覚えておきたいこと・忘れたくないこと2020.1月からの記憶 その1
自分の記憶に自信がない。
いろんなことをすぐに忘れてしまう。
阪神大震災のとき、大阪にいながらどんなふうに感じて過ごしていたのか。
3.11のときは、誰とどんなことを話したのか。
覚えていることもあるけれど、忘れてしまったことのほうが多い。
( 3.11のときは、その日の晩に大阪で笑福亭三喬師匠と柳家喬太郎師匠の
二人会があって、打ち上げの席で喬太郎師匠が「本当にすみませんが」と、ずっと携帯を気にしてらしたことを覚えている。
「すみません」なんて気にしないでほしい、当然のことだと思った )
このままだと、このコロナ禍のこともたぶん忘れてしまう。
でも。
いつごろから、公演キャンセルが行われたのか。
それをどんな気持ちで受け止めたのか。
このままだと忘れてしまうことを書き留めておきたい。
でないと、忘れてしまうと、なかったことになってしまうから。
2020年1月半ば~下旬
中国で「新型肺炎」が流行していると聞いたけれど、本当に申し訳ないのだけれど、正直まったく他人事だった。
以前 SARS や MARS が流行したときには、感染された方にはすみませんですが当時、わたしの知る範囲ではそれほど広がらなかったこともあって、あれに似たものなのかなと思っていた。
ネットのニュースで、武漢の空き地(?)にショベルカーが大集合しているのを見てナニコレ? と思ったら、突貫工事で病院が建てられるという。中国はやることが大胆やなぁと、このときは笑っていたのだけど…。けど…。
一月下旬、奈良のバス運転手さんや大阪のバスガイドさんが感染されたというニュースが飛び込んできてギョッとしたものの、いつも通り落語や歌舞伎文楽、浪曲を見て、打ち上げでお酒を飲み、笑う毎日だった。日常生活には、なんの変化もなかった。まだこのころは。
(3月以降の公演も当たり前にあるものだと思っていた)
2020年2月22日ごろまで
ダイヤモンドプリンセス号内で、10人の感染が確認されたのが2月5日のこと。そのあと、知りあいの知りあいがこの船に乗っているという話を聞いて
「ええええーーー!」
となり、初めてこの新型肺炎を身近なものとして受け止める。
直接は知らない方ですが、どうかご無事で…と祈った。
だんだんと、ひたひたとなにかが迫りくるのは感じていたものの、それでもまだ「船の中のこと」で、ここで感染を食い止められたら大丈夫だと信じていた。無意識に避けていたのか、あまりテレビのニュースを見なかったので、楽天的でいられたのかもしれない。
2/9(日)に、落語と狂言が合体した会『お米とお豆腐』の公演を見に京都へ出かけ、翌日10(月)には、松竹座で米朝師匠と奥さまを題材にしたお芝居を見て、主に米朝師匠役の俳優さんに対して「なんやこれは!」と憤ったりしていた。
2/11(火)~15(土)まで、朝日放送ラジオでABC『上方落語をきく会』の公演があり、ラジオでも生放送され、連日お能からABCホール、映画からABCホール、とかけもちで見に行った。
そのとき見たお能の記事がこちら。コロナのコの自も書いていない。ごく普通の日常だ。
ABC『上方落語をきく会』初日のトリをつとめた桂南天さんが『くっしゃみ講釈』をかけられ、「この時期によくぞこのネタを!」と、ネタ選びの勇気をたたえるツイートがあったのを覚えている。「咳」や「くしゃみ」がちょっとこわいと思われ始めていたころだったのか。
客席は、満席の日もそうでない日もあったけれど、「コロナがこわいからキャンセルしよう」という空気は落語会ではまだ、そこまでではなかった。
入口でのアルコール消毒もまだなかった。と思う。(すでに記憶があいまいに…)
2/15(土) に枚方市立メセナ枚方会館で行われた『南光・春若二人会』では、入り口にアルコール消毒液が置かれていた。使うか使わないかは個人の判断に任されており、マスクもしていない人がまだ多かった。客席は満員御礼だ。
和室の楽屋では、「ギャラとしてもらったピン札は、そのままピン札として保存するか、それとも折って財布に入れるか」という話をしていたのを覚えている。大部屋でみんな一緒に笑っていたのが、つい2か月前のことなのに、遠い昔のことのよう。
2/17(月)、面識はないのだけれど、ショックを受けて「てがみ座」の長田育恵さんのツイートをリツイートしている。
「まだ演劇界のどなたとも話していないけれど、新型肺炎の余波が劇場に来ている気がする」
という一連のツイートに、劇場からフロント全員にマスク着用が義務づけられたけど、なかなか買えなかったこと、動員が落ち込んでしまったことが書かれていた。
ヒヤリと刃物を突き付けられたような感じがしておそろしいと思いつつ、それでもまだ自分は
「お客さまに安心して来ていただくにはどうしたらいいんだろう」
と考えていた気がする。
というのも、同じ17日に書いた自分のツイートで、
3/4(水)の、自分が主催をしている桂あさ吉さんをお迎えしてのトークと落語の会に、1名さまキャンセルが出たため受付をしているのだ。やる気まんまんだ。
定員35名のこの会、1/12 に受け付けを開始してから、キャンセルが2件あった。お一人はとくに理由は書かれておらず、2月下旬にキャンセルの方は「新型コロナの影響を考えて」とあった。
2/18か19だったか、神戸大学の岩田健太郎先生によるYouTube
『ダイヤモンド・プリンセスはCOVID-19 製造機』
が投稿され、Twitterでも瞬く間に広がっていった。
それまでうっすら思っていたものの、「いや、まさか」と必死で打ち消そうとしていた「これって…かなり危ないのとちがう?」という戦慄が、一気に広がった気がする。
と同時に、自治体が主催する落語会や、公的なところが運営している会場での会の、中止のお知らせが届きはじめたのもこのころだった。
たとえば、3/3(火)に、大阪市立総合生涯学習センターで予定されていた
『桂雀三郎一門による 梅田にぎわい亭』中止のお知らせが、2/20に出演者の桂雀喜さんからツイートされている。
翌日、2/21には、笑福亭銀瓶さんのツイートで大阪市主催の3/14(土)『初心者のためのはじめての寄席 繁昌亭NIGHT』が中止となり、自主公演として同じ日に、神戸の喜楽館で開催することが告知された。銀瓶さん、中止と同時に同じメンバーで次の会へと移行されるとは、さすが仕事が早い。
その銀瓶さんの晴れの舞台・道頓堀松竹座での独演会が2/22(土)に開催された。キャンセルもあったと聞くけれど
「よぉできたと思いますわ。一週間・10日あとやったらできたかどうか…」
と、後日、ご自身のYouTubeチャンネルでも語っておられた。
それでも、このころは
「府とか市とか、公のところはさすがに公演中止にしてるけど、自主公演はやるで!」
という空気が漂っていた。
その空気もむなしく、2月の最終週からどんどんと、公演の自粛・延期・中止が行われるようになったのだ。
続く
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