盗撮 

「なあ、盗撮しようぜ」

 それは、ほんのバカな友人のささやき声から始まった。

 「え、どういうことだよ?」
 「この近くに雨宿りスポットがあるのを知ってるか?この時期は雨が多いからな、そこに雨に濡れた女の子がたくさんやってくるんだ」
 「ほう」

 雨宿りスポットに、雨に濡れた女の子……それだけでそそるワードだ。

 「当然、雨に濡れれば服が透ける。そして中の下着が見える。そこをカメラに納めるという算段よ」

 友人は新しいカメラを出してニヤリと口元を吊り上げる。
 それを聞いた僕のリアクションはというと、

 「素晴らしい、素晴らしいよ!」
 「ふふふ、だろ?」

 雨に濡れて透けた服を盗撮……そこにはグラビアやAVでは決して拝めない『リアル』があり、僕は興奮という2文字では言い表せない感情に駆られる。

 「このカメラは、なんと音に反応してシャッターが鳴るのだ。ここぞというタイミングでクシャミをするフリでもすれば、勝手に盗撮してくれるのよ」

 友人の周到な準備には毎回驚かされる。

 「いいね、早速明日決行しよう」
 「そういうと思ったぜ」

 この時は、想像もしていなかった。

 まさか、あんな事になるなんて……。


【翌日】

 「ねえ、本当に来るの?」

 翌日の放課後、それはもう土砂降りだった。
 例の雨宿りスポットは木製の囲いにベンチが2つ並ぶだけの簡素なもの。本当に来るんだろうか。

 「心配すんな。ほれみろ」

 友人が指さした先には、1人の少女がこちらに走ってくるのが見える。

 「おお、ほんとだ」
 「よし。ここからは無言で行くぞ」

 少女は雨宿りスポットに入ると、こちらに会釈し、スカートを絞り始める。

 顔立ちも良く、濡れそぼった髪もまたそそる。そして肝心のカッターシャツも水でスケスケだ。

 友人はニヤリと笑うと、そっとカメラを起き、盛大にクシャミをする。

 「はぁーっくしょぉおおん!」

 なんともわざとらしいクシャミだったが、カメラは少女に向かって、耳に届かぬほどの小さなシャッター音を鳴らす。

 「どう?撮れた?」
 「シッ、今から確認するからよ」

 友人はカメラを操作し、少女の写真を確認する。

 「おお、ちゃんと透けてるぜ」
 「本当だ……すごいエロい」
 「へへへ、こりゃプリントしまくって販売できるレベルだな……あ?」
 「ん?どうしたの?」

 友人が変な声を上げ、写真をまじまじと見つめる。そして、顔がみるみるうちに青ざめていくのが分かった。

 「な、なあ……よく見ろよ、この写真」
 「え?」

 友人に突きつけられた写真を見る。そこには、確かに少女の姿と透けたシャツが……。

 「……なに、これ」

 透けたカッターシャツの奥にあるのは、ブラジャーではなかった。かといつて、元々ノーブラで生乳が丸見えになっているわけでもない。

 「か、怪物……」
 「あんた達」
 「「ひぃっ!?」」

 慌てて振り向くと、そこには濡れた少女が立っていた。

 「必死で隠していたのに、よくも盗撮なんてしてくれたわね……」

 少女は、ひとつひとつカッターシャツのボタンを外していい、バッと開く。

 そこにはピンクのブラジャーにすべすべの肌……などという魅惑の光景ではない。
 少女の腹には、気色の悪い怪物のような口が開かれており、サメのような鋭い牙が並んでいた。
 不気味に蠢いていることから、イラストや特殊メイクなどではないことが、ひと目で分かる。

 「ちょうど空腹だったの。口止めついでにあなた達を食べてあげる」
 「ひっ……うぎゃぁああああああっ!!」

 少女の腹の口から長い舌が伸び、友人を捕まえ、そのままガブリと食らいつく。
 友人の下半身が、口からボトリと落ちた。

 「さあ、あなたも胃袋に納まりなさい」


 諸君、盗撮はしてはいけない。
 でないと、カメラに写真を納めるどころか、怪物の胃袋に納められることに……


 ひぎゃっ!


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