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漢方薬について〜ママのための化学教室-22

●漢方と中医学 どう違うの?

◆漢方

日本の伝統医学。
5-6世紀に中国から伝わり、以後日本国内で独自の進化を遂げました。

名称自体は江戸中期に入ってきたオランダ医学「蘭方」と
区別するための呼称として生まれています。

明治期に西洋医学中心の新しい教育制度により衰退しましたが、
民間レベルでは存続。
昭和になり改めて脚光を浴びるようになります。

戦後の漢方の歩み
1950年、日本東洋医学会が設立。
1960年、日本薬局方収載生薬6品目。
1976年、医療用漢方製剤42処方が薬価基準に収載。
現在ではエキス剤147処方、軟膏1の計148処方が保険収載。

2001年、医学・薬学教育のコアカリキュラムに漢方医学が採録。
2006年、日本専門医認定機構により日本東洋医学会専門医が認定。
近年、海外の学術誌に漢方薬の論文が掲載されるようになる。

◆中医学

中国の伝統医学を指す。

ルーツが同じため、類似点もあるが、異なる体系で発展。

●漢方薬と西洋医薬品の違いとは?


漢方: 服用した人と呼応(反応)した時だけ薬剤の作用をする

西洋医薬品(以下、西洋薬): 服用すればどんな人にも同じ効果を発揮

漢方: 生薬の組み合わせからなるため、1つ1つの成分の量は少ない。
いくつかの成分が集まり、その相互作用で効果を現す。

西洋薬: ほとんどが単一の成分の組み合わせ。
化学合成されたものも含む。

漢方:複数のシステムに複雑に働きかけることで、
病気を治す自分自身が持つ力を引き出す

西洋薬: 薬とシステムが、1対1の応答

漢方: 伝統・補完・統合医療。
「陰陽五行説」、「気血水理論」などで説明される。

西洋薬: 一般にサイエンスと呼ばれる手法で説明される。

●漢方薬の形状


エキス剤
煎じ薬の成分を凝縮したもの。
携帯性に優れている。
病院等で処方されるものは、
薬局で一般に購入できる市販薬より成分が濃くなっています。

煎じ薬
煎じて飲む。
患者さんの体質や状態で、生薬の種類や量を加減可能。
煮出すのに時間や手間がかかる。
煎じた時の香りにも効果がある。

丸薬
生薬をはちみつなどで球状に固めたもの。

散薬
生薬を細かく粉末状にしたもの。

●漢方医学における健康とは


健康,であるためには、
体が常に動きめぐり(気血水理論)、
変化していること(陰陽五行説)が
必要とされる。

めぐらせる力を、「気(き)」。
体をめぐる要素を「気」「血(けつ)」「水(すい)」と呼ぶ。

「気」
体の全てを動かす力。目に見えないが生命活動を営む上で必要な力。
人は、両親から命の「気」を授かり誕生する。
飲食物と空気から自ら「気」を作り、生命活動を維持。
「血」と「水」を作り巡らせる。

「血(けつ)」
赤い体液(血液)。
全身を巡り、各組織に栄養·酸素を供給。
体温を維持する。

「水(すい)」
「血」以外の体液(細胞間液、リンパ液、消化液、尿、汗、涙、鼻汁等)。
全身をめぐり細胞を潤し、栄養を供給する。


気・血・水の巡りと人の身体の中の働きに関する解説
気・血・水のめぐり

★気血水の異常

気 = 自律神経に関係
不足: 風邪をひきやすい、体がだるい、疲れやすい、気力がない
詰まる: 抑うつ気分、喉のつかえ感、胸苦しい、腹部にガス
逆流: のぼせ、動悸、頭痛発作、咳発作

血 = 血流に関係
不足: 貧血、顔色不良、皮膚の乾燥、抜け毛、爪の異常、筋肉の痙攣
詰まる: 目の下にクマ、皮下の内出血、頭痛、肩こり、腰痛、四肢の痛み

水 = 胃腸に関係
詰まる: 
むくみ、体が重い、関節の腫れ・痛み、頭痛、吐き気、鼻水

▲常に変化していくためには…

陰陽のバランスが重要になってきます。
人体も自然界も「陰」と「陽」の力関係により変化し、
どちらか一方が常に強くならないように
全体的にバランスをとっています。

「気血水」のめぐりの異常や、
「陰」と「陽」の変化の異常により、
体は「ゆがみ」を生じます。


▲「陰」と「陽」の力関係の異常

「陰」が強いと…
寒がり、顔色が青白い、
体温が低め、
睡眠時間が長い、
食欲不振、
気分が落ち込みやすい、
体がだるく疲れやすい

「陽」が強いと…
暑がり、赤ら顔、
体温高め、
興奮して眠れない、
異常な食欲、
気分の異常な高まり、
動きすぎて疲れる

★健康を維持するには?

