…非武装地帯にある前哨地。
 ここに、誰かに咎められるようなことはただ一度もしていないのに、上司(リ・ジョンヒョク)への忠誠心とその責任感の強さから、ある日不運にも、不慮の事故による韓国からの侵入者(ユン・セリ)不時着の一件に巻き込まれることになってしまった、一人の美しい青年がいた…。

 これは、『愛の不時着』に登場するクールで口数の少ない彼(パク・グァンボム)という人物に、何か隠されたストーリーを感じ、敢えてそこにスポットライトを当てながら、『愛の不時着』という作品を眺めてみたくなった筆者の、気まぐれかつ超個人的考察(妄想入り)メモである。

◇プロローグ

“パク・グァンボム”
 突然だが、皆さんは彼にどのような印象をお持ちだろうか?
…私の今パッと思いつく情報をシンプルにまとめると、大体彼の人物紹介はこんな感じになる。
 ・いつもクールで大人っぽい、第5中隊所属のイケメン下士官軍曹。
 ・頼り甲斐があり、第5中隊のメンバー(特にリ・ジョンヒョク自ら)が大きな信頼を置く存在。
   
 そして私が、そんな彼に対し愛の不時着初完走して抱いた印象が、(誤解を恐れずに正直に打ち明けると、)「他のキャラに比べて影が薄いな…」である。
 
 比較対象として、第5中隊の他のメンバーを見てみよう。

 ユンセリのライバルにして親友、物語のシリアス展開を一瞬でコミカル変換してしまうムードメーカー:ピョ・チス。熱狂的な韓ドラオタクであり、ユンセリと第5中隊たちを繋ぐ大切な架け橋を担うみんなの通訳:キム・ジュモク。そしてメンバー最年少にして親切で賞受賞、我らが愛する家族想いの可愛い弟:クム・ウンドン

 どうだろう?個性的な第5中隊の面々を改めて見渡して見ると際立つように、グァンボムはこんなにも美しいイケメンという美味しい立ち位置であるにも関わらず、他のメンバーと比べ、(露出度も高く、リスクの高い任務を多く担う割に)作品を完走し振り返った時の印象が、圧倒的に薄い。薄すぎるのである。(※あくまでこれは私の感想で、もちろん個人差はあると思います。)
 そしてそれはおそらく、彼自身がほとんど自分について語らないために、作品を通して、視聴者側に彼に関する情報がほとんど入って来ない(物語の進行に伴って役柄に厚みを持たせていくはずの情報量が少ない)ことが起因しているのだと思われる。

 しかしこれが不思議なもので、愛の不時着を何周もリピートするうちに、私は彼のこの異様な印象の薄さ、存在感の薄さがかえって気になり出し、そしてついには、俄然このパク・グァンボムという人物に強く興味が湧いてしまったのである。

(そして本当にそれ以降彼は、それ以後の私の不時着視聴体験に置いて、突然大きな存在感を発揮する人物になってしまった。困った…!これ以上彼の存在を無視したままで、愛の不時着視聴に集中ができない… !!!)

…という訳で、ひょんなところから出発した愛の不時着考察。今回は、この寡黙な謎多き男、パク・グァンボムについての人物像を探るため、私なりに作品を視聴する中で感じた点を踏まえながら、この後の考察をすすめていきたいと思う。

(すみません、一応ここでお断りを入れておくと、ここまでがプロローグです。今回自分でもこの記事がどれくらいの分量の記事になるのか、どこに着地するのか、全く予想がつかないのですが、とにかく今は自分の中にあるものを一旦全部言語化してみようとしているため、何だか薄い本ができそうなくらい長文になってしまう予感があります…
 有り難くもこの記事を最後まで読もうと思って見てくださっている優しい沼民同志の方、ここからの記事は私との体力勝負になることが予想されます。どうか余力のある時に、時々一息入れながら、あるいは目次から興味のあるところだけを適当につまみ読みしながら、しばしお付き合いいただけたら嬉しいです。)

