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「ムーンライトエイリアンズ」 プロトタイプ

様々なことが重なって、『ムーンライトエイリアンズ』の初期案をnoteに投稿していないことを思い出した。この作品に対する思い入れは他の作品と比べて一線を画すものがある。初めてコンテストに投稿して、初めて賞を頂いた作品。
今後もずっと折に触れて思い返す作品になると思う。
そんな作品だからこそ、初期案をnoteに投稿しようと思う。
このシナリオ自体は今年の2月頃に書いたもので、今読むとメチャクチャに反省点が見えてくる。でも、やっぱり面白いな〜って自分でも思うから、どうか読んでもらえると嬉しいです。
僕の中でとても大切な一作です。


人物表

竹中光(17)宇宙人
鷲宮星彦(16)光のクラスメイト
かぐや(60)光の母親
クカン(1673)宇宙人

本文

○かぐや宮殿・主人居間(夜)
   Tー月
行燈で照らされた広い室内に竹中光(17)とかぐや(60)が座布団に座って対面している。光はブレザーの制服を着ており、かぐやは仄かに白く光る和服を着ている。
かぐや「地球人を一人連れてきなさい」
かぐやが粛々とした態度で言う。
かぐや「月の輝きが衰えてきました。異星からの飛来物も顕著です。このままでは惑星の周期にも影響を及ぼします。……聞いてますか?」
光「聞いてます」
光は微動だにしない。
かぐや「……月の民の皆も次期かぐや姫を求めています。あなたが玉桂様に捧げる贄の人間を連れてくることで、民の皆も認めてくれるでしょう。……聞いてますか?」
光「聞いてます」
かぐやは気まずそうな表情を浮かべて立ち上がる。
かぐや「やり方はあなたに任せます。できるだけ不熟で活きの良い地球人を連れてきなさい」
かぐやは部屋の障子をゆっくりと開ける。外には薄黄色の兎が多く放牧されており、自生している勿忘草を食べている。兎たちの上には竹製のロケットが浮いている。
かぐや「使い方は分かってますよね」
光「分かってます」
光は徐に立ち上がりロケット前に移動すると、なんの躊躇いもなくロケットに乗り込む。
かぐや「まだ行かなくてもいいのよ……?」
光「いえ、早い方がいいと思うので」
光が淡々と言うと、ロケットの下部が発光し出す。
光「すぐに戻ってきます」
ロケットが唸り声を上げながら少しずつ浮上する。
光「三日月祭までには必ず戻ります。お父様にもお伝え……」
光がかぐやに向かって喋るが、だんだんとロケットの音に掻き消され声が聞こえなくなる。光が口を閉じた瞬間、ロケットが勢いよく飛び出す。
かぐや「……不安だわ」
かぐやがロケットを追いかけるように天を仰ぎながら呟く。

