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夏と蜜蝋とムーンライト展

ここ十数年、夏が近づいてくると、それは「ムーンライト展」が近づいているということであり、今回は何を創ろうかとあれこれ考えはじめる・・・のが私のルーティンのひとつでした。

銀座の老舗「月光荘画材店」さんが、年に一度開催していた公募展が
「ムーンライト展」です。
残念ながら、2018年が最後の開催となりました。
インターネット等を活用した、新しい作品発表のかたちが主流になってきたことなどを受けて、また別の場を設けることを模索しつつ、一区切りつけるということでした。
7月の下旬に搬入、審査。そして、ちょうど今ぐらいの時期、8月半ばのお盆の前後あたりが展示期間でした。
あこがれの銀座の月光荘の画室(ギャラリー)に、作品が展示されるのが嬉しく、とても励みになったものです。

ジャンルを問わずに作品を審査していただけるので、私が作っている「キャンドル」のような、工芸品とも日用品ともつかないジャンルの作品でも応募できるのが魅力のひとつでした。
気が付けば、応募をはじめてから10回以上も入選作品に選んでいただくことができ、毎年応募作品をつくることが貴重な勉強・素材の研究の機会でした。

というのも、ただ個性的だったり、大きさ等にインパクトがあるキャンドルを作るのではつまらないと思いましたので、
”必ず毎回「蜜蝋」を使い、いつもの製作ならば必ず真っ先に考える、
実用性のことはあまり考えずに、1点ものの灯りを創る”ことに決めていました。

初応募&初入選した作品から、最後の2018年の入選作品まで。
私も、毎年ブログには掲載していたものの、このようにまとめて見られるようにするのは初めてです。
※抜けている年(2007年、2017年)は、残念ながら落選しています。

◆2006年(初出品/初入選) 作品タイトル:「ハチミツ星」

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ただただ楽しく製作したのを思い出す作品です。そして、作ったのは良いのですが、梱包のことをあまり考えていなかったことも。。。
懐かしいです。

もう15年近く前ということで、この作品の画像データがどこにあるのか探すのにまず一苦労(笑)。前の前に使っていたデジカメのデータをCD-ROMに移していたのが発見されました!見つかってよかった…

◆2008年  作品タイトル:「Dress Up / Light Up」

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◆2009年 作品タイトル:「Candle-Service」

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2008・2009年の作品は、シリーズのような印象を受けますね。
蜜蝋のシートでどんなものが作れるか?
灯りを身に着けたり、手に持って灯せたら…と考えました。シートは、薄く延ばしてあり、凹凸でちょうどミツバチの巣のサイズの模様がつけてあるので、作品が軽く仕上がります。
2019年のブーケ型作品は、本当にブライダルブーケ代わりに使えます。(灯すときには気を付けて!ですけれど…苦笑)
蜜蝋のバラの花、一時期凝っていたので、たくさん作ったなぁ。

◆2010年 作品タイトル:「ミツバチの休日」

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”いつも忙しく飛びまわっているミツバチたち、
お休みの日は 好きな本を読んだりおいしいものを食べたりして
別荘のような家でのんびり過ごします。”

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?何故か、画像下部に入っている文字が「2009」となっている…?
当時の私、間違えたんですね。。。
これも、梱包&発送に苦労しました。

◆ 2011年 作品タイトル:「above」

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”祈りを込めて、風船のあかりを空へ。”


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東日本大震災の年の作品です。私は宮城県民ですので、大きな被害を免れた地域にすんでいるとはいえ、ショックで何も手につかないような、ただただ不安で縮こまっているような毎日が続いていました。
ムーンライト展、今年はどうしよう…何も作れないかも…と悩んでいた時、
それこそ”天から降ってくる”ようにこのアイディアが浮かび、一日で仕上げた作品です。

◆2012年 作品タイトル:「Melt the Ice」

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””Break the Ice(氷を砕く)”には「緊張をほぐす」等の意味もあります

キャンドルの炎で”凍りついた心を溶かす”ことは
できないでしょうか?”

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メインには蜜蝋を使いながらも、初めて異素材と組み合わせてみた実験的作品。透明な素材・ジェルワックスは、今はハードタイプやソフトタイプ等、用途に応じて硬さなども選べますが、この当時はわりと柔らかく、けっこう液体が沁みだしてくるなど、扱いや保存が大変でした。

中に蜜蝋の錠前を閉じ込めるのには苦心しました。
そして、心配していた通り、保管して数年経つと、包んでいた物などにも液体が沁みてきて、作品自体も白く濁ったように変わってしまいました。
ですので、この作品は保存をあきらめました。現在はもうありません。

◆2013年 作品タイトル:「イカロス」

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”イカロスの翼に思いを馳せる。蝋で固めて作った翼は、太陽に近づきすぎて、はかなく溶けてしまった。

誰から聞いたのだったか、押し寄せる大津波の映像に 
”人間に翼があったなら。いま、あそこにいる人たちに翼をつけて
あげられたなら。”と思った、という話を思い出す。

私も蜜蝋で翼をつくる。自らは少しずつ溶けて無くなりながら、
灯りつづける蝋燭のあかり。 ”

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一枚一枚、祈りを込めて、イカロスの羽根を創りました。
灯した時の美しさも、とても気に入っている作品です。

◆2014年 作品タイトル:「Libro / Memoras」

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”忘れないために、書き記す。
忘れてしまうので、書き残す。
忘れてしまったので、ただ、遺る。”

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蜜蝋は、紀元前から人間の生活の中に取り入れられており、板に蜜蝋を塗ったものに、尖ったもので文字を書くことなどもしていたそうです。
蜜蝋は、様々な方法で、紙のように薄く延ばすことができます。ちょっとパピルスのようなものを意識して、「本」の灯りを創りました。

◆2015年 作品タイトル:「月の夜に」

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月の夜にだけ灯る、不思議な植物をイメージ。
鏡の上にディスプレイしています。

◆2016年 作品タイトル:「ANCIENT」

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”「ANCIENT」は「古代の」という意味。
紀元前4000年以上の昔から、人間の生活と共にあった蜜蝋に思いを
馳せながら…”

この作品を作ろうとしていた頃は、夏バテなのか何なのか、体調が優れなかったことを覚えています。というか、作品にもあまり工夫がなく、納得がいきませんでしたが、期限もあるので間に合わず、葛藤の中で出品させていただきました。よく入選にしていただけたなぁと思います。
(しかも、まともな写真もありません。。手元にあるのは、上の画像と、見に行ってくれた友人が送ってくれた会場風景のみ…体調管理って大切ですね。)

◆2018年 「小鳥の気配」

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”小鳥は、「気配」だけを残して じっと灯りを見つめています。”

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蜜蝋の「木」は、原点にかえってディッピング技法で 芯から1層ずつ太くしていきました。画像ではうまく写っていませんが、色の異なる蜜蝋を交互に浸したので、よく見ると木の年輪のように見えると思います。

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最後までご覧くださり、ありがとうございました。

古くから、キャンドルの素材として使われてきた蜜蝋。自然からこのような素材が採れるのは驚きであり、その恵みに感謝しかありません。
表現の可能性は無限大と思い、取り組みました。

夏の暑さでも柔らかくなってしまうような特殊な素材の取り扱いに、
月光荘のスタッフの皆さまにはさぞお気遣いをいただいたことと思います。
この場をお借りして、心から感謝申し上げます。

                        (2020年8月20日)

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