Weekly Quest 2021年12月20日号
毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。
今月は米国株式市場において過去に起こった株式の大暴落を大まかに4つに分けてどのような暴落であったかを簡単に見ていきたいと思います。
②1987年10月 ブラックマンデー 数時間で下落率22%
今回は1987年10月の大暴落を見ていきたいと思います。この暴落はブラックマンデーと呼ばれています。1987年10月19日月曜日に起きたものです。1日での下げ幅は過去最大であっという間に20%以上も株価が下落しました。現在のNYダウで考えると1日でざっと$7000下げたことになりゾッとしてしまいますが、現在ではサーキット・ブレーカーが発動し取引が中断されますのでこのようなことが起こることはないと思いますが、このサーキット・ブレーカーはブラックマンデーを機に導入されました。
この頃の経済状況は1982年ぐらいまで不況でしたが当時の大統領、ロナルド・レーガンのサプライサイド・エコノミー政策により回復していきます。 ”強いアメリカの復活” を掲げ大幅減税、規制緩和を推し進めます。また輸出大国日本との貿易不均衡を是正するためにプラザ合意を締結しドル安政策を推し進めました。その結果個人消費支出が大幅に拡大し景気が良くなりまたもやバブルの様相を呈していきました。
また、前回の①1929年10月 ウォール街大暴落 下落率35%でも見られたように今回も投機を拡大するものが出現してきます。それはLBO(Leveraged Buy Out)という企業買収策です。個人にとっての新兵器というよりは企業側にとっての技術で、なんとも摩訶不思議な方法ですが買収される企業の資産や預金を担保に資金調達し買収する方法です。買収がうまくいきそうにないと敵対的TOBになります。またそれと同時にJunk Bond(ジャンク債)なるものが登場してきました。いわゆる劣後債、投資不適格債ですが、LBOを実行する上で非常に役に立った債券でした。
買収する際の費用は60%が銀行からの借入、残りの40%がこのジャンク債により調達されるようになりました。ブラックマンデー直前の米国金利は6%でこの債券はだいたい14〜5%ぐらいの金利がついていましたので、アメリカ国内外で相当な需要がありました。
(日本生命ニューヨーク事務所・海外だより・LBO(Leveraged Buy Out)を巡る最近の動向についてより引用)
このLeveraged Buy Outは「大きな負債によって、僅かな所有権を得て企業を支配することが可能」([新版]バブルの物語/ジョン・K・ガルブレイス)ということで、またもやレバレッジが投機を助長していくことになったのです。世の中の資金が回り始め投機が投機をよび、「株高は当たり前」というユーフォリアに陥ります。また株式注文を電子化したプログラム売買によりリアルタイム取引が可能になりNYダウはさらに高値をつけていくことになります。
その後1987年2月22日にパリで開催されたG7で、プラザ合意以降のドル安を是正するためにルーブル合意が結ばれます。翌年に当時の西ドイツが突然利上げを行いましたが、それを契機に世の中の様子が少しづつ変化し始めていきます。また個人消費が拡大する中、インフレ抑制のために1987年9月にFRBは公定歩合を6%に引き上げます。翌10月14日に発表された貿易収支で赤字額が予想を上回る金額に拡大。これをきっかけに株価の方はドル安と金利引き上げにより下落しはじめました。10月15日には株式から債券への大幅な資金シフトが起き株価はさらに下落、その下落をヘッジするためにさらに先物市場に大量の資金が流れ始め、プログラム売買によりさらに売りが加速化していきます。
そして土日を挟んだ1987年10月19日月曜日、株式市場では「買い注文」が入らない状況から始まりました。NYダウ構成銘柄30銘柄中11銘柄が売り気配のままで、取引開始から1時間で大幅に下落します。大量の注文が殺到したことによりシステムの処理能力を大幅に超えたためシステムがダウンしてしまい、多くの注文が「未処理」になってしまいました。結局最後はNYダウで$508安でおわり大暴落になってしまいました。
以上が1987年10月19日のブラックマンデーの概要です。ここでも3つの重要なポイントが見られます。前回のウォール街大暴落に続き歴史が繰り返されることになりました。
・金利の引き上げ
・投機を可能にする新技術・・・プログラム売買による注文の自動化
・投機の拡大・・・LBOというレバレッジ手法とジャンク債の拡大
再び大きな暴落に見舞われた米国ですが、このブラックマンデーが世界中に飛び火していくことになります。中でも酷かったのが日本の市場でした。一旦下落した日経平均は再び上昇しますが、公定歩合引き上げによりとどめを刺されることになりこの後30年間にわたって不況が続くことになります。この崩壊前の日本の状況は、「財テク」という言葉が流行し、株式にしても不動産にしても投資すれば必ず値上がりするという「一億総投機」と言われたユーフォリアな状態でした。銀行が現金数億円をジュラルミンケースに入れて家にまで押し寄せ「この土地を売ってください」と頼みにきたというエピソードもあるぐらいでした。
次回はその③リーマンショック 下落率22%を見ていきたいと思います。ここでも再び歴史が繰り返されることになります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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Weekly Quest 2021年12月13日号
参考文献
・BLACK MONDAY A crash that shook the financial world/ 50MINUTES.com
・大統領でたどるアメリカの歴史/ 岩波ジュニア新書
・アメリカ経済の歴史 1492-1993/ 東京大学出版
・お金は「歴史」で儲けなさい/ 朝日文庫
・[新版] バブルの物語/ ダイヤモンド社
・大暴落 1929/ 日経BP
・世界恐慌 1929年に何が起こったか/ 講談社学術文庫