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我が家に来た可愛いベビーの話②

お腹の子に先天性横隔膜ヘルニアの疑いがあること、場合によっては人工妊娠中絶の決断をしなければならないこと。
私がそれを伝えられたのは20週と5日のことだった。
つまり約1週間以内には命の選択をしなければならなくなった。

診察室から出て紹介状を書いてもらう間、待合室で涙が出た。
お腹の大きな他の妊婦さん達を見ているのがつらかった。
どうして私は普通に子どもを産めないのだろう。
長男を身ごもった時には考えもしなかったことだ。
あの頃、同じ待合室の中に今の私のようにお腹の子に異常を告げられた妊婦さんはいたのだろうか。私は膨らんだお腹を撫でて、その胎動に幸せを感じるばかりで、何も考えていなかったと思う。
ただ、私の救いは七歳の長男がいることだ。
そして死産という最悪の結果も経験している。

紹介状を受け取って帰宅し、すぐに夫に連絡をした。
紹介された病院での診察は二日後だ。
診察次第で中絶の決断を迫られるかもしれない。
夫婦で選択を話し合っておく必要があった。

横隔膜ヘルニアにおいて一番のネックは胃や腸が肺を圧迫して、肺低形成のまま生まれてしまうことだ。
そのため生まれてきた赤子は自発呼吸がうまくできず、人工呼吸器につながれることになる。
だがこれも横隔膜にあいている穴の大きさによる。
穴の大きさによって重症度が違うからだ。

十か月、お腹で無事に育つかわからない。
生まれてもすぐに死んでしまうかもしれない。
そして生まれてすぐにたくさんの管を繋げられる自分の子。
どんな障がいが残るのかもわからない。

私と夫の決断はどちらも中絶に傾いていた。
ただでさえ私は長男と死産した娘を帝王切開で取り出している。
次の妊娠のことを考えるとリスクが多すぎた。
それに加え現実的な話、長男はもう七歳で少し親の手を離れたところ。
もう長男さえいればいいのではないかとも思ったのだ。
私は仕事をすることができるし、子供一人ならば経済的な余裕もでる。
2つ用意した子供部屋も、1つは夫の書斎にでもすればいい。
結婚当初の理想像であった子供2人に囚われる必要はない。
今だって十分、幸せなのだから。

話し合った結果、私たちは診察の結果次第ではあるものの、中絶をするという決断を持って紹介された病院へ行くことにした。

もう少し膨らんだお腹では、ごくたまにもぞもぞと命が動くのを感じられていた。本音を言えば、このままお腹に入れておいてあげたかった。
お腹の中で静かに眠るのと、生まれてつらい思いをさせて眠るの、どちらがこの子にとって良いのかわからないままだった。

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