◇クールガイ・グァンボムから溢れ出した感情

 人との馴れ合いを好まず、涙はもちろん人前では感情を滅多に出さない、一見ドライにも見える彼。しかし、彼に着目するうちに、実は時々、彼が一瞬の感情の高ぶりを思わず溢れさせるシーンがいくつもあることに気がついた。
 ここでは彼の人柄を分析する手がかりとして、彼の喜怒哀楽に注目し、感情別にいくつか具体的な場面を挙げながら見ていきたいと思う。(彼の人物について語る手がかりは、個人的に「怒」に多くが詰まっていると思うのと、話の流れ的にスムーズな点があるので、ここでは以下に怒・哀・喜・楽の順でご紹介したい。)

<怒(Angry)>

 まず始めに、彼の人柄や経歴を考える上で、大きな手がかりとなりそうなの場面を挙げて、できる限り丁寧に考察してみたい。

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●トラック部隊の手がかりを得るため、ジョンヒョクと共に調査に訪れた工兵総局の整備所で、自分に対し声を荒げた整備組長に対し、怒りを剥き出しにする場面(Ep.4)
 噂のトラック部隊の証拠を確認するため、整備組長に対して丁寧に調査を願い出るグァンボムだったが、次の瞬間ガラリと態度を豹変させる。

整備組長:「調査だと?保衛部でもないのに偉そうに言うな」
グァンボム:「偉そうだと?言葉を慎め!

 ジョンヒョクがタイミングよく喧嘩を制し事なきを得たが、このシーンには、ただ中隊長が視察するための時間を稼ぐ、という意味合い以上に、グァンボム自ら喧嘩を買ったような印象が残る、一髪触発の緊張感があり、初見の際にも、彼には意外と短気で喧嘩っ早い面があるんだなと、感じた。
 ここで、もしかするとグァンボム自身が、元々よく喧嘩をするタイプだったのでは…という小さな疑惑が私の中に持ち上がる。 

 ここからはただの個人的な憶測でしかないが、過去に、グァンボムが関する何らかの暴力的なトラブルが起きた際、偶然ジョンヒョクに窮地を助けられる、というような出来事があったのではないだろうか。
(それに対して恩を感じたグァンボムが、今後はジョンヒョクに忠誠を誓って生きることを心に決め、自らも真面目に更生しようと奮闘する…というような何らかのドラマが背景にあった可能性を考えずにはいられない。作品には直接描かれなかった場面に想いを馳せ、想像してみること…視聴者に与えられた至極の楽しみである。)


ジョンヒョク宅に干してあった軍服を棒でさらっていこうとしたコッチェビ少年に対して、強い怒りの表情で睨みつける場面(Ep.3)
 
棒泥棒がジョンヒョク宅に来たと察知した時の彼の反応は、本当に見ているこちら側が思わず息を飲むほど早かった。いち早く犯人のコッチェビ少年を捕まえた後も、少年の腕を強くつかみ続けながら、少しも微動だにせずに、怒りを込めた眼差しで少年を睨みつける姿が印象に残った。
 一方で、一人の子どもを大人5人で囲んでもなお、グァンボムがその怒りの姿勢を少しも崩そうとしない、ちょっと大人気なくも感じるような強硬な態度が少し引っ掛かった。いくら中隊長の家に入った泥棒だと言っても、相手はまだ子どもである。どうだろう。私には何だかそこには、人から物を盗むという、人に迷惑をかけるような行為(人としての道理に背くような行為)を強く非難するような彼の思いが、少し透けて見えるような気がしたのである。

 ここからはまた、ただの私の推測なので、軽く流していただいて構わないのだが、もしかすると、グァンボムの出自もまた、この少年やチョルガンと同じコッチェビ…あるいはそれと同じくらい、かなり貧しい階級出身だったのではないだろうか。(それは後に脅威の2段階昇進を果たすピョチス と比較しても、28歳という年齢と彼の日頃の勤務態度からすれば、グァンボムだってもっと昇進してもいいのではないか?彼が昇進しづらい何らかの理由があるのだろうか?と思ってしまったところもある。)
 彼には経験上その辛い立場がわかるからこそ、コッチェビの少年には、自分と同じような過去を辿ってほしくない、人として正しく生きてほしいという、まるで祈りのような彼の痛切な願いが、怒りとして強く表れてしまった…とするのは少し考えすぎだろうか。

