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カフカの『失踪者』を読んで

読んでくださるにあたって

カフカの『失踪者』を読んで思ったことを垂れ流した記事です。カフカの小説世界って発達障害の当事者が見てる世界に似てね?みたいな感覚で書かれています。

近況(カフカとは全然関係ない)

去年の8月くらいから全く投稿していなくて、まあ別にいいんだけど、毎日投稿する人ってすげーわって子どもみたいな感想です。

暦通りに動く職場なので今ひどく暇。金も使いたくないからドトールに居座り本を読んでました。で、本を読むのにも限界があるので、こうして投稿するための文章を書いている。

『失踪者』ってこんな話

読み切ったのはカフカの『失踪者』(『アメリカ』のほうが馴染みがある人も多いはず)。邦訳から分かる通り今回読んだのは白水社から文庫で出ている池内訳です。

本の裏を見ると

『審判』『城』とともに「孤独の三部作」と呼ばれてる連作の第一巻

とのこと。

プロットは至極単純、例によってKがよくわからん土地をさまよってどこにもたどり着けないというもんですね。

足を踏み入れた土地、そこにある建物、蠢く人間たち、全てがKの行手をナチュラルに妨害してKはどこにもたどり着くことができません。そんでもって『失踪者』は未完の作品なので途中でプツっと物語が切れちゃう。

お話の内容的にも未完の作品という実際的な理由からもKはアメリカのどこかで突如失踪してしまうって寸法です。

カフカ作品のポイント

上で「全てがKの行手をナチュラルに妨害して」と書いたけど、この世の全てが「ナチュラルに」自分を妨害するってのは、たぶんカフカの作品を読み解くにあたって重要なポイントになると思われる。

それというのも、いわゆる(?)「孤独の三部作」の世界には悪人ってのがあんまし登場しない(と記憶している)。

たまに嫌な奴が出てくるけど、嫌な奴も小説の世界においては警察に逮捕されるような掟破りの悪人じゃないです。むしろ掟を破って行動しちゃうのはKの方なんだよね。

つーかカフカの世界の登場人物ってちゃんと思い返してみるとなかなかに寛大な人間が多い気がして、そんな寛大な人物たちすらをも呆れさせ、キレさせる原因は他ならぬKです。なぜならKは小説世界においてルールをどんどん破っていくから。寛大な人間もそんなKのことを守り抜くことは流石にできません。

『失踪者』におけるKのルール違反の例

それは『失踪者』においても同様で、例えばホテル・オクシデンタルの管理職のオッサンはめちゃ嫌な奴って印象だけど、彼はホテルの就業規則に厳格なだけであって、Kを意図的に陥れるようなことはしないです。そこまで悪い奴じゃない。じっさいKが就業規則通りに働いている間はKは誰からも何も言われず多忙ながらも結構自由で充実した生活を送ってるんですね。女の子ともいい感じになるしな。

でもそんな生活も悪友の押しかけによって終わります。積み上げてきたホテルでの生活とは一瞬でサヨナラ。まあ管理職のオッサンが不幸にもクソ頑固だったというのも原因だけども、それでも悪いというか、ルールを犯したのはK本人なわけ。悪友が登場した時点でそいつをホテルの警備にでも突き出していればなんも問題なく済んだろうに、自分で対処しようとして事態を引き返せないところまで悪化させる。最終的には超寛大な会計主任も守ってやれないくらいの規則違反を引き起こしちゃう。そんなやらかしまくりのKが厳格な就業規則に則って動いている高級ホテルから摘み出されるのは当然のことなんすよ。

不条理って言うけども...

長く書いちゃったけど、不条理文学(最近は流石にそんなん言う人少ないと思うけど)って表現されがちなカフカの小説世界って別に不条理でもなんでもないよという。

われわれの世界と同じでルール違反を積み重ねたらレッドカードで退場になるのは致し方ない。それに何もしてないのに一発退場!なんて不幸はカフカの世界には存在していない。

むしろ冤罪が原因で人生終了みたいなクソイベントが発生する可能性があるわれわれの世界の方が余程不条理に満ちている。

Kの不幸

そんなKの不幸は住む世界の(『失踪者』ならアメリカって国の)ルールを知らないし、そのルールを誰も明示的に教えてくれないってことです。

知らないルールが敷かれている土地にポイっと放り出されて勝手もわからず動き回っていたら知らんうちにやらかしまくっていて摘み出される。

ここらへんで「そりゃ当然そうなるっしょ」とサラーっと思って終わる人と「そうなるのは仕方ないんだけど、でも...」と自分の人生とKの人生が重なって胃が痛くなる人に分かれるところかもしれない。

ちなみに僕は後者です。「俺はKだ!」と思っちゃう側の人間です。

つらい...。

ゲームの規則がわからない

だって発達障害者であるわれわれにとって世界のルールって全然わからんくないですか?

わからないし誰かが教えてくれるわけでもない暗黙のルールが多すぎる。そんななか引きこもるわけにもいかないから自分なりに奮闘するんだけど、踏み抜いてはいけない地雷を踏みまくってしまい、気付いたら傷だらけになっている。

自分なりに努力はした。地雷の探知方法もそれなりに覚えた。それでも探知不能な地雷が埋没しすぎていて身動きが取れない。

誰かに助けてもらいたい。はじめのうちは優しい人が助けてくれていた。アドバイスもたくさんもらった。おかげでそれなりにゲームの規則は把握できるようになってきた。

でも時すでに遅しで、今やその人たちからも見捨てられてしまった。だってみんなを裏切るようなルール違反を積み重ねてしまってきたから。

で、気付いたら人生詰んでいるという悲しい状況の当事者は多いんではないでしょうか?

善意の掟破り

やらかしたときに「本当に知らんかったんです...」という状態を法律の世界では「善意である」と表現するらしいんだけど、その用語を使ってみるとKって人間は善意の累犯者なわけです。

犯した罪の一つ一つは軽微かつ善意にもとづくものだから、はじめのうちは甘く見てもらえるけれど、罪を重ねるにつれてどんどん罰則も大きくなって、やがて臨界点を突破して詰むわけです。

僕の人生もそんな感じっすね。規則がわからないゲームに強制参加させられてさ、他の参加者の迷惑にならないように精一杯慎重に行動していたのに、知らんうちにゲームの規則を破りまくってゲーム自体への参加権を失ってしまったという。

何が困るかって、その参加権失効したゲームから離れることは死ぬまでできないってことですよ。ゲームへの参加は拒まれているけれど、プレイをやめることもできない。カードゲームでいうところの捨て札的な存在として場に居続けなければならないのはホントつらいっすね。

おわり

お腹空いてきたのでやめます。

あ、正月用に買った「至」って名前の佐渡島の日本酒がどえらいうまいです。機会があれば飲んでみてほしいです。

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