体に備わっている自然治癒力により、
このゆがみを正常に戻す(「気」の力)ことで
健康を維持できます。

漢方の考え方では、
病とは、
「気」の力がない、あるいは弱い時、
「ゆがみ」が体の弱いところに
症状として現れた状態をいいます。

「病」となる前の「ゆがみ」の状態、
「なんとなく〇〇する…」といった状態を
「未病(みびょう)」といい、
「未病」も「病」も治療の対象とします。

「未病」の段階から適切な治療を行うことで、
「病」を防ごうという考え方です。

●漢方薬の飲み方について

★漢方薬を選ぶ3つのポイント

「普段の体力」「今の体質や体調」「飲む目的の症状」です。

漢方医学では、薬を飲む方の体力は
とても重要なポイントになります。
配合の仕方にも影響を及ぼします。

なので、漢方医学で問診(もんしん)が重視され、
患者さん個人個人にあった漢方薬選びのために
「普段の体力」「今の体質や体調」「飲む目的の症状」などを
見分けているのです。

★ 普段の体力とは(参考文献 5より )

普段の体力の陰証と実証

★漢方薬(製剤)の飲み方について


二種類以上の製剤を同時に飲まない。
どうしても、という場合は、
医師や薬剤師に相談、あるいは時間を空けて飲む
といった工夫も必要になります。


漢方薬のイラスト
漢方薬のイラスト

▲飲み合わせの何が問題か?

西洋薬でも、飲み合わせでその効き方に
拮抗作用のある場合、
効能が半減したり、
増悪するという場合もあります。

漢方薬でも同様のことは起こりえます。
漢方薬も、あくまで医薬品なので、
副作用は皆無ではありません。

漢方薬は生薬の決められた量の組み合わせで効果を発揮します。
2種類以上の漢方薬の同時服用は、
生薬の組み合わせが変わり、
十分な効果を発揮できない場合もあります。
その成分は、それぞれの処方の後に書かれています。

例えば…
漢方薬名: 葛根湯(カッコントウ)
成分: 葛根,大棗、麻黄甘草桂皮、芍薬、生姜

ここで問題になるのは、成分の中の太字で書かれたもの。
単独で飲む場合は、安全な量で調整してありますが、
飲み合わせの場合は、その許容量を超える危険がある
ということです。

特に、甘草は、色々な処方によく用いられますので、
要注意です。

甘草の主要成分は、グリチルリチン酸ですが、
一度に大量に取ることで、
偽アルドステロン症という副作用を
起こす危険性もあります。
症状としては、
血圧上昇、体重増加、むくみ、カリウム喪失。


飲み合わせというわけではないのですが、
麻黄を含むため、
特に高血圧の方、高齢者は様子を見ながら
使用する必要もあります。

胃の不快感やもたれ、食欲低下、
胃痛、胸やけ、悪心、嘔吐等(上部消化管症状)といった
胃腸症状出ることもあります。

個人差はありますが、
もともと胃腸が弱い方などは注意が必要です

対処法としては、服用時間を 「 食前から食後に変える」
「 服用量を減らす」などで対応可能です。
処方した医師や薬剤師に相談されることも大事です。

桂皮の薬剤アレルギーの症状として
発疹、蕁麻疹などの皮膚症状が出ることもあります。

漢方薬を飲むことにより、
一時的に排毒のような形で、
症状が出ることもありますので、
副作用かどうかの見極めがむづかしい場合は、
遠慮なく専門家の意見を聞かれてください。

★漢方薬を飲む基本のタイミングは、食前または食間。

食前: 食事の30分から1時間前
食間: 食事と食事の間を指すので、食事の2時間後ぐらいが目安
一番大事なのは、空腹時!!

服用する場合は、温めて飲むのが原則。
37℃位のお湯に溶して飲むのです。
ただし、処方によっては、
向かない場合もあります。

それでも、お茶やジュース、牛乳、
アルカリイオン水などに混ぜると、
漢方薬の成分が化学反応を起こし、
効果が低下することもあるので
注意してください。

★漢方薬の効果、摂取期間のめやす

服用法にもよりますが、飲み始めてから1ヶ月経っても、
何も効果が感じられない場合は、
一度中止して、医師や薬剤師に相談しましょう。


★漢方薬の効き目を高めるには

多くの漢方薬は腸内細菌により分解されます。
日頃から、腸内環境を整える食事など心がけておくと
健康維持の面からも望ましいかと。


元気な腸のイラスト
元気な腸内環境

●おすすめ書籍

★一般向け

◆「漢方薬使いこなし術」
花輪 壽彦 (著)、小学館文庫、(紙媒体Kindle)

★しっかり学習向け

◆「漢方治療のレッスン-増補版
花輪 壽彦 (著)、金原出版(2003)

◆「漢方処方ハンドブック
花輪 壽彦 (著・編)、医学書院 (2019)

★参考サイト(上記の書籍のほかに…)

1. https://suemori-clinic.com/2020/12/20/漢方のはなし
 漢方のはなし その5 ~漢方薬の副作用について~

2. https://www.qlife-kampo.jp/study/prescription/story10493.html
 コラム:人によって異なる漢方薬の作用

3. https://www.qlife-kampo.jp/news/story10663.html
 Vol.1 「漢方」とは何か~漢方とその周辺との向き合い方~漢方薬の歴史と未来

4. https://www.qlife-kampo.jp/study/howtouse/story13.html
 基本的な使い方

5. https://www.nikkankyo.org/kampo/colume/021/index.htm
  理解してほしい、漢方生薬製剤の知識


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