 グァンボムは作品全編を通して、一切自分の家族を語らない。また誰かに語られることもない。彼は他の誰かの家族の話になっても、いつもただ、肯定も否定もせず黙って聞いているのだが、ここにも私は何かヒントが隠れているような気がしてしまうのである。(訳あって離れ離れになった・あるいは失ってしまった兄弟、自分を捨てて何処かに蒸発してしまった親など、何とかして彼にドラマティックな設定を都合よく作り出そうとしてしまうのは、多分私の妄想の最大の悪癖…)


●ピョチス がダンママの薦める酒に酔い、今までのユンセリに関する秘密を全て話してしまった後、第5中隊メンバーで責め立てる場面(Ep.8)                                    
 
酒に負け、全てをダンママ(あろうことに上司の婚約者の母)に暴露してしまったピョ・チスの、まるで中隊長への裏切りとも取れる行動に、彼以外の第5中隊のメンバーは心底激昂し、強く責め立てる。中でも、グァンボムの怒りと軽蔑が籠もった眼光の鋭さは、今にもピョチスを刺してしまいそうな迫力である。それでも、後輩たちの手前引くに引けず、情けない言い訳を続けるピョ・チスに対し、グァンボムが吐き捨てるように言ったのが次の一言である。

グァンボム「一番甘く見られたんです」

 この強い一言に思わず黙らされてしまったピョ・チスだが、すぐにまた仕切り直して、中隊長には内緒にして欲しいと隊員に願い出る。しかし、その彼の言葉をしまいまで聞くが早いか、グァンボムは呆れたように顔を背け、(自分よりも上官である)ピョ・チス の声を全無視して、いの一番にさっさと部屋を退出してしまうのである。ここでのやりとりからは、グァンボムはもちろん他の隊員たちの並々ならぬ中隊長への忠誠心を感じられ、彼らへの信頼感と好感度もぐっと強まるシーンである。


<哀(Sad)> 

 次に見ていきたいのが、物語をドラマティックに展開するためには欠かせない悲しみのパート…の場面である。

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 グァンボムは基本的に、どんなに悲しくて辛い場面でも、人前では決して悲しい涙を見せない。目に涙を溜めることはあっても、いつも必死に目を見開いたり、顔を上げて涙が流れないよう、堪えようとするのである。
 しかし、そんな風に涙を見せず、冷静を貫いていたはずの彼も、この時は違った。

ユンセリを空港まで送迎する途中でリジョンヒョクが銃で撃たれ、意識を失って倒れる場面(Ep.7)である。
 この時彼は初めて、人前であることも憚らず、強いショックや焦り、怯えも含んだようなひどくうろたえた表情をユン・セリの前で見せる。
 セリの荒々しい車の運転には不安になり、中隊長の命令に背いてしまうことに繋がる自身の選択には激しく葛藤し、今にも泣き出しそうな顔で、必死にセリに反論を試みる姿は、見ていて本当に胸が痛くなった。
 彼にとって、今身近で唯一心から信頼でき、家族のように慕う兄のような存在、リ・ジョンヒョク…そんな自分にとって心の拠り所である、中隊長という大切な存在を、この後失ってしまうかもしれないことへの強い恐怖や絶望を、私はここで、グァンボムの潤んだ目から、震える声から、強く感じた。


<喜(Joy)>

  さて、と見てきてその次にやっと活きてくるのが、彼のの部分である。
その特筆すべき最たるシーンがこちら。

南でずっと姿を探し求めていた中隊長リジョンヒョクとの再会場面(Ep.12)
 
