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覚えておきたいこと・忘れたくないこと2020.1月からの記憶 その2


2020年の1月から、主に2月以降、どんな公演がいつごろキャンセルになったのか、それをどんな気持ちで受け止めたのか。
個人的な記録でいろいろと抜け落ちもあるかと思うのですが、自分の心覚えとして書いています。
一回目はこちら。


2020年2月23日からの一週間


激動の一週間だった。
土日祝と三連休だったこともあって、週の前半はまだあちこちでいろんな落語会が開かれていた。

わたしは参加できなかったのだけれど、2/24(祝)には新世界・動楽亭の『新世界・南光亭』で、廣澤瓢右衛門さんの浪曲を落語化した『英国密航』を、桂南光師匠がネタおろしされた。うちの師匠・小佐田定雄が脚色し、見に行っている。
同じ日に大阪中之島のフェスティバルホールで立川談春師匠の独演会も開かれている。


この日 2/24の晩、政府の専門家会議が会見を開き
「これから1~2週間が瀬戸際」
との見解を公表した。と同時に、至近距離での会話や立食パーティー、飲み会などは「なるべく」避けてほしい、とのこと。
はっきりとした「自粛要請」ではなかったものの、なんとなしに外でご飯を食べるのがはばかられる雰囲気が出来つつあった。「三密」という言葉はまだ出てきていない。


そしてこのころ、わたしは家にこもっていた。
コロナを恐れてではなく、新作落語の台本締め切りに追われていたからだ。3/26(木) 『第257回 上方落語勉強会』@京都府立文化芸術会館で、桂歌之助さんが口演予定の台本。
この会の趣向として、その日来ていただいたお客さまにタイトルをつけてもらうことになっている。

歌之助さんのハッキリとした口調にあてて、少しだけSFっぽいものを書き進めるのだけど、頭に浮かぶのは
「会が中止になったら、台本書かんでもえぇんとちゃうのん…」
であった。
市や府など、おおやけのところが主催の落語会が軒並み中止となる中、京都府主催のこの会だって、どうなるかわからない。ただでさえ少ないやる気をしぼり出しつつ、もしや中止なのでは、と会場のホームページをのぞくのが日課となっていた。
( 結果的にこの会は、奇跡的に開催された。本当に奇跡的だった )



2020年2月26日(水)
この日、はっきりと潮目が変わった。
首相のこの発言があったからだ。

「全国的なスポーツ、文化イベント等は大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止・延期または規模縮小等の対応を要請する。」


お昼ごろ、この要請があってすぐにPerfumeのコンサート@東京ドーム やEXILEの京セラドーム大阪コンサートが中止となり、知らずに会場を訪れて
ショックで崩れ落ちそうになっているファンの方たちの姿を、ニュース映像の中に呆然と眺めていた。


エンタメ業界は、この時点ではなんの補償も提示されないまま自粛に踏み切り、以来いままで2か月以上、痛みを引き受け続けている。


わたし自身、いちばん始めにお仕事のキャンセルがあったのがこの日だった。いつもパンフレットを作らせてもらっている落語会の、3月下旬の回の中止のお知らせをいただいたのだ。

いまとなっては恥ずかしながら、このときの偽らざる気持ちは
「いやいやいや師匠、ご決断が早いのでは!」
だった。

こんなに早く中止と決めなくても、落語家さんが個人でやっている会は
2週間おとなしく自粛したら3月下旬には開催できるんじゃないですか?
と思っていた。甘かった。とんでもなく。

はっきりとした日付けは分からないのだけれど、NHKで放送されている
『上方落語の会』の3月分の収録が中止となったのもこのころだ。
こちらに関しては、開催日が迫っていたこと、また往復ハガキで申し込まれた観覧希望のお客さまに対し、開催か中止か少しも早くお知らせする必要があったことから、早すぎる決断という印象はなかった。中止もやむなし、である。


そして翌日の2/27(木)。
母親から「月末までのランチチケットを持っているから」と誘われたのだけれど、待ち合わせには遅れることになってしまった。

というのもこの日の午前中、大阪・南森町のツギハギ荘さんから
「今日から3/15ぐらいまでツギハギ荘を閉鎖します」
とのお知らせが届いたのだ。

このツギハギ荘は、35名も入ればいっぱいとなるレンタルスペースで、絵本作家のあおきひろえさんがお席亭をされている。小さな落語会がよく開かれているところだ。
わたしも不定期で、落語家さんの生い立ちから入門、修業の話を伺う『あかねの部屋』という会を開いており、3/4(水)には吉朝門下の筆頭弟子である桂あさ吉さんをゲストにお迎えする予定だった。

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前日まではやる気まんまんで、ご予約のお客さまからのお問合せにも
「お気をつけてお越しください!」
なんて返信していたのだけれど、会場が閉鎖ということで、延期せざるを得なくなってしまった。
あわててあさ吉さんにその旨をお伝えしたところ快くご了解をいただき、ご予約のお客さまには速攻で「延期のおわびメール」をお送りした。
「残念です」
「次回を楽しみにしています」
と、何人かの方からお返事をいただいたのがとても心強くありがたかったのを覚えている。

こちらの会も
「じゃあ次は5月ぐらいの開催かな」
と当然のように考えていた。甘かった。


遅れてランチに参加すると、母親は3月中ごろに予定していたベトナム旅行をキャンセルするという。
「ただ、ひとつ心配やねん」
というのでなにごとかと思ったら、前にわたしがピーチ航空の便をキャンセルしたときに、次回使える「ピーチポイント」なるもので返金されたのがよほど印象的だったのか
「わたしも旅行代金、HISポイントで返ってきたらどうしようと思って」

いや、HISポイントて実在するのか?

そんなことを言って笑っていたら、ふいに
「で、あんたはどうするの?」
と聞かれた。

週末の2/28(金)、東京出張がひかえていたのだ。
桂文珍師匠が芸歴50周年を記念して国立劇場で行う20日間独演会の初日である。


続く


追伸  母親のピーチポイント強奪について書いたものがこちらです。




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