幸先いいね

おはようございます。今回は #旅する日本語  企画に参加しております。
なので、いつも書いている子供向けのおはなしとは違って、エッセイになっていますので、ご了承ください。
10年も前のことなのか!と、書いていて驚愕でした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 10年前、私が大学三年生の夏休み。私は友達と一か月のホームステイに行くことにしました。
車の免許を取るために貯めていたお金をホームステイに全額使いました。
免許はいつでも取れるけど、ホームステイ(しかも学割)は今しかできない。来年からは就活も始まるし、今年が最後のチャンスかも!その時の私は、そう思い込んでいました。

私はそのホームステイが初めての海外でした。行先は、カナダのトロント。時差は13時間。もちろんトランジットも初めて。ボストン経由で行くことになっており、カナダに着くのは夕方で、ホストファミリーが空港まで迎えに来てくれることになっていました。

友達がいたからよかったものの、大きなトランクを預けた瞬間、私は一気に心細くなりました。空港で飲むスタバがやたらおいしく感じました。

飛行機に乗り込んでからは、ホームステイするとみんな太って帰ってくるから、アップルパイとか出てきても食べすぎないようにしなきゃなーなんて考えてたと思います。

飛行機はちっとも飛ばない。そのうち、ポーンと鳴りました。
機体の整備不良のため、点検と部品の交換をしなくてはならず、一旦降りてください、とのこと。
旅行慣れした友達はかなり機嫌が悪かったけど、なんせ飛行機に乗るのも人生で三回目だった私は、点検と部品の交換に費やす時間を全く予測できていませんでした。

6時間待ちました。日本でこれだけ出発が遅れたら、トランジットはちゃんとできるのか、カナダに着くのも何時になるのか、この状況をホストファミリーに伝えた方がいい気がする。
3時間くらい待った時点で、留学のサポート会社に電話したけど、担当者はすでに帰宅。他の方にお願いをして、ホストファミリーに到着時間がいつになるかわからないことを伝えてもらいました。

不安はあったはず。でも、ここは日本だし、友達いるし、まぁ大丈夫でしょ、と私は高を括っていました。飛行機に乗れたとしても、おそらく次の問題はボストンで起きるわけで、「ここが日本」という安心感は全く当てにならないのに。

飛行機の部品が交換され、点検が終わり、私たちが乗り込めたのは夜の8時過ぎだった。
疲れた・・・。寝たい・・・。一刻も早く。てゆうか、乗り換えちゃんとできんのか。友達とぶつくさいいながら席に着きました。

飛行機は、私たちの焦りや不安はまったくの無視で、ゆっくりゆっくり、滑走路へ移動しました。
カナダに着くのは何時なんだろう。乗り換えもあるし、夜中なんじゃないか。ホストファミリーがそんな時間に待っててくれるのか?だれもいなかったら、私たち空港で寝るの?

飛行機はぐわんと地面から離れました。

「あ、花火だ!」

窓際に座っていた友達が言いました。窓から、花火が上がっているのが見えたんです。
そうだ、今日はお祭りがある日だった!
私たちの前の座席には、私たちと同い年くらいの外国の女の子二人組が座っていて、窓の外を見ようとしていました。私は思わず、

〝Fireworks!!”

英語でそう伝えていました。その時初めて"Oh my god!"を生で聞いた気がします。
花火を上から見たのも、見ず知らずの外国人とコミュニケーションをとったのも、それが初めてでした。
「なんか幸先いいね。」「いろいろあったけど、なんとかなりそうじゃない?」
線香花火くらい小さくなっていく花火を見ながら、友達とポジティブな会話をしていました。

あまりに印象的な出来事でした。私たちのことを応援してくれてるような気がしていました。
私にとっての留学の記憶の中で、その時の情景が一番心に残っています。
カナダについてから、どうやってホストファミリーの家にたどり着いたか、ホストファミリーの家からの最寄り駅はどこだったか、学校で同じクラスだった友達の名前も、毎日のように通っていたドーナツ屋さんで、どうやって注文していたのかも、正直、ホストファミリーの名前すらも、私は何も思い出せません。

たんぽぽの綿毛が咲いたような、赤や青の打ち上げ花火と、初めてそれを英語で伝えたあの瞬間に、私の留学は、もう満たされてしまったようです。

それぐらい、『いい幸先』でした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・end

むしろ「幸先」しか覚えてないっていうお話でした。


サポート頂けましたら、娘へ絵本を買おうと思います!オススメの絵本があったら教えて下さい!