ここでグァンボムは、中隊長にやっと会えた喜びや驚き、安堵感のあまり、目を大きく見開いたまま潤んだ瞳でリ・ジョンヒョクを見つめ、立ち尽くしてしまう。
ジョンヒョクがゆっくり一人一人の顔を見回し、最後グァンボムに「どういうことだ?」と目を合わせ問いかけた言葉には何も答えず、(ウンドン、ジュモクに続いて、)自分からハグを求めて、恐る恐るジョンヒョクに歩み寄る。そしてそんな彼の心の揺れを瞬時に察し、素早くグァンボムの方へ手を広げ抱き寄せるジョンヒョク。その数秒のやりとりにも、中隊長の肩に顔を埋めて、グァンボムが思わず肩を震わせながら泣いてしまう姿にも、私はいつも、どうしたって泣かされてしまうのである。

 普段はクールで人に甘える姿を見せない彼が、滅多に涙を見せないはずの彼が、唯一リジョンヒョクの前だけでは素の自分…誰かに守られる存在、甘えられる存在の一人の弟になることができ、ここの再会場面をきっかけにやっと、家族(第5中隊)の中でも安心して自分の感情を溢れ出させることができたのだと感じた。


<楽(Happy)>

 グァンボムを巡る感情シリーズ考察最後となるのが、の場面である。
 普段は大人っぽい彼だが、時々とても素直であどけない表情を見せるシーンがある。(これはグァンボム演じるイシニョン君の実年齢がこの時21歳…ということも関係ないとは言い切れないのだが、それは一旦置いておくとして)

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 おそらく大学には進学できず、その後は軍に入って、長年厳しい訓練の日々を耐えて来たであろうグァンボム。そんな風に、青春時代をゆっくり謳歌するという選択肢もないままに、突然大人にならざるを得なかった彼だが、

第5中隊たちがユンセリの送別会をしようと川でピクニックをする場面(Ep.5)では、まるで本当に子どものように楽しそうに笑い、仲間と共にピクニックを満喫する姿を見せる。
 仲間たちと魚取りに思い切りはしゃぎ、楽しんでいる今この瞬間こそがまさに、“彼らの青春”なのではないか…とふと思う。リラックスした表情で仲間と肩を寄せ合い、幸せそうな笑顔を見せるグァンボムに、私はいつもここで、この後彼に大きな危険が迫っていることさえもすっかり忘れて、思わずほっとしてしまうのである。

 そして、そんな彼が作品中、最もポジティブな感情をフルスロットルに爆発させるのが、●南のチキン店でサッカー日韓戦を仲間とともに観戦する場面(Ep.13)である。
 画面の中でのスポーツの聖戦に釘付けになりながら、進行するゲーム模様に合わせて、時には思わず立ち上がってハラハラしたり、手を大きく叩いて喜んだり、肩を落とし思い切り悔しがったりと、グァンボムは瞬時にくるくる表情を変えていく。
 今まで彼の中にこんなにも豊かな表情が眠っていたのかと、見る度に毎回新鮮な驚きを覚える程、何度見ても飽きないシーンのひとつである。ゴールが決まると、手を思い切り頭上に高く挙げて喜び、思わずマンボクと強くハグまで交わしてしまう程のグァンボムの感情の大放出具合に、気づけばいつも、彼の様子を見守っていたはずのこちらにも笑みが伝染している。


 軍人でもない、何の規則に怒られたり縛られたりするでもない、ただ一人の、「等身大の28歳」として、生き生きとそこに存在している彼の姿を目にする度に、私はいつも胸がいっぱいになって、何だかとても嬉しくなってしまうのだ。
(そして、いつも少し経ってから、彼らが北に戻った後のことを想像し、ちょっぴり切なくなって、またちょっと泣く。)

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 こうして整理し、改めて眺めて見ると、一見クールに見えるパク・グァンボムが、実はとても人間らしい側面を持っているということがわかってきた。彼の隠れた魅力が、言語化するうちに、何だか少しずつ見えてきた気がする。そして私は今、この考察を書き進めるうちに、何だか愛の不時着沼の奥地を開拓しているような感覚に、ワクワクしている自分に気づいた。
 まだまだ探求しがいのありそうな彼の人物像、そして彼の目線から眺めるもうひとつの愛の不時着についても、今後更に考察を深めてみたい…!

 (思っていたよりも長文になってしまったので、続きは後編として記事を分けたいと思います。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。お疲れ様でした!)

 後編はこちら



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