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たぶんパンがいる道

飲食店でバイトを始めて約2年が経とうとしている。同じ店舗が2つ近くにあり、あっちに行ったりこっちに行ったりといった感じで2年間続けている。どちらの店舗も自転車で5分ほどで到着する。しかし、ひとつはお店などが集まる綺麗な道を通って店舗まで行くのだが、最近行っている方の店舗までの道はとにかく暗い、そして細い、裏道がいちばんの近道。なんならトンネルまである。短いけれど。トンネルは雰囲気というかいろいろと怖い要素が詰め込まれている。短いけれど。歩いては通りたくないし、通るくらいだったらいつも回り道をする。帰りは暗いので通らないで回り道をする、絶対に。

でも。バイトに行く時に、そのトンネルをくぐり抜けた先で待っているのは、パンの匂いがする道だ。パンはいつも17時ごろに現れる。トンネルをくぐって、一旦止まれのところで自転車のブレーキをかけ、車がいないのをちゃんと確認してから信号のない横断歩道を渡ると、出会うのだ。いつもの美味しそうなパンの匂いと。あのパンの匂いは、メロンパンとかカレーパンとかそういった味つきのパン(という表現が正しいかはわからないが)、ではない匂い。ほんとうに、パンそのものの匂い。

パンの匂いがするからもちろんパン屋さんがあるのかと思っていた。そう思って2年間、もう一つの店舗に行っていることもあるので1年間ほどだが、通っていたのに一向に見つかる気配がない。なぜなんだろう。見落としているのか。いや、あのあたりにパン屋さんなんてあるか、そういう雰囲気ひとつ感じないのだが。というわけで私は考えてふたつの可能性を出してみた。ひとつは、パン屋さんから流れてくる匂いがどこからか、遠くの方からか、風に乗って私の通る道まで辿り着いている。もうひとつは、パン系の工場がある。工場っぽい建物はあるからもしかしたら後者の推測の方が正しいのかもしれない。でも、パン屋さんがパンを売るために、お店の前に巨大な扇風機を置いて風を作り出し、匂いをこちらまで届けているとしたら、それはそれで面白い。とかなんとか巨大な扇風機を置いたところで風がここまで届くはずないのだが、そんなくだらないことを考えながら本日もあの道を通ってきた。

あの道には綺麗な緑があって、川があって、左を見ると夕陽が沈んでいて、少しの間だけ田んぼがお花畑になっているような、そんな場所だ。トンネルをくぐり抜けてやっと到達するそこは、働く前の私に少しのパンと、遊び心満載の頭脳と、安らぎを体験させてくれる。

パン屋さんなのか、工場なのか、また違うものなのか。地図を見ればわかるはずなのだけれど、わからないことをそのまま不思議だなあと思っていたい、このまま何だろうと考えをめぐらせていたいので、答えは知らないままにしておこうと思う。


※ちなみに写真はその道ではありません、、🚶🏻‍➡️

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