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映画レビュー、劇場で観たものだけ

 「サンドラの小さな家」(☆☆)
 配役は魅力的だが、ストーリーの運びかたは明快というよりは凡庸といった方が近く、結末部になるにつれてどんどん安易に流れ、既視感がつきまとう。建築シーンになると流れだす音楽は不適切。いっけんまっとうにみえる男性側こそが加害者であり、目のまわりに痣ができた被害者こそが肩身を狭くしていなければならないという構図は興味深くはあるのだが――。観客三人、うちエンドロールとともに立って去っていく中年男性一人。

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 「アンモナイトの目覚め」(☆☆☆☆☆)
 紛れもない☆五つ。名女優ふたりの最高の演技、それを信頼した脚本、音楽の扱い方、カメラワーク、場面の切り替えの効果、演出に編集に美術に衣装、音響、化石採集家という題材の目新しさ、ラストカットの美しさ、……すべてにおいて非の打ち所がなく、映像美学(なるものがあったとして)の粋になっている。なによりもケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナン二人の女優の演技の白熱は、つぎに一体なにをどんな抑揚で喋りだすのかと、中盤部分までの沈黙をさえスリリングに、そしてまた作品全体を文学的香気に溢れさせてやまないのだ。

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ともにいわき駅前の「ポレポレいわき」にて観劇。駅から徒歩でいける距離にあるのですが単館系のすぐれた映画館ですんで(小名浜にシネコンができたことによってそうなったのでした)、いわき市にお越しになって時間があまった、という時には是非。

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 「ノマドランド」(☆☆☆)
 四寄りだろう。主演の演技は味よく、映像にも放浪の臨場感はあり、その臨場感はたしかに魅力的ではあるし、単純に興味深くもあるのだが、……はたして本当に放浪は必要であったのか、と終盤に近づくにつれて疑問を覚えてしまう点は否めない。すくなくともこの映画が示す地平からはビート世代の旅はひどく悠長なものになっているわけであるが。

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柏市のシネマ旬報シアターで「アンモナイトの目覚め」をふたたび観ようとしたら(都内ではもうやっていなかった)、一日ちがいでスケジュールが変更になっていたので観ました……。コロナなので前売り券とかも直前でないと買えなかったりして、ごたついていたのですな。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(これは千葉市の京成ローザ)と「アンモナイトの目覚め」、どちらも見返すために千葉を訪ねていた次第。

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 「トゥルーノース」(☆☆☆☆☆)
 問題なく☆五つとした。万人向けの、絶対にお勧めの映画。展開ひとつひとつに重みも凄みもあり、たとえ見慣れたようなカットであってもこの作品独特のニュアンスが抜き差しがたくにじみ出ている。それどころかこの作品にはユーモアさえもがあるのだ――。アニメでしか描けない作品、であるのと同時にアニメであるからこそ描ける、実写であったのならばボヤけてしまうであろうしっかりとした輪郭と骨格を有した作品であり、このような映画が同時代の今、観られる、伝達され表現されることが成功をしているのだということが、にわかには信じがたく戦慄をさせられる性質の作品である。

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 「アメリカン・ユートピア」(☆☆☆)
 狭義の「映画」の枠のなかには入らないものについては基本的に☆三つ、ということにしており、それを採用させていただいた。上映後拍手が起こる。

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いずれも日比谷シャンテで観劇。

静かに本を読みたいとおもっており、家にネット環境はありません。が、このnoteについては今後も更新していく予定です。どうぞ宜しくお願いいたします。