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不幸交換:他人の不幸を自分に移す能力で恋した彼女を守った最期

『不幸交換』

彼女は暴漢に刺された。
確かに夜道で暴漢に刺された。
犯人が逃げた後、ある男の人がやってきた。
そこまでの記憶は彼女にはあった。

しかし、病院のベッドで寝ているのは彼女ではなく、あの男だった。

僕は不幸交換という能力を持っている。
人の不幸を自分に引き受けることで、その人を救う能力だ。

僕はこの能力で、たくさんの人や動物を助けてきた。
事故や病気や虐待など、僕が目にした不幸な者たちに、僕は自分の幸せを差し出した。

その代わりに、僕は彼らの不幸を受け取った。
僕は自分の健康や幸運を失っていった。
すでに僕の体はボロボロだった。

しかし僕はそれでも良かった。
僕は自分の命よりも他人の命を大切にした。
それで僕は自分の存在意義を他人の幸せに見出していた。
僕は自分が不幸になることで、世界が少しでも良くならいいと思っていたのだ。

そんな僕に出会ったのが、彼女だった。
彼女は暴漢に刺されたところを目撃したのだ。

僕は不幸交換の能力を使った。

僕は彼女の不幸を取り除いたのだ。
その結果、僕が病院のベッドの上に寝ることになった。

彼女は混乱していたが僕に感謝してくれた。
この出会いがきっかけで、僕に恋してくれた。
僕もまた、彼女に惹かれていった。

二人はやがて恋人になった。
二人は本当に幸せだった。

しかし、彼女はあの謎をずっと思っていた。
「刺されたのは確かに私だった」

そしてとうとう、彼女が僕の能力を知ってしまった。
彼女は僕が人助けをする度に自分の幸せを失っていることに気付いてしまったのだ。

彼女は驚いて怒って泣いた。

「何でそんなことするの?自分の幸せは大切じゃないの?」
「他人の不幸よりも自分の幸せが大切だよ。それくらいわかってよ」
「もうやめて。これ以上やったらあなたが死んじゃう」

そして彼女はお願いをした。

「私と一緒にいて。私を幸せにして」
「不幸交換なんてしないで。私だけを見てて」
「約束して。二度と能力を使わないって」
彼女はそう言って抱きついてきたんだ。

僕は彼女の言葉に心を揺さぶられた。
そして、迷った。

僕はどちらを選ぶべきだろうか?

僕は人の不幸を取り除くことで、自分の幸せを捧げるべきだろうか?
それとも、不幸を取り除くことを辞めて、自分の幸せを守るべきだろうか?

僕は悩んだ。

そして、決めた。

僕は彼女との幸せを選んだ。
僕は不幸交換をやめることにした。

彼女に約束した。
「わかったよ。もうやめるよ」
「君と一緒にいるよ。君を幸せにするよ」
「約束するよ。二度と能力を使わないって」
僕はそう言って微笑んでだ。

彼女はそれを聞いて喜んで笑ってキスした。
「ありがとう。嬉しいよ」
「愛してるよ。ずっと一緒にいようね」
「約束するよ。二度と離れないって」
彼女はそう言って抱きしめた。

二人は本当に幸せだった。

でも、その幸せが僕を苦しめた。

ある日、僕は不幸な人を見てしまった。
事故や病気や虐待など、僕が目にした不幸な者たちを見てしまった。
僕は彼らを助けたくなった。

でも、我慢した。
僕は彼らを見て見ぬふりをした。
僕は自分の幸せを失いたくなかった。
僕は彼女との幸せを失いたくなかった。

でも、本当にそれでいいのだろうか?
自分だけが幸せでいいのだろうか?
他人の不幸に目を背けていいのだろうか?

そんなことを考える度に、罪悪感に苛まれた。
そして、僕は、今、幸せなのか不幸なのかよくわからなくなった。

そんな僕に、彼女が言った。

「大丈夫?最近元気なさそうだけど。何か悩んでることある?話してみてよ。私にできることある?何でもしてあげるよ」

彼女はそう言って心配してくれた。
そして、励ましてくれた。

「私がいるよ。あなたのそばにずっといるよ」

彼女はそう言って優しくしてくれた。そして、愛してくれた。

僕は彼女の言葉に感謝した。そして安心した。
「悩んでないよ。君がいればいいよ。愛してるよ。君と一緒にいたいよ」

しかしそれは突然起こった。

彼女が事故に遭ったという知らせを受けた。
彼女は僕と会うためにバスに乗っていたところ、トラックと衝突してしまった。
彼女は重傷を負って病院に運ばれた。
僕は慌てて病院に駆けつけた。

彼女の姿を見てショックを受けた。

全身に包帯を巻かれてベッドに横たわっていた。
彼女は意識がなくて、呼吸器に繋がれていた。

もう目を覚まさないように見えた。

僕は彼女の手を握って泣いて謝った。
「ごめんね。君を守れなくて」
「ごめんね。君を幸せにできなくて」
「ごめんね。君と一緒にいられなくて」
僕はそう言って後悔した。
僕は自分の選択を後悔した。
僕は不幸交換をやめることを後悔した。
僕は彼女との幸せを選んだことを後悔した。
僕は自分が不幸になることで、世界が少しでも良くなると信じられなかったことを後悔した。

そんな僕の耳に医者の声が入ってきた。
「残念ですが、彼女の状態は非常に危険です。手術をしても成功する可能性は低く、生き延びることも難しいでしょう。あと数時間しかありません。最後の別れをしてください」
医者はそう言って去ったんだ。

僕はそれを聞いてすぐに決心した。


彼女が目を開けた。
僕は隣りに横たわっている。

彼女はすぐに察した。
そして叫んだ。

「何してるの?こんな所で寝てる場合じゃないよ。早く起きて。私と一緒に帰ろうよ。約束したでしょ?二度と能力を使わないって」
彼女はそう言って抱きついた。


でも、僕はもう動けなかったんだ。

僕は彼女に微笑んで言ったんだ。

「ごめんね。君を救いたくて。ありがとうね。君を愛せてよかったよ。約束するよ。二度と離れないって」

彼女に聞こえただろうか?
そして、僕は眠ったんだ。

これが僕の能力。
不幸交換だ。



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