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「Fallen Grace」第3話 エリ・エリ・レマ・サバクタニ

人物表

アリス(800)堕天使
ザックオー(836)七大天使
ジャンルカ(614)七大天使
コルト(322)天使
丸井藍(20)アリス信者
キメラ

本文

○(回想)天界・回廊(夜)
神殿まで続く長い回廊。石材の屋根が柱で支えられ、辺り一体は雲海が広がっている。吊るされたランタンがほのかに照らす回廊をザックオー(836)とジャンルカ(614)が歩いている。ザックオーは何か考え事をしている様子。
ザックオー「……」
ジャンルカ「ねぇザックー」
ザックオー「……あ?」
ジャンルカ「さっきトーチェが言ってたじゃん? アリスの奇跡は厄介だって」
ザックオー「言ってたっけなァ……」
ジャンルカ「アリスの奇跡ってなんなの?」
ザックオー「知らねェのか」
ジャンルカ「だから聞いてるんじゃん」
ザックオー「あれは厄介なんてモンじゃねェぞ」
ジャンルカ「ザックは見たことあるんだ」
ザックオー「あぁ……」  
ザックオーは思い馳せたように上を向く。
ザックオー「アリスなァ、俺が十二使徒所属だった時のバディなんだよ」
ジャンルカ「え、それも知らなかった」
ザックオー「……アイツは俺よりも優秀な天使だったんだけどな、七大天使に選ばれたのは俺だった」
ジャンルカ「……それが?」
ザックオー「そう。アリスの奇跡が主の御許に置いておくには危険過ぎるから」
ジャンルカは腑に落ちない様子。
ジャンルカ「……僕らだって大概じゃない? 奇跡なんて使いようなんだから」
ザックオー「そんなレベルじゃねェ。……アイツはなァ」
ザックオーは足を止める。
ザックオー「戦争から産まれた、戦争の天使なんだよ」
ジャンルカは不思議そうにザックオーの顔を見る。
ジャンルカ「戦争……?」
ザックオー「アリスはな、奇跡で……」(回想終わり)

○渋谷・スクランブル交差点(朝)
スクランブル交差点で暴れ回る、全長20m程のキメラ。キメラに向け
て、機関銃のような見た目に変化した右腕を向けるアリス(800)。
ザックオー「(M)自分の身体をあらゆる兵器に変えることができる」
キメラ「あアアッ……あラアアあ!」
キメラはアリスに向かって走る。地上では丸井藍(20)が物陰に隠れながら、心配そうにアリスを見ている。
アリス「小手調べだな」
アリスは空を舞いながら、機関銃をキメラに向けて放つ。ベルトリンクに繋がれた銃弾が吸い込まれるかのようにスルスルと機関銃に装填されていく。放たれた銃弾はキメラの岩の様な体を僅かに削るのみで、キメラは気にも留めない様子。
キメラ「アあああアアッ」
アリス「こんなんじゃキリがないか」
ガチャガチャと音を立てながら、アリスの右腕が元に戻っていく。アリスが前を見るとキメラが、四本の右腕と三本の左腕の全てを使って、アリスを捕まえようとしている。リンと音が鳴り、アリスの光輪が光る。
キメラ「ああアりィぃぃッ!」
キメラが全ての手でアリスを握りつぶす。
藍「アリス様ッ……!」
藍が地上から叫ぶ。次の瞬間、キメラの手が爆発する。
キメラ「アああッ……!」
アリス「そんなに手榴弾が好きならこれもきに入るんじゃないか?」
握りつぶされたかのように思われたアリスはキメラの背後で翼を広げて舞っている。アリスの両腕は四連ロケットランチャーになっている。アリスはロケットランチャーをキメラに向けて躊躇いなく撃つ。八発の弾頭がキメラの背面に被弾し爆発する。
キメラ「ウああアッがあアああッ……!」
キメラがバランスを崩しその場に倒れる。ズシンと大きな音を立てて地に伏せたキメラ。爆発と倒れた衝撃で背面にヒビができる。リンと音が鳴り、アリスの光輪が光る。アリスの身体はガチャガチャと音をたてながら、両腕がショットガンへと変形する。背中の翼が何丁もの機関銃へと変形し、アリスの周りで浮いている。それらの銃口の全てがキメラの背面にできたヒビに向いている。
アリス「……人間を殺すためだけに来たんだな。俺を殺しに来たにしては弱すぎる」
アリスは全ての銃をキメラに向けて放つ。辺りは発砲音で包まれる。
キメラ「ああッ! ああアアああッ……!」
被弾するキメラが呻き声を上げる。アリスは容赦することなく、表情を一切変えないまま銃を撃ち続ける。キメラの背面にできたヒビは大きくなり、キメラの岩のような身体は三つに割れる。
キメラ「アっ……あア……アりッ……」
アリスは発砲を止め、動かなくなったキメラを見下ろす。アリスの身体がガチャガチャと音を立てながら元に戻っていく。アリスは翼を羽ばたかせながら、倒れたキメラに近づく。アリスの光輪が弱々しく光っている。
アリス「……少し奇力を使い過ぎたな」
アリスはキメラの石像のような顔の前に立つ。
キメラ「ア……」
リンと音が鳴り、光輪が光る。アリスの右腕がRPGに変形する。
キメラ「ア……アア……」
アリス「……俺は神になって、人間を護らなきゃいけないんだ」
アリスはRPGに変形した腕をキメラの頭部に向ける。
キメラ「ア……」
アリス「……悪いな」
キメラ「ア……リス……」
アリス「……あ?」
次の瞬間、アリスの足元が爆発する。アリスは咄嗟に上空へと飛ぶが、翼の一部が焦げてしまう。
キメラ「アぁぁ……リスゥ……」
アリスは焦りと怒り、悲しみが入り混じった表情でキメラを見る。
アリス「お前……!」

