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多分にトリップ

 まともに日記を書くなどをする。
 読み返した。まともではなかった。

 連日、お酒をガブガブ飲んでるからか、朝起きてもなんだかしんどい。
 今日もうつらうつらとしてしまった。

 人の考えていることが分かればいいのになぁ、と思うことがある。表情や声色だけで判断をするのは難しい。
 先入観や固定概念に囚われたカチコチの脳では、都合良く、あるいは最悪を想定した予測しかできない。
 自分も含めてだけれど、存外人というのは常に何かしらの感情に支配されているわけではないようだ。
 ニュートラルというのか。
 ご機嫌でも不機嫌でもない、束の間の凪のような感情の起伏。そんな時は、心を読もうと読むまいと、自分には大した影響は無さそうだ。

 偉い人が話している傍ら、ぼうっとしていた。
 人の話はきちんと聞かねばならないが、そんなことより人の温もりに触れたいと思い、全神経を集中させて妄想の五感にアクセスした。
 人肌恋しい季節なのだ。
 架空の人物に身を委ねても構わんだろう。

 その人は、多分そんなにニコニコしてない。
 私はどうも、「イチャイチャ」とか「ラブラブ」というものに嫌悪感があるので、生暖かい視線を向けられるのは気持ち悪くてかなわない。そのくせ、自分は甘えたなので、妄想の中でその人の肩に頭をそっと傾けるわけである。
 その人は快・不快を表情に表さず、薄暗い居酒屋の個室で静かにBGMを聴いていた。
 たぶん、ジャズ。それから、遠くから聞こえる喧騒。
 何も語らない。じっと、私はその人の温もりを感じるだけ。少し薄手の色の濃いシャツで、ほんの少し高めの体温と、少し肉付きの良い質感を感じていた。
 実際には触れたことのないものを、想像の中で如実に再現する。
 きっとその人は無言で、私の肩に手を回してくれるだろう。丸っこい指が、きっと愛おしい形をしてるに違いない。軽く添えられるだけの手の温もりすら愛しく感じて、私はホッと息をつく。
 まるで、お布団みたいだなあ。
 私はそんな、笑いもせず語りもしない優しい人が好きだと思う。

 偉い人の話が終わって、私の妄想は霧散した。
 こうして文字に落とすと飛んだムッツリスケベな雰囲気を感じるが、あながち間違いでもないので否定はしない。
 人間の温もりって、どうしてかあんなにホッとする。
 ただ、自分が求める時だけ与えられたいので、結局のところ妄想で十分なのかもしれない。

 おわり。

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