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【詩】手のひらの細胞に捧ぐ

嗚呼 手のひらの細胞よ
わたしは おまえに詫びねばならぬ

かつて わたしは 幼い子どもであった
家の中には ストオブが
赤々と 燃えていた

母は わたしに言ったのだ
ストオブに触っては いけませんと

何ひとつ わたしは
考えていなかった

いや それとも わたしは
考えたのかもしれない

ストオブに触ったら
どんなことが 起こるのか

嗚呼 その後のことは
ご存知のとおり

わたしは その後
ストオブを触らない

手のひらの細胞よ
おまえに何の罪があろう

罪人が欲しければ
わたしは 罪人の位置に立つ

嗚呼 しかし
手のひらの細胞よ

ストオブの存在を
抹殺するのは
思い止まってくれ

ストオブは 寒い冬を
越すための
家族の必需品なのだ

生身の人間の
分際をわきまえず
素手で触った
この わたしに
罪があるのだから

幼子の わたしは
脊髄反射により
瞬時に
手を引っ込めた

脳が判断するよりも早く

わたしは 手のひらに
火傷を負った

しかし
手のひらの細胞が
入れ替わり 傷を癒し

わたしの 今の
この わたしの手に
火傷のあとは
残っていない

手のひらの細胞よ
おまえは恨んだかもしれない
憎んだかもしれない
嘆いたかもしれない

わたしは おまえに
何度だって懺悔するとも

手のひらの細胞よ
おまえは人間を
知っているか?

ストオブが
何のために存在するか
知っているか?

脊髄反射が
何のためにあるのか
知っているか?

おまえに
人間の言葉が
理解できるか?

いや いいのだ
おまえは おまえのままで

わたしの言葉は
おまえに届かない

きっと 神は
おまえにわかる言葉で
語りかけているだろう

神は
おまえの全存在を
ありのままに
愛して下さっている

だから おまえは
手のひらの細胞として
命を燃やして
生きてくれ

ただ 詫びたかった

ただの人間の
幼かった自分の
手のひらの細胞に

語りかけてみたかった

届かないと知りつつも

チャリーン♪ しあわせに、なーあれ(о´∀`о)