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進撃の自傷者

『自傷と巨人の狭間で』

私は精神科医の仕事をしている。

あれは何だったのか?
私はあの日のことを忘れることができない。

ある患者が来た。
その患者は自傷行為をしてしまったらしい。

私はいつも通りの対応をしようとする。
自傷行為の程度や部位に応じて、適切な応急処置や外傷治療を行う。必要に応じて、外科や整形外科などの他科と連携する。
自傷行為の原因となる心の病気や障害の有無を診断する。うつ病や統合失調症、境界性パーソナリティ障害などの可能性を検討する。
心の病気や障害がある場合は、適切な薬物療法や心理療法を行う。

そして何よりまずは患者の話に耳を傾け、共感的に対応する。

しかし私は話を聞いて、何をしたらいいかわからなかった。
この仕事をして30年。
新人のころはそういうことはあったが、今、どうすればいいかわからないなんて。

その患者は18歳の女性。
痩せていて、髪もボサボサだった。
私はてっきり自傷行為のことでここにやってきたと思っていた。
しかし違った。
いや、違くはないのだが、もう自傷行為をした理由はどうでもいいのだ。
問題は自傷行為をした後だった。

彼女は自傷行為をしたら、巨人化してしまったらしい。

自分が巨人化して悩んでいるらしいのだ。

そんなことをいわれても…。
何それ?
どういう意味?
私は困惑した。

彼女はポカンとしている私にある漫画を見せてきた。
「進撃の巨人?」
なんか息子からそのワードを聞いた覚えがあった。
主人公が巨大になって、巨人と戦うみたいな。
私の中ではウルトラマン的解釈だった。
しかしその漫画をペラペラめくると、どうもそんな感じではない。

彼女が言うには、自分の体に傷をつけることで、巨人の骨髄液が体内に流れ込み、巨人化のトリガーとなるみたいだ。

そんなことをいわれても…。
もしかしたら彼女は虚言壁かもしれない。

信じていない私を察してか、「やってみましょうか?」と彼女は言った。
その言葉には重みがあった。
もし彼女が巨人化したら、この建物が危ない。
そこまで思わせる説得力があった。

本当なのかな?私は思った。
だとしたら、自傷行為の患者は対処できても、進撃の巨人になってしまう患者の対処はできない。

それは精神科ではない。巨人科だ。
ないけど。

しかし、自傷行為をしなければ巨人化にはならない。
なので自傷行為をやめさせればいいという観点においては何とかできる。
私は突破口を見つけた。

催眠療法でいけるかもしれない。
私は彼女をゆったりとできるイスに移動することを勧めた。

その時だった。

彼女が立ち上がったって移動するとき、何かに引っかかって転んでしまったのだ。
彼女のひざから血が…。

ちょっと待って。
これは自傷行為じゃないよね?

彼女は倒れたままだ。

いやいやいや、これは事故でしょ?

彼女の体は光り出した。

…話が違うじゃん。

建物が崩壊したのであった。


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