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今が過去になってゆき、未来が現実になっていく(現実味を帯びていく転職編⑪)

今日は夕方から、また野村さんとご飯に行こうということで、東京タワーの足下すぐの素敵なお店に集合することになっていた。今日という日は皆既月食という摩訶不思議な日だったので、街ゆく人は皆いつもと違う空を見上げていた。それだけでも十分素敵な感じではあったが、東京タワーの周りには、それこそどこからともなくみんな集まって、空を見上げて、写真を撮ったり、それを誰かに伝えていたりした。待ち合わせまでは1時間弱あったので、そんな中をぶらぶら歩く。そんな時、現職で半年前まで相棒だった方からのお電話。なんだろうと思って出てみると「取引先から聞いたんだけど…」と、わたしが辞めることの確認のお電話だった。「直接言おうと思ってにいて、遅くなってしまいすみません」と伝えると、それは良いけど心配で…とのこと。相変わらず最高に優しい。そして「全然違う業界に行っても、絶対今の関係はずっと続くし、ピンチの時はいつでも頼ってほしい」とのこと。涙目の俺、俺、もう、浜松町の摩天楼に絶叫したくなった。近くに居る方のありがたさを感じるのって「ずっと変わらないよ」と言ってもらえることが一番なのかもしれない。そして彼は続ける。「あとゴメン。聞いた時に驚きのあまり混乱を極め、はしもっちゃんに事実確認を行った」とのこと。はしもっちゃんは、彼の隣の部署にいる、わたしと同じマンションの同僚。当然、彼も知らなくてびっくり。大きく高い声で「エーーー」としっかりめに絶叫していたらしい。そういうことで、あの辺一帯全員に知られることになったろう。とりあえず前の部長には直接お礼を言いに行かなければ。ちなみにその日の午前中は、隣の席の同僚にも辞める件伝えたところ、びっくりして彼の奥さん(別の部署で私とも友達)にソッコーで報告しており、3秒後に妻から私宛てに「惜しい人をなくしますね…」と連絡が来た。そして「でも人生は一度きりだから素敵な事、出会ってくれてありがとう」とキョンキョンみたいな言葉をくれた。どちらも、なんて言葉だろう。去って行くわたしなんかにね、いただいたその言葉たちを、442年越しの皆既月食を見ながら幾度となく咀嚼し、すごく幸せなのにそこはかとなくさみしい気持ちで歩いた。

今日は野村さんと野村さんの仕事の相方の素敵な女性とお食事会をさせていただくことになっている。先にお店に着いた俺は東京タワーがよく見えるお席につかせてもらい、お二人の到着を待った。窓から見える皆既月食と綺羅綺羅に輝く東京タワー、なんて素敵な夜だらう。わたしは彼女から繰り出される言葉がとてもイナフで思慮深くて、レースのカーテンから外を見るような安心感があって好きだった。先日のこと、いったいあの方はどんな方なんだろうと野村さんに言ったら、会わせてくださる運びとなったのだ。そしてやってきた彼女、一言で言うととても控えめで優しくついでにとっても可愛らしい方だった。そして自分の仕事を通してのみ自分を信じられるような(わたしの感覚ですが)ストイックさを併せ持つ方だと思った。造詣も深くてお話も楽しく、まだお若いのに、すべてを包み込んでくれるような優しさと笑顔に満ちあふれた方だった。優しさと言う言葉には「諦め」とか「放任」とか、そんな言葉と一緒のこともあるが、彼女の優しさはまったく違う、対象をどこまでもどんなときも見つめて向き合う厳しさを持つ優しさだと思った。それなのに宴の終わりにお花をプレゼントしたら、ずっとそれを抱きしめて、いろいろな角度から眺めて、そんな姿がとっても可愛らしく、あなたにこの先いくらでも花束を差し上げるよと思った。きっとこの方は自分が転職のサポートした方の人生をこんな風に愛でるのだろう。優しく、心配しながら、見つめているのだろうな。人材のお仕事というのはただ何か仕事を紹介するだけじゃなくて、その方の人間性に踏み込むことだと思うんだけど、きっと彼女は慎重に慎重に、そこに向き合っているんだろうな。その一歩一歩を彼女は死ぬほど大切にしていて、それがだれかの蝶蝶になるためのメタモルフォウゼになっていくんだと思った。全面的に彼女に野村さんを任せられると思った。


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