北千住_20180315_2018-03-15_16

【童話】さかあがり

確か初めて完成させることができた小説。書いたのは大学生ぐらいの頃。……ただ、小説といえるような内容ではないので、童話ということにしています。

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「それでは、みなさん。次はさかあがりをしてもらいましょう。じゃあ、スポーツが得意なしょうたくん。見本を見せてもらえますか」
「……先生、おなか痛いです」
「……しょうがないわね、そう。じゃあ、かずまくん。かわりに見本を見せてもらえますか」
 かずまはくるりと、さかあがりをした。てつぼうを降りたかずまは、しょうたのほうを見て、ニヤリと笑った。
「よくできました。さすが、かずまくん。では、みんなに」と先生が言いかけると、キーンコーンカーンコーンと鐘がなった。「残念ながら、今日はもう時間が来てしまいました。みんなには明日にさかあがりをしてもらいましょう。できない人は練習しておいてくださいね」
しょうたは元気がなさそうに水飲み場に行った。となりにかずまがきた。
「スポーツ万能のしょうたがどうした? おなかが痛いなんてウソだろ?」
「ううん、本当に痛かったんだもん」
「じゃあ、明日、さかあがり見せてくれよな」
「……もちろんさ」

しょうたは家に帰るとランドセルをほうり投げ、台所に飛んでいった。
「おかあさん、どうやったらさかあがりができるようになるかな?」
「さあ……練習するしかないんじゃないかしら。はなぞの公園に行けばてつぼうがあるでしょ」
「……はなぞの公園行ってくるね」
「五時には帰ってきなさいよ」

