ウニのような頭

男はそっぽを向いてただ寝ていた。天窓からは光が差し込んで眩しい。とても寝ていられなかった。でも男の隣にいると少し安心した気持ちで、ここにいたいと思った。わたしが動いても男は動かない。時折寝返りを打つだけだ。それを少し寂しいと感じて男の体に寄り付くけれど、感じるのは体温の温かさだけだった。きっと、結局誰にも求められることはないのだと思う。いつも求める側なのだ。そしてその報酬が返ってくることはない。男の後頭部を見つめ続けても、そこから得るものなど何もない。わたしは布団を被り、光から目を背け、生温かいものに縋るほかなかった。外は雨がしとしと降っていて、なんだか歓迎されていないようだった。切なさのようなものさえ感じて、わたしはこの男を愛しいと思うのに、すぐそばにいるのに、手の届くところにいるはずなのに、手に入れられない虚しさを、その静寂の中で確かめた。

ロフトから降りて一人換気扇の下でタバコを吸い、物思いに耽っていたが、またあの温もりが欲しくなって、わたしは男の元へ戻った。素足に冷たい空気が当たる。布団から男の匂いがする。どこか心地良くて、ここに包まれていたいと思う。寝息が聞こえる。男は体勢を変えていて、布団の中に体を埋めて、その姿すら目にする事ができなかった。わたしが布団に入ってもお構いなしだ。きっとこれが現実で、確かなものなのだろう。顔にあたる冷気は心細くて、心許ない気持ちにさせた。ずっと一人なのだと思う。いびきをかいて心地良さそうに眠る男は、わたしのことを救ってくれたりなどしない。体を丸めて、一人満足しているようだった。羨ましい、と思う。わたしだって安心して眠りたい。いつもこうだ。いつもわたしが下なのだ。いつもこちら側にいる。わたしだってそっちへ行きたいのに。でも誰も連れて行ってくれやしない。男は時折体を掻きながら、夢でも見ながら寝ているのだろう。わたしは時計が時間を刻む音を聞くほかない。何もできない。ずっとここだ。帰ってくるのはいつもこの場所だ。それを確かめるだけの時間だった。

それでも男の体の一部に触れていると安心した。この男はいつまで眠っているのだろう。わたしの存在なんてどうでも良いのだろう。そう思い寝ようと試みるが、どうして目は冴えて、眠ることができない。一人気持ち良さそうに眠るその男は、ずっと遠くにいる気がした。

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