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【特別講義】新科目「情報Ⅰ」の攻略法 第3回 『「情報Ⅰ」Q&A』(共通テスト編)

 これまで連載してきた『新科目「情報Ⅰ」の攻略法』も終わりが近づいてきました。第3回は,まだまだ気になる色々なことを岡野先生にお尋ねしていきます。
 まずお聞きするのは,大学入学共通テスト(以下:共通テスト)「情報Ⅰ」についてです。

 2023年6月9日に,大学入試センターからは令和7年度共通テストの問題作成方針として「問題を出題する際のプログラム表記は,授業で多様なプログラミング⾔語が利⽤される可能性があることから,受験者が初⾒でも理解できる⼤学⼊試センター独⾃のプログラム表記を⽤いる」と発表されました。
 独自のプログラム表記とは何なのでしょうか,まずはそこから聞いてみましょう!


Q1.共通テストでは独自のプログラミング言語が使われると聞きましたが,最初からその言語で勉強しなくて大丈夫なのでしょうか?

 まず,共通テストで使われるプログラミング言語は,「DNCL(Daigaku Nyushi Center Language)」と呼ばれるものです。
 DNCLは共通テスト用の手順記述言語であり,関数名や分岐処理,反復処理などが日本語で書かれているのが特徴です。共通テストを受験するのであれば,DNCLにある程度慣れておく必要があります。
 しかし,DNCLは疑似言語なので実際のプログラミングには使えません。だから学校の授業では,他の一般的なプログラミング言語を使ってプログラミングを学ぶのです。

 授業で学ぶ言語は,学校ごとに違います。Pythonを採用している学校もあれば,JavaScriptやScratchを使っている学校もあるでしょう。
 言語によって書き方の形式はかなり違います。

 そのため,うちで使っているのはあの言語だから共通テストは大丈夫とか,この言語だから心配…などと思っている人もいるのではないでしょうか。
 でも,安心してください。
 ある論文によると,生徒をいくつかのグループに分け,それぞれ違う言語でプログラミングを学習させた後,全員に同じ共通テストのサンプル問題を解かせてみたところ,各プログラミング言語の学習者の間に有意な差はみられなかった,という報告がされています[1]。

 つまり,プログラミング言語の選択によって,共通テストでの有利不利が発生することはないということです。
 なので私は,作りたいものを作ることができれば,どんな言語を選んでもよいと考えています。

 ただし,DNCLは若干Pythonと似た形式になっているため,特にこだわりがなく,言語を自分で選べる人は,Pythonを使って学習するとよいと思います。

Q2.共通テスト「情報Ⅰ」で点数を取るためには,どのような力を身に着けておくとよいでしょうか?

 どの教科にも共通して言えることですが,共通テストは思考力・判断力・表現力を評価するテストであり,それに加えてスピードが求められます。
 共通テスト「情報Ⅰ」という科目の特性上,問題文の中に答えを解くカギとなる情報が点在しているので,それらをいち早く見つけてうまく使いながら問題を解いていく能力も必要です。
 そして「情報Ⅰ」を解く上では,次の3つは身に着けておきたい力だと言えるでしょう。

 1つ目は,数学力
 「情報Ⅰ」では,特にデータの活用などの分野で,数学の知識や論理的に考える力が必要となります。数学Ⅰ・Aの範囲で十分ですが,数学Ⅱ・B・Cの内容まで理解しておくと,問題を解くスピードは上がると思います。

 2つ目は,情報処理能力
 文章・グラフ・データなど様々なメディアを複合的に読み解き,理解する力や,1つの情報を色々な角度から考えて解釈できる力が必要になります。そのためには,日ごろから様々な情報を収集し,自分なりに考え,相手に伝える能力を身に着けておくことが大切です。

 3つ目は,シミュレーション・仮定する力
 共通テストは選択問題なので,答えがわからない場合でも,選択肢の①を当てはめて,合理性が保たれなければ②かもしれない,というように,選択肢を順番に当てはめて仮定することによって,合理性を確かめる方法が使えます。
 例えば,プログラミングや回路の書き方,表現の仕方も本当は正解が何通りもありますが,共通テストでは択一式で出題されるので,この方法が有効だと言えるでしょう。
 また,シミュレーションでは,工程全体が全部で10あったとすれば,3ぐらいまで自分でシミュレーションしてみて,法則性を見つけて一般化し,そこから問題を解く,ということがとても重要になってきます。

 共通テストではこれら3つの能力をスピーディーに発揮させながら問題を解いていくことが求められます。


 なるほど。共通テストに向けてどのようにプログラミング言語を選び,どのような力を身に着けておけばよいのか、よくわかりました。ありがとうございました!

 次回は普段の授業で使えるタイピングが上達する方法について,そして情報を学ぶとどんなよいことがあるのか,といった点についてお聞きします! 

参考文献:[1]井手 広康,情報Iにおけるプログラミング言語の選択が大学入学共通テストの解答に及ぼす影響, Vol.9 No.1 1–10 (Feb. 2023), 情報処理学会論文誌

岡野 英樹(おかの・ひでき)

佼成学園中学校・高等学校の情報科教諭。実教出版情報教科書「情報Ⅰ Python」「情報ⅠJavaScript」指導用教科書を執筆。
授業研究「情報Iを見据えたプログラミング教育~学習者の独自設計を可能にさせたミニチュア配膳ロボットのプログラミング教材の開発と実践と評価~」で令和4年公益財団法人東京都私学財団賞を受賞。慶應義塾大学院政策・メディア研究科修了。
「情報Ⅰ」はどうしてもスキルによって進度の差が出てしまう教科なので,課題設定を工夫しすべての生徒に飽きさせない授業設計を心掛けている。

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