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THE 戦闘員 第3話

「元気にしてたか?」

走ってきた息子を剛は抱きかかえた。

小野正利、8歳、小学校2年生。小野剛の一人息子だ。

正利はキラキラした目で聞いた。

「今日はどうだったの?」

剛「ん?あー、もちろん、ビシッと勝ってきたぞ」

正利「パパすごーい」

剛「あまりにも謝るから許してやったけどな」

息子の前では仮面バスターに全勝しているのだ。

正利「僕もパパみたいに強くなりたいな」

剛「頑張ればきっとなれるよ」

正利「ほんと?」

剛「うん。だからまずは、学校の勉強いっぱいやるんだぞ」

正利「ヒー」

正利は姿勢を正し、胸を張り、右手を斜め45度に挙げて言った。

剛「よし、飯にするか?テーブル拭いとけよ」

正利「うん。今日は何?」

剛「山奥で採れた山菜だ」

剛はテーブルにどっさりと出した。

正利「わーレア。今夜も勝利の晩餐会だね」

その間もずっと、正利の目はキラキラしていた。小野剛には眩しすぎて、しっかり見ることはできなかった。

山奥で採れた山菜を茹でると物凄くアクが出た。「悪」はいいが、この「アク」はよくない。山奥で採れた山菜を正利は無邪気に頬張った。今、この子には父親しかいない。母親は?

小野剛が19歳の時、奈緒子に出会った。

ぴったりタイツによってあらわれるボディーライン。ぴったりタイツからはみ出しそうなバスト。女戦闘員はたまらなくセクシーだ。それはサタン首領が来ても、小野剛は「気をつけ」できないほど。

そんな女戦闘員奈緒子に小野剛はメロメロだった。小野剛は猛アタックをかけ、なんとか遊園地へデートに。戦闘服を着た二人がジェットコースターに乗る。最後の急降下で写真を撮られた。二人の表情は覆面でわからなかった。しかしその共通の経験は二人の距離を縮めた。そして付き合うようになる。それから一年後、結婚をした。結婚式は勿論、純白の戦闘服。

すぐに正利が生まれた。最初は幸せな結婚生活だった。

が、徐々にケンカが多くなってきた。小野剛は戦闘服を持って奈緒子に文句を言っている。破れた個所にハートマークのアップリケが。

剛「お前、こんなかっこ悪いの着れるわけねーだろ!」

奈緒子「可愛いくていいでしょ!」

剛「悪の秘密結社がハートマークなんて笑われるぞ!もう、新しい戦闘服買ってこい」

奈緒子「戦闘服なんて3万もすんのよ?あんたの安月給で買えるわけないでしょ!」

剛「じゃあお前の貸せ」

剛は奈緒子の戦闘服を脱がそうとする。

奈緒子「イヤよ。ちょっと何するのよ」

剛「ていうか、何でずーと着てんだよ。お前の顔、一度も見たことねーぞ」 

こうなるともう止まらない。剛は今まで不満をぶちまける。

小野剛は奈緒子に赤いマフラーを見せた。

剛「これ、なんだ?」

奈緒子「あんたが寒いだろうと思って、私が編んだマフラーでしょ?」

剛「なんで赤でマフラー編んじゃうんだ!赤いマフラーは正義の印だろ?馬鹿か?」

奈緒子「なんだと、コラー」

奈緒子は剛に飛びかかった。 

少しして剛は目撃する。奈緒子と怪人蜂男がホテルに入る姿を。

そして離婚した。それが今から3年前だ。そこから、小野剛と正利の二人暮らしが始まった。

正利は山奥で採れた山菜を飽きずに頬張っている。

剛「正利、学校はどうだ?」

正利「今日、習字やったよ」

正利はランドセルから今日書いた判氏を小野剛に見せた。 

「征服」と力強く書いてある。

正利はとびっきりの笑顔を見せた。                        

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