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卒業論文全文

私は建築を学んでいます。建築と私のことを書こうと思ったのですが、岐阜界隈で卒業論文発表会なるものが開催されていて、この流れに乗って私も卒業論文を公開してみようと思いました。(岐阜のはとても見に行きたかったけど行けなかった)今読んでみても駄文だし、実際本当に1日で書き上げた(添付資料作成を除く)のでどう考えても駄文です。それでもいいよって方はぜひご一読ください。2章までは面白い自信があります。以下、本文です。

新堀川沿いの細過街区からみる都市と川の関係


1章 序


 1-1.研究背景と目的

 生き物にとって水は必要不可欠なものである。水が集積して流れる川は交通や運輸などの経済活動や信仰や文化の基軸を担い、歴史的に都市の発展の中心であった。現在でも川の中に堆積した土からは多くの植物が生え、川の森林化が起こっている。土があり水があると、そこには生命が生まれてしまうのである。しかし水道の発達と水運の衰退、陸運の発展により、人々は川のような水辺から離れて暮らすことができるようになった。すると都市の中心は道路になり、高速道路や電車の軌道も川を無視して作られていった。
 これは川が都市の動線に負けた瞬間である。都市河川においてはそれが顕著に表れており、まさに暗渠化が進んでいる。さらに、都市計画の観点からも県市区町村の境目が川であることがよくみられ、川は都市のエッジとして端に存在していることが分かる。
 しかし、高密度化していく都市の中で唯一の空地とも言える水辺空間は貴重な存在であり、水辺と都市の関わりを改めて考える重要性は増してきている。そこで本研究では、都市と水辺の狭間に建つ川沿い建築に着目し、そこから過去–現在–これからの都市と水辺の関係性を明らかにすることを目的とする。

 1-2.既住研究


 川沿い建築の研究としては、今後のまちづくりのための現状整理として屋根形式やファサードの調査・用途の調査を行ったもの1)がある。水辺や暗渠まで範囲を広げると、船着場・水辺遊歩道・水辺を意識した建築の関係性から魅力的な河川空間の整備要件を明らかにするもの2)や、暗渠上路地の空間構成と活動要素の配置を明らかにすることで、公私併存の都市空間の構成を捉えるもの3)がある。
 本研究は、川沿い建築の誕生理由から川や道に対する振る舞い、周辺地域との関係を横断しながら、都市と川の関係に迫ろうとするものである。

1)伊藤則子, 高野公男, 温井亨: 最上川水運の河岸集落・大石田の町並み- 本町通りを中心とした歴史的・文化的景観資源の現状調査- 日本建築学会大会学術講演梗概集関東,1997,9
2)田島洋輔,岡田智秀: 水辺環境を活かした河川空間の魅力形成に関する研究−水都大阪・水の回廊エリアにおける船着場と遊歩道と水辺を意識した建物の空間的波及と管理運営者の戦略プロセス- 日本建築学会計画系論集,Vol. 84 No.762 ,pp.1769-1778, 2019,8
3)齋藤直紀, 巽祐一, アルマザン ホルヘ: 渋谷川流域の住宅地における暗渠上路地の空間構成- 空間構成と利用形態からみた東京都区部の残余空間の再評価- 日本建築学会計画論文集,Vol. 84 No.757,pp.713-723,2019,3 

 1-3.研究対象

  1-3-1.対象地区・細過街区

 水辺が都市に入り込み、互いに制御し合う都市河川は、都市と水辺の関係性を考える上で重要な存在と言える。中でも、川沿いに依然として空地が残りこれから開発される可能性のある場所は、かつての都市と水辺の関係から現在の関係までの履歴を残していると考えられる。
 愛知県名古屋市を南北に流れる新堀川沿いには川と両脇道路の間に幅3mから5mの細長い街区が存在し、その幅に合わせた小さな建築が歯抜け状に立ち並ぶ。さらに、新堀川は元々運河であったことから、都市と水辺の歴史を色濃く残す場所であることが分かる。この細長い街区を細過街区と名づけ、そこに建つ建築群の分析を行う。

  1-3-2.対象範囲

 堀川への合流部から1つ目の橋である内田橋から16番目の向田橋までの街区を対象範囲とする。(右図ではAからPの範囲。)
 新堀川水源は名古屋市中区堀留水処理センターであり、名古屋市街地中心部に位置するため、用途地域が商業で容積率が高く空地が少ないことから、対象範囲外とする。
 範囲内に建つ建築は合計103棟確認でき、次ページに建築リストを示す。


