見出し画像

挫折と夢の続き

いよいよ最終、2次試験当日。

前日から近くのホテルに宿泊して朝を迎える。
朝、髪をお団子にまとめようと鏡を覗くとオデコに虫さされ?のような目立つ後があり、腫れていた。

大切な大勝負の日になんてこと…
でもこんな事で気持ちから負けてはいけないと自分を鼓舞して宝塚音楽学校に向かう。

2次試験に集まってくる子は皆んな、なんとなく垢抜けていて落ちついているように見えた。
実際はそうではなかったのかも知れないが、私自身も、もうあまり良く覚えていないくらい緊張してバレエも声楽も自分の持っている力の半分くらいしか出せなかった。

朝からの事もあり、気持ちで負けていたのだ。
絶対、宝塚に入ってやるんだ!と思う気持ちより、私ダメかも知れない…と思い始めている気持ちがあった。

最終の私服面接でも、オデコの虫さされが気になって、パッと晴れた笑顔で気持ち良く受け答えが出来なかったが、この面接で巻き返しをしようと思い自分の持てる力の全てを出し切り頑張った。
印象的だったのは、当時の校長先生だけが終始ニコニコして頷き私の話を聞いていてくれた事だ。

複雑な気持ちのまま家路に着いた。

それから合格発表までの間に、合否についての電話はかかって来なかった。

あー
ダメだったんだなぁ…

合格発表当日。
春になるとよくニュースで見かけるアノ光景である。掲示板が開くと共に上がる歓声。

私もその歓声の中に居た。
しかし…私の番号と名前は無かった。

やっぱりな…。

あらかじめ電話がかかって来ている子はもちろん自分の合格は知っていて確認のために掲示板を見ている感じだった。

おめでとう…頑張ってね。
と合格したお友達に声をかけて、共に過ごした青春の日々の思い出に、一緒に写真を撮り、私はトボトボと帰宅した。

不思議と涙は出なかった。
まだ現実を受け止められずに、夢の続きを見ているような感じだった。

来年もう1回あれば合格出来たのかな?
そんな無駄な事を考えていた。来年はもう無いのに。

後日、お世話になったバレエの先生にお礼を言いに伺った時に、嬉しいお言葉を頂いた。

「もう少し身長があれば受かってたよ。」

私への精一杯の慰めの言葉だったのかも知れないが、私は心の底から嬉しかった。


本当の事を言えば、私は絶対男役になりたいと小さな頃から思っていた。
しかし身長が伸びずに娘役受験をして、もし入団しても娘役にしかなれない。
それでも宝塚が大好きで入りたくて頑張ってきたけれど、正直言って男役になれないなら入団しても悔しくて仕方ないんだろうなぁとも思っていた。
こればかりはどうにも出来ない現実である。
どうにも出来ない現実なのに、未だに引きずっている想いでもある。

なんだか釈然としない気持ちのまま私は、先に合格していた、大阪音楽大学短期大学部声楽専攻ミュージカル科に進学することになる。

そしてまだ、夢の続きを追いかけて行くのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?