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〈稲の香り〉

家より約二時間

一杯の荷物を詰め込んで車に乗った

田舎よりも田舎に連れられた

親父の実家

見渡す限り田んぼだらけ

稲の香りとバッタの弾む音


緩やかに流れる風

車の音も皆無


ブラウン管

ダイヤル式のテレビ

霊幻道士 油で揚げ上がったキョンシー


親族みんな昼寝した隙間

時代にそぐわず存在したps1

バストアムーブと、sfのぷよぷよを頼りに過ごした時間


湧水で冷やしておいた 夏のスイカ割り

何気ない瞬間の幸せなひととき

夜の花火

パラシュート花火

ゆらゆら舞い落ちるその傘を追いかけて駆ける喜び


親族皆集まった夏の日

道標となった勇敢な親戚のお兄ちゃん達

酒に酔って喧嘩する親父とじいちゃん達

怒号をすり抜けて夜遊びする子どもたちと

構わずに煌びやかに光が流れる墓地と仏壇と装飾達


お小遣い100円をくれる床屋

深い深い河原で遊んでくれる従兄弟や

クーラーの効いてる町の図書館

何でも売ってる商店のおばちゃん


走る軽トラの荷台で心地良い風を受ける 大空のステージ


子どもを米搗きに連れて行った時の懐古

それだけでなぜかワクワクする見慣れない町の風景


長い一本道を自転車で滑走

蜃気楼がアスファルトの上を漂う

橋の下の川で飛び込みの度胸試し

冷たくて綺麗な水が気持ちいい


夕方には黒獅子のお祭り開催

まるで隔離されているような田舎にもこれだけの観衆


2つの部屋を貫くように並べられたテーブルの数々

所狭しと並べられた料理の数々



夜風が吹き始める立秋

闇を華やかにさせる鈴虫の合唱

お腹から滑り落ちるタオルケット

別れの時間は刻一刻と迫る


遠くで花を咲かせる大輪の花火

数秒遅れで胸を打つ重低音

うちわで扇ぐぬるい風

夏の終わりを匂わせる


一年に一度

そうと言わずに毎度

とはいかないけれど

生きてる魂も

亡くなった魂も

一堂に会するお盆


どうかいつまでも、心清らかに、平和を願う

人に生きた、現世の浮世。

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