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職人にさようなら言う(転職します⑮)

今日は、果物の卸さんとも最後にお会いした。ずっと勉強させていただき、憧れ続けた方。商談の最後、「よしむらさん、本当に辞めるんですか?」とのお言葉。「僕の方が先に辞める年なのに…」と。先方は長年果物の卸をされている方で、会社の名前も、市場での番号が一番だから「一番」という屋号だって、着任当初に教えててもらった。百貨店に長年卸している方で、贈り物は絶対にこうあるべきと格別に誇り高い考えの方で、商品はもちろんのこと、包装紙ひとつとっても、気持ちがたっぷり詰まっていた。うちは実家もあすこのファンだったのでお歳暮はいつも岩手県の「はるか」を頼んでいた。これがまたびっくりするほどおいしくて、黄色いりんごちゃんという造形も大好きで、うちの家族は毎年すぐに食べ尽くしていた。そうでなくても、あの方がおいしいと言う果物は、本当に全部おいしいし、私の中に、おいしい果物の思い出がその度に増えていった。商談の度にいつも重たいお土産をわざわざ前日に用意してきて下すって、それがまた特別で、みんな大喜びで、なんて素敵な計らいなんだろうっていつも感激していた。商談ブースを出てお別れの時、そのおじいちゃんの手を頂いて握手したら、わたしが思ったよりもずっと柔らかくて温かくて、今までどんなに私やうちの会社がどれだけ大切に守って頂いたんだろうと言葉に詰まりそうだった。強くてしなやかな方の手はこんなに柔らかいんだ、そんなことを思いながら「いままでご指導頂き本当にありがとうございました」とお伝えすると、先方様はちょっと目がうるっとして、でもいつも通りの感じで「ありがとうございました」って、途中一度振り返ってお辞儀をくださり帰って行った。元気でいてね。本当にありがとうございました。おいしい果物という新しい世界を教えてくだすった先輩。また会えるかな?会いたいね。また会えるね。人生ってこんな風にずっと続くんだよね。エレベーターで消えていく後ろ姿にお礼して、またさよならを経験した。

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