はなぞの公園は広く、ロープの機械、ぐるぐるのすべりだい、ふん水、公園にあるものがすべてありそうな公園。しょうたはてつぼうを探した。
そこにステッキを持ったスーツの白髪おじいさんがやってきた。
「おやおや、なにをしてるんじゃい?」
「てつぼうを探してるの。おじいちゃん、てつぼうってどこにあるの?」
「てつぼうかい? ここの公園にはないぞ」
「こんなに広いのに?」しょうたは、うでを大きく広げた。
「そう、こんなに広いのに。ないものはないんじゃ。ぼうや、どうぶつ公園って知ってるかい?」
しょうたは首を振った。
「そこに行けば思うぞんぶんに、さかあがりの練習ができるぞ」
「えっ? どうしてぼくがさかあがりの練習をするって知ってるの?」
「おやおや。おじいちゃんに知らないものはないぞ」
そうして、しょうたはおじいちゃんに連れられて、どうぶつ公園と呼ばれる公園に行った。そこにはカンガルーにバネのついた乗りもの、キリンのかたちをしたのぼりぼう、ゾウのかたちをしたすべりだい、そして、ふつうのてつぼうだけがあった。
「おじいちゃん、ここが?」
「そうじゃぞ。かわいい動物がいっぱいいるじゃろ」
「三匹しかいないよ」
「三匹で充分なんじゃ」
しょうたは首をひねりながらも、てつぼうのへ走っていった。
「おじいちゃん。ぼくがさかあがりするから手つだってよ……。あれ? おじいちゃん?」
おじいちゃんはもう、そこにはいませんでした。しょうたは一人でてつぼうの練習をすることになってしまいました。
しょうたはてつぼうを握り、「やあ!」と右足で地面をけりあげました。けれども、しょうたの体は地面にたたきつけられます。
「おかしいなあ。もう一度してみよう。えい!」しかし、結果は同じ。
「誰か、地面のけり方を教えてくれる人がいてくれたらなあ……」
そうつぶやくと、しょうたの後ろから声がしました。
「やあ。お困りのようだね」
しょうたが後ろを振りむくと、さっきまでのぼりぼうだったはずのカンガルーがニッコリ笑って、前足を振っていました。
「……もしかして、バネのついたカンガルーさん?」
「そのとおり、ぼくはバネのついたカンガルーさ♪ さっきそこで見てたけどさ、キミは地面のけり方が足りないのさ。もっとね、助走をして右足のひざを使うのさ。ぼくが見本を見せてあげるのさ♪」
カンガルーはゆっくりとてつぼうを握って、二、三歩後ずさりをして、ピョンと跳ねた。すると、カンガルーはとんでもない方向に飛んでいってしまいました。
「おかしいなあ、でも、キミならできるさ♪ 右足のひざをうまく使うのさ♪ さあ、さかあがりをしてごらんのさ♪」
「う、うん」
しょうたはてつぼうを握り、二、三歩後ずさりをします。そして、左足に力をいれて、右足のひざを使って地面をけりあげた。すると、さっきより高く跳ぶことができます。
「カンガルーさん、できたよ!」
「チッチッチッ。さかあがりへの道は長くてけわしいのさ。跳ぶことはできても、体がてつぼうに巻きついてないのさ」
「どうすればうまく巻きつくの?」
「チッチッチッ。それはぼくの担当じゃないのさ。そこのキリンに聞けばいいよ」
カンガルーはそう言って、のぼりぼうを見ます。すると、のぼりぼうのキリンは、のそっと動きだし、しょうたにおじぎをした。
「こんにちは。わたくしはキリンでございます。ずっと、あなたたちのことを見てました。どうやら、てつぼうに巻きつくコツがわからないようですね。わたくしが手伝ってあげましょう」キリンはそう言って、てつぼうの近くまで来た。「さあ、やってごらんなさい」
しょうたは右足をうまく使って跳んだ。体が浮かぶと、しょうたの足元にぬれた感じした。それはキリンの鼻。キリンはしょうたの体を支え、体は浮いたままになりました。
「よろしいですか。跳んだあとは、腕を手前のほうに強くひくのです」
キリンは鼻をゆっくりと地面に降ろすと、しょうたの身体もゆっくりと降ろされます。
「ぼく、できそうな気がしてきた! キリンさん、ありがとう」
「しかしですね、腕を強く引いても巻きつくことは難しいのです。そこで、最後のどうぶつをご紹介しましょう。さあ、ゾウさん」
すると、ゾウのかたちをしたすべりだいのすべり部分の鼻がブルッブルッとしました。ゾウがゆっくり、カンガルーとキリンとしょうたのいる場所へ近づいていきます。
「もおしかあして、ぼおくがひつよおうかい?」
「そうなのさ♪ ゾウくん、頼むよ」カンガルーが言った。「あなたが必要なのです」キリンが頭を下げます。「お願いします」しょうたも頭を下げた。
「わかったぞお。さあ、がんばろおう」
しょうたは二、三歩引き下がり、握る手に力をこめた。「よし!」しょうたはさけんだ。左足に力をこめ、右足のひざをうまく使って、跳んだ。
「バッチリさ♪」カンガルーは言った。体はフワリと浮き、しょうたは腕を強く引いた。
「その調子ですよ」キリンは言いました。ゾウの鼻がしょうたの背中にくっつきます。
「よおいっしょお」ゾウの鼻に支えられるようにして、しょうたはくるりと一回転した。そして、地面に着地した。
「ぼく、さかあがりできたよ!」しょうたはニッコリ笑った。「もう一回してみる。こんどは誰の助けもいらないよ」
しょうたは、地面を強くけり、くるりと、いとも簡単にさかあがりをした。
「やったーできた!」
「カンペキさ♪」「すばらしかったですよ」「おめでとおう」カンガルーとキリンとゾウは言いました。
「これで、明日の体育はみんなの前でさかあがりできるよ! カンガルーさん、キリンさん、ゾウさん、本当にどうもありがとう。みんな、バイバイ!」
しょうたは手を振った。カンガルーもキリンもゾウも手を振った。

そして、次の日の体育の時間。しょうたは見事にさかあがりをした。下校の時間になると、しょうたはまっさきに学校を出て、だがし屋に行った。「おばあちゃん、これいくら?」「チョコレートかい? 一つ三十円だから、三個で九十円だよ」「はい」「ありがとう。おつりの十円だよ」
しょうたはどうぶつ公園のほうへ走っていきました。しかし、いくら探してもどうぶつ公園は見つかりません。そこにパトロールをしているおまわりさんが通りかかりました。
「おまわりさん、どうぶつ公園ってどこにあるの?」
「どうぶつ公園? そんなのないよ。はなぞの公園のまちがいじゃないか?」
「ぼく、昨日そこで、さかあがりの練習したんだ」
「ぼうや。おまわりさんをからかっちゃダメだぞ」
おまわりさんはポンポンと、しょうたの肩をたたき、夕日の見える方向へ歩いていきます。しょうたは、夕日にかかる雲をじっと見つめていました。

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