×××(フラッシュバック)
コルト「今のは手始め! 僕の爆発の奇跡だよ!」
コルトが右の人差し指で周囲のビルを指差す。リンという音と同時に指さされたビルが爆発する。
×××

アリス「コルトか……?」
キメラ「アあぁリぃいスぅゥううッ……!」
鈍い音が響き、キメラの光輪が光る。次の瞬間、アリスの周囲のビルが爆発する。爆発で倒壊したビルがアリスに向かって倒れる。
アリス「くっ……!」
アリスは翼で空を飛びながら倒壊したビルを避けるが、アリスを追尾するように連続で爆発が起きる。アリスは猛スピードで空を飛びながら必死に爆発から逃げ続ける。
アリス「(M)あの爆発の奇跡……。このまま逃げ続けててもどうしようもない。何より……」
アリスは飛びながら地上を見る。地上には物陰に隠れる藍の姿が見える。
アリス「(M)人間達に危害が及んでしまう。早く、早くどうにかしないと……」
コルト「アリスさんにできますか?」
アリスはハッとした様子で隣を見ると、アリスと同じスピードで飛ぶコルト(322)の幻影が見える。
コルト「僕を殺すことが」
コルトの幻影ははにやけ顔でアリスを見ている。
アリス「……」
コルト「なんですか。なんか言ってくださいよ」
アリス「……あれは、コルトなのか?」
コルト「そんなこと聞いたって意味ないでしょ。僕がこうして出てきてる時点で、アリスさんの中で結論は出てるんでしょ? その上で、僕を殺すことができるのかって聞いてるです」
アリス「コルトを……殺す……」
アリスは迷いの表情を浮かべる。コルトの幻影が深くため息をつく。
コルト「……そんなことだろうと思いましたよ。ホンット甘いなぁ。ねぇ、堕天したんでしょ? きっとこんなことの繰り返しですよ」
連続爆発が、逃げるアリスへとどんどん迫っていく。
コルト「もう僕らは仲間じゃないんですよアリスさん。天使と堕天使。敵同士です。早くしないと、また護りたいものを失いますよ」
アリス「……そうだな」
リンと音が鳴り、アリスの光輪が光る。
アリス「……俺を呪うなよ、コルト」
コルト「元天使がそんなこと言います? ダッサいなぁ」
コルトの幻影が消える。アリスの両足がガチャガチャと音を立てながらジェットへと変形し、右腕がミサイルへと変形する。上空を舞うアリスは、両足のジェットで爆発を突っ切りながら、地に伏すキメラに向かって一直線で飛んでいく。
アリス「コルト……!」
アリスがキメラにどんどん迫っていく。アリスとキメラの眼が合う。
キメラ「アリス」
アリスがキメラの目前に迫った瞬間、キメラがコルトの声ではっきりと言葉を放つ。
アリス「……!」
アリスは怖気付いた表情になり、ミサイルとなった右腕が元に戻ってしまう。それと同時にアリスが爆発に巻き込まれる。
アリス「がっ……!」
アリスは爆風で地面に轢き飛ばされ倒れる。アリスの両足は元に戻っている。
アリス「俺は……俺には……!」
ボロボロになったアリスがゆっくり立ち上がる。アリスの目の前にはキメラの顔がある。キメラの光輪は弱々しく光っている。
キメラ「あア……りィ……ぃ……」
アリス「でも……俺がやるしか……!」
アリスは震える右腕をコルトに向ける。アリスの右腕が再びミサイルと変形する。
アリス「決めたんだ……俺は……神になるって……決めたんだ……決めたんだ……」
アリスがうわ言のように繰り返す。
アリス「あああああああッ……!」
アリスは力を込めたように目を瞑る。次の瞬間、斬撃音と共にキメラが切り刻まれる。辺り一体は砂埃に包まれる。
アリス「は……?」
アリスは状況が理解できていない様子。砂埃の中に人影が見える。
?「駄目だ駄目だ。熱狂ってモンが感じられねェ」
アリス「誰だ……?」
?「文字通り世界の終わりのパーティなんだ。もっと派手にやってくれよ」
砂埃がだんだんと晴れていく。アリスはハッとした表情を浮かべる。
?「お前もお前だ。昔の仲間だろうとサッと殺せよ。時化ンだろうが」
砂埃が晴れる。アリスの目の前にはギターを持ったザックオーが立っている。
アリス「ザック……!」
ザックオー「よぉ、アリス」
ザックオーはアリスに向けて笑みを浮かべる。アリスは焦りを気取らせないように毅然とした態度を取り繕っている。
ザックオー「なんだ、もっと笑えよ。旧誼に免じて俺が殺しにきてやったんだぜ?」


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