○琴星高校・教室
T―地球
教室の机は二席を残して後方に下げられている。残された二つの席には制服姿の光と鷲宮星彦(16)が座っている。教室前方の黒板にはでかでかと『補習』と書かれている。光は姿勢正しく座っているが、鷲宮は気怠げにぐだっと座っている。
鷲宮「……竹中さんってそんな勉強できない人じゃないよね?」
鷲宮はぐだっとしたまま光の方を見る。
光「勉強はすごいできる」
光は前を向いたままである。
鷲宮「じゃあなんで補修来てんの?」
光「私だけ正しく評価されてないの」
鷲宮「ふーん……」
鷲宮はゆっくりと前を向き直す。
鷲宮「え、どういうこと?」
鷲宮は再び光の方を見る。
光「言葉通りの意味だよ」
鷲宮「それが分からないんだけど」
光「分からなくていいの。あなたが評価するわけではないから」
鷲宮「……じゃあ勉強自体は普通にできるってことね」
光「最初からそう言ってる」
鷲宮「ふーん」
鷲宮は再び前を向く。教室の外から部活をしている生徒の喧騒が聞こえてくる。鷲宮が黒板の上にかけられている時計を見る。
鷲宮「……先生、来ねーなー」
鷲宮はもう一度光の方を見る。
鷲宮「ねぇねぇ、勉強はできるんだよね?」
竹中「すごいできる」
鷲宮「じゃあさ、英語教えてくれない? 仮定法が全然分からないんだよね」
鷲宮は机の横にかけていたスクールバッグから英語の教科書を取り出す。
光「If you can keep up with the English I speak, I can teach you.」
光が鷲宮の方を見ながら言う。
鷲宮「え? 何?」
光「I'm going to see an interesting stag tomorrow. I wonder if they'll do a big comedy or something.」
鷲宮「分からないよ! どういう意味?」
光「You can't kill me. Because I have this fist.」
鷲宮「なんか物騒なこと言ってない?」
光「これが分からないなら教えられない」
鷲宮「……英語を教わるためにもそんなに英語が必要だなんんて」
鷲宮は机に項垂れる。
光「天文学ならいいよ。好きだから」
鷲宮「俺ら文系クラスだからやってないよ」
光「……えっ?」
鷲宮「えっ、てなんだよ。不安になるな」
鷲宮は英語の教科書をバッグにしまう。
鷲宮「天文学なら俺も好きだよ。趣味の範疇は超えないけど」
光「私には敵わないよ」
鷲宮「自信すごいな。でも俺だって家に望遠鏡あるし、プラネタリウムもあるよ」
鷲宮は勝ち誇った態度である。
光「私、月に住んでるよ」
鷲宮の言葉を気にも留めてないように光は淡々と言う。
鷲宮「ぇ……、え?」
鷲宮は呆気に取られて呆けた表情を浮かべる。
光「月からの方が星綺麗に見えるよ。地球とは違って人工的な光が少ないから」
鷲宮「えっ… 本当に言ってるの?」
鷲宮は眉間にしわを寄せる。
光「あと地球人の想像力って乏しいんだよね。あなた達が想像してるよりもっと月って幻想的だし」
鷲宮は呆れたように笑い出す。
光「どう? あなたよりも詳しいよ」
鷲宮「……竹中さんって不思議な人だとは思ってたけど、想像以上だったわ」
鷲宮は笑いを含みながら言う。
光「信じてないの?」
鷲宮「いやいや、信じてないとかじゃないじゃん。面白い話だとは思うよ?」
光「嘘ついてないから」
鷲宮「うーん。流石に無理あるよ」
鷲宮は再び眉間にしわを寄せる。
光「……じゃあ来る? 月に」
光は真剣な眼差しをしている。鷲宮はぽかんと口を開けて光を見ている。

○(回想)アルタイルスクール・教室(夜)
T―アルタイル星
ボロボロになった教室内、窓ガラスは割れ、教室後方には雑多にガラクタが置かれており、蛍光灯は切れかかっている。教室中央に置かれた机には鷲宮が座っており、その前方の教卓の後ろにはクカン(1673)が立っている。両名とも真剣な表情を浮かべている。
クカン「最後まで生き残るのがお前だとは思わなかったよ」
鷲宮「慎重で臆病なだけです」
クカン「それが求められていたんだ。私もこの光景を見るまで気づかなかった」
クカンは周囲を見回す。
クカン「お前に最後の任務を言い渡す。月の都に潜入し、月を墜とせ」
鷲宮は驚いて体をピクッと震わす。
クカン「月の光度やクズ星の衝突頻度から、地球人の贄を求めているのは明白だ。そして、かぐやは娘に地球人を捕まえさせるらしい。確かな情報かは分からんがな」
クカンは教卓から離れ鷲宮に近づく。
クカン「まず、お前は『コウコウセイ』として地球に潜入し、かぐやの娘に近づくんだ」
鷲宮「コウコウセイ……」
鷲宮が呟く。
クカン「連れ去られる地球人として潜入すれば、確実に月に入れる。贄であった人間を失えば月の機能は弱まる。そして王たるかぐやを殺せば確実に月は堕とせる」
鷲宮「……僕にできるでしょうか?」
鷲宮は節目がちになる。
クカン「忘れたわけじゃないだろう。月の民共に何をされたのか。怒りを忘れるな」
鷲宮「……はい」
鷲宮が顔を上げる。
クカン「地球でのコードネームは『鷲宮星彦』になる。癖づけておけよ」
鷲宮「コードネームを頂くの、初めてですよ」
鷲宮は嬉しそうな表情を浮かべる。それを見たクカンは笑みを浮かべる。
クカン「臆病なお前がこの星最後の希望だ。期待しているぞ」
鷲宮「はい!」
鷲宮は真剣な眼差しである。

○琴星高校・教室
鷲宮は呆けた表情で光の顔を見ている。
光「来たくないの? 滅多に月なんて来れないと思うけど」
光は依然淡々とした態度である。
鷲宮「……行きたい!」
鷲宮が表情をキリッとさせる。




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