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四季劇場春

現在の私は結婚し2人の子供の子育てをしながらパートで働く普通の主婦。
1日があっと言うまに過ぎて、自分の事なんか二の次になる毎日。
こんなバタバタした人生を送っていて、舞台に立っていた事すら忘れていたけれど、私がこうして暮らしている今日でも、ライオンキングは東京有明四季劇場で上演されている。

無期限ロングラン上演という偉業を現在も続けているのである。

ライオンキングは1998年12月に東京・浜松町にあった四季劇場春の柿落とし公演として、ブロードウェイから制作演出振付陣を招いて、オリジナルメンバーで初上演された。衣装もメイクも全て本場と同じものである。

私が在団していた頃はまだオリジナルメンバーのキャストさんとご一緒出来た本当に貴重な時期だった。
ブロードウェイの方から直接指導された立ち上げメンバーの方々をオリジナルメンバーと言うのだが、劇団員の中からオーディションで選ばれた方々なので、本当に役のイメージにぴったりで、技量も素晴らしい方ばかりだった。

その方々と同じ舞台に立てた事は、私の舞台人生の中でも最も幸せな事だったと思う。

私はシンガー枠のアンサンブルとして出演させてもらった。

出演(デビュー)が決まると続々と準備が始まる。
まず日焼けサロンに行って肌を黒くする。
メイク道具も指定があり、MACのアイシャドウなど決まった色を買いに行く。

劇場に通い、自分が演じる枠の方の動きを把握するために本番の公演中ずっと追いかけて、早変わり場所やパペットの置き場所や動線を覚える。

公演が終わった後の舞台で実際のパペットや衣装を付けて場所や動きを確認する。

デビューが決まった人達だけで、プライドロックや舞台セットを動かしてもらい照明も付けて実際に各場面を演ってみる。

これらを何日かかけて稽古させてもらう。

正直言って…本当に大変だった。

普通の平らな床の稽古場とは全く違う感覚。

舞台機構が特殊な形をしているので、足の踏み場を一歩でも間違えると死ねると感じた。
死の危険を感じる程の壮大なセットなのだ。


私は劇団四季を辞めた後も色々な舞台に出演していたが、この四季劇場春の舞台装置ほどの舞台に出会ったことは無い。

いきなり舞台がパカって開いて盆が回りながらプライドロックがニョキニョキ出てくる。

私は幸せな事にシンガー枠をさせて頂いた後に、ダンサー枠もさせて頂くことになって2枠経験させて貰えたのだけど、このダンサー枠が危険な場所に近くてボンヤリしていると本当に事故を起こしてしまう。

プロローグのガゼルが止まる位置の足の置き場がちょうど、プライドロックが出てくる穴の近くで初めて舞台稽古した日は、奈落の底が見えて冷静になっていないと引き込まれていきそうな感覚を今も覚えている。

夢の舞台は華やかで煌びやかだけど、演じる側としては精神を集中し周りを感じながらも持てる力を全力で出す。

ライオンキングは特にパペットを着けて演じるので非日常な感覚がある。そんな静なる戦いが今日もまた行われているのかも知れない。


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