 1-4.研究方法


  1-4-1.調査方法と概要

 2章では、名古屋市市政資料館にて公文書を調べ、年代順に新堀川と細過街区に起きたことを整理し、都市と水辺の関係の中での細過街区の立ち位置を導き出す。3章では、細過街区の多様性と特徴について考える。多様性については、細過建築の用途や建築形式を実際に見ることやゼンリン住宅地図より把握し、細過街区の多様性を明らかにする。特異性については、いくつかの建築を抽出してアイソメ図を作成し、川と道に対するふるまいを観察し、類型化する。特に個々の特異な部分に注目し、街区の特徴を明らかにする。4章では、周りの都市との関係性を、ゼンリン住宅地図から周辺の土地と同じ所有者の細過街区をプロットし、街区と周辺の関係を検討する。3章と4章で得られた結果を比較考察し、これからの都市と水辺の関係性を考える。


  1-4-2.研究フロー

2章 細過街区の誕生理由

 新堀川(旧精進川)は田んぼに囲まれた低湿地帯にあり、氾濫が多いことが問題視されていた。同時期に、日露戦争用の兵器工場を作ること湿地帯を埋め立てる土が必要となった。また、名古屋の水運の主軸であった堀川では足りないほど物流が盛んになり、新たな水運軸も必要とされていた。1910年、氾濫の多かった新堀川を掘削整備することで埋め立て用の土を賄い、新たな水運軸を作り、氾濫の危険性も解消する、一石三鳥の策がとられた。新堀川は掘削当時、用悪水路として作られたが、1929年に運河として認められた後、川沿いには大規模工場や貯木場が立ち並ぶようになり、護岸は荷揚場として使うためコンクリートで補強された。同時に河岸地に細長い土地が生まれると、名古屋市はその土地を周辺企業や運河使用者などの民間に払い下げた。その結果、荷揚動力や倉庫として民間利用される細過建物が出現し始めた。さらに時代が進み、水運の衰退とともに工場や貯木場は少しずつ住宅地に変わり、役割を失った細過街区には小さな細長い住宅や倉庫・工場・飲食店が歯抜け状に生まれた。
 以上のように水運の衰退という、都市と水辺の関係が反転したところに細過街区が発生したことが明らかになった。

3章 細過街区の多様性と特異性

 本章では、細過街区に建つ建築の用途や形態、振る舞いから、細過街区の多様性と特徴を明らかにする。都市のエッジである細過街区にはどのような特徴があるのか考察する。 


 3-1.細過街区の多様性


  3-1-1.用途

 細過街区の建築物は、工業・準工業・近隣商業・1種住居・2種住居の5つの用途地域をまたいでいるため、さまざまな用途を持つ。また、建築面積が必然的に小さくなるため、どのような用途地域でも住宅や商店を建築することができる。対象103棟の内、作業所が21棟で20%、住宅が18棟で17%、オフィスが17棟で16%、倉庫が15棟で15%、店舗(飲食)が10棟で10%、店舗(飲食以外)が8棟で8%、用途が複合したものが7棟、駐車場が5棟で5%、用途不明が2棟であった。


  3-1-2.形態

 細過街区の建築の形態は、大きく分類するとⅠ箱型、Ⅱ家型(短手)、Ⅲ片流れ型、Ⅳ家型(長手)、Ⅴピロティ型、Ⅵ外部型の7つのパタンに分けられる。Ⅰ箱型が44棟で43%、Ⅱ家型(短手)が14棟で14%、Ⅲ片流れ型が25棟で24%、Ⅳ家型(長手)が2棟で2%、Ⅴピロティ型が6棟で6%、Ⅵ外部型が11棟で11%であった。


 また、分類した7つのパタンを複合することで全ての建築の形態を具体的に示すことができる。

 3-2.細過街区の特異性

 細過街区は川と道路に挟まれているという条件から以下に示す特徴が確認できる。
・建築の全立面が解放されていること
・敷地の小ささ
・複合した要因から表れる建築の自由さ
以上の特徴を有する 代表的な建築物を抽出し、具体的な振る舞いについて観察する。


GE-1(道路側):
 村松商店の倉庫として使われている。1階前面の開口部が大きく取られ、短手方向に扉がついていることから、物の動線と人の動線が交差していることが分かる。その開口は道に向けて開いている事から、道路との接続のみ考えられていると捉えられる。外階段は内部の面積を最大限大きくしようとした結果と推察される。

GE-1(川側):
 外階段の踊り場や、2階部分の窓が川を向いており、水辺との関係を持とうという意識が見える。護岸と基礎部分が一体となっており、水面までの距離が近い。 

GW-3:
 木材業者の倉庫兼駐車場として使われている。護岸レベルを駐車場として使うためにヴォリュームを持ち上げ、ピロティ空間としている。元々木材引揚用の建築であった可能性も考えられる。川への視線の抜けと、空間の一体感が生まれている。道側に対しては垂直方向に看板を出し、川側の外壁には建築を看板と扱うかのように、会社名が書かれている。道を通る人へ向けた広告と、川の対岸に向けての広告方法を変えている。GE-1と同様、外階段によって内部空間を単純かつ広くとろうとしていることが伺える。

 MW-1・MW-2:
 小さな作業所が集まった地区で、凸型の建築と、屋根のみの半屋外空間が交互に並ぶ。川に対する窓が多いことや、半屋外部分で下屋が迫り出している事から、川空間を積極的に取り込もうとしていることが分かる。また、水面まで降りるための梯子がいくつもかけられており、実際に水辺も利用されている。建物の基礎下は列柱のようになっており、その空間に物をしまっている。



 3-3.小結


 細過街区の建築を多角的に観察し、その多様性と特徴を検証した。細く、狭い土地であるにもかかわらず、その用途は様々であり、比較的活発な活動が期待される機能が多いことから、土地の大きさはネガティブには働いていないことが分かる。建築の形態は、基本的に土地いっぱいの幅をとった上で少しずつ異なり、シンプルなⅠ箱型、Ⅱ家型(短手)、Ⅲ片流れ型、Ⅳ家型(長手)、Ⅴピロティ型、Ⅵ外部型の7つのパタンとその組み合わせで表現できる。また、建築の振る舞いを詳しく観察すると、それぞれの建築は、道側と川側の2面で性質が異なり、どちらを重視するでもなく、どちらに対しても意識をする、裏のない建築であることが分かる。また、面積が小さいが故に動線部分やちょっとした下屋などが露わになることで、周辺の環境を引き込んでいる。小さい建築は、周りを巻き込む力があるのではないだろうか。



4章 周囲の都市との関係性


 4-1.同一所有者

 2021ゼンリン住宅地図より、細過街区の土地所有者と、周辺土地の所有者が同一である物をプロットし、その関係性について考察する。
 対象建築103棟の内、周辺の土地所有者が同一であったものは、17棟(16.5%)確認でき、その内倉庫が9棟、作業場が6棟、駐車場が1棟、住宅が1棟であった。また、建築は建っていないが駐車場として周辺土地所有者が持っている細過街区の土地は、34個確認できた。

ゼンリン住宅地図


 4-2.小結


 細過街区は、周辺の工場をはじめとした企業によって所有されていることが多く見られ、独立して成り立っている場所ではないことが分かる。倉庫として使われることが最も多い事から、川自体に価値が見出されておらず、余り物を川沿いに集めているような印象を受ける。しかし、材木業者の木材置き場は運河時代の名残りが残っているようにも感じられる。また、作業場のような機能をしっかりと持ったものが細過街区にある場合、道とを挟んだ関係性が強く、公道までも所有地であるかのような空間になる。一方で、周辺と関係を持たない細過街区の建築が多く、それらは細過街区独自のコミュニティを持つ場所や、個々が独立したような場所、周辺の労働者のための飲食店になっていたりなど、場所によってそれぞれの特性があった。


5章 結

 細過街区の建築を多角的に観察し、その多様性と特異性を検証した。細く、狭い土地であるにもかかわらず、その用途は様々であり、比較的活発な活動が期待される機能が多いことから、土地の大きさはネガティブには働いていないことが分かる。面積が小さいが故に動線部分やちょっとした下屋などが露わになることで、周辺の環境を引き込んでいる様子様子が伺い知れる。小さい建築は、周りを巻き込む力がある。
 細過街区は、周辺の工場をはじめとした企業によって所有されている例が多く確認でき、独立して成り立っている場所ではないことが分かる。倉庫として使われることが最も多い事から、川自体に価値が見出されておらず、余り物を川沿いに集めているような印象を受ける。一方で、材木業者の木材置き場で運河時代の名残りが残っていることから、時代を伝えるものでもある。他にも、細過街区に作業場のような機能を持ったものがある例のように、道とを挟んだ関係性が強く、公道までも所有地であるかのような空間になるものも確認された。
 細過街区の小さな建築たちは、周囲の環境を自らの空間に引き込み、周りの環境と距離を置いたり、人々を引きつけたりしている。これは建築の小ささが故に周辺を巻き込まざるを得ない状況が生み出され、実際にその周りに川と道路という都市の空地があることが複合した結果引き起こされる現象であると考えている。
 都市の中で水辺は貴重な空地であり、そのゆとりある存在が建築の振る舞いを豊かにさせる。都市と水辺はヴォリュームとヴォイド、という関係のなかで互いにバランスをとり、その結果人々が惹きつけられる空間が生まれるのではないだろうか。



細過街区 建築リスト


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