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誰にも会わない旅。3日目。

誰にも会わない晴れた朝。

本当に今年の7月の雨は長い。久しぶりの晴れに心浮き立つ。

東北は仙台まで来ると、人は多いが密でなく感染に対する意識の高さが見える。しかし都会から少し離れてしまうとソーシャル・ディスタンスはグダグダだ。車内が空いているからいいけど。

今回の移動では乗車する車両の窓枠もレンタサイクルならハンドル・サドルと触るものは全て除菌シートで念入りに拭いた。ホテルでは買ってきた物は全て洗う。手洗い水は普段から持ち歩いている。安全な家から出てしまったので、やれる事はやっておこう。


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昨夜は人を避けて遠回りルートで夜遅く着いた為にコロナ対策の洗濯ができなくて朝に洗濯する。毎晩の洗濯は面倒でも仕方なく、潔癖が面倒を越えていく。すぐに乾かしたいのでコインランドリー探しながら朝の街を散歩する。


東北まで来ると関東のようなまとわりつく重い空気が無い。しかし、そもそも空気に重さなんてあるのか?北に行くほど軽さを感じるのは気のせいか、人に聞いた事もないから分からない。樹々も北に行くほどに色味が蒼色を帯びて来る。

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道中に渡る橋の欄干には白鳥のモニュメントがあり飛来地である事を教えてくれる。なかなか散歩しやすい街なので白鳥が来る時期にまた立ち寄りたい。そしてこの街を歩いていると車のマナーが良いのが分かる。信号の無い横断歩道でも必ず車が確認して一時停止してくれる。全ての県でこのくらいの余裕を持ちたい。

川を抜ける風は涼しく適度な湿気もあり夏の理想という感じだ。こんな気温の毎日なら良いが、そうはいかない熱帯化よ。


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民家の軒先には名前も知らない植物が久しぶりの光を受けようと塀から伸び上がる。くるくるしているが何かしら詳しくないから分からない。コインランドリーの正面にそびえ立つ岩壁は一関城跡で、いまは公園らしいので帰りに登ろう。


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一関城までの雨上がりの歩道は少し滑るのでサンダルの足元を注意する。通路が全体的に苔むしているので人があまり来ないのだろうか、伸びすぎた木の枝は少し鬱蒼としているが眩しいので丁度良い。あたりはすっかり緑に包まれて木漏れ日だけがキラキラしている。


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頂上は街を見下ろす眺めの良さ。長梅雨で開花のズレがあるのか紫陽花とヤマユリが同時に咲いて草ぼうぼうの中で唯一の彩りを添えている。神社の参道があるので降りようとしたら途中で階段が草の中に消えていた。

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戻る前にパン屋でアップルパイ購入。リンゴの違いか煮込まないせいか、リンゴの主張が強く食感も良い。地元の有名でもない店で買い物をするのも楽しい。連泊で部屋をとったので荷物を置いたまま動けるのは慌てる事もなく随分助かるなあ。


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まずは宮沢賢治のホーム花巻へ。岩手をイーハトーヴ、北上川護岸をイギリス海岸と言い換えたりと詩人の感性で包まれた土地を走るのは銀河鉄道のみ。花巻駅から遠野行きの銀河鉄道への待ち時間が1時間も空くので宮沢賢治記念館にタクシーで行き、先の新花巻駅で遠野行きに乗ろうとしたが駆け足すぎて上手く楽しめない。やはり童話をゆっくり読むような心持ちで旅先の時間をとらねばならないと反省はするがいつも生かされないで終わる。そんなのはイヤだ。


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公式河童の里である遠野に訪ねるのはいつも夏である。10年に1回のペースでやってくるが、今回は人が少なく列車もスカスカであった。感染対策的に願ったりの距離は十分とれている。早速レンタサイクルを借りて目当ての遠野伝承園に向かう。5キロ程の距離はあるが、茨城の2キロより東北の田園風景の中での距離は心中爽やか割引なのか気持ち短く感じる。

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遠野伝承園は『遠野物語』の佐々木喜善の記念館と移築された『曲り家』という伝統的な民家が展示されている。その他は民芸品と地元食レストラン。前回は、この定食を時間がなくて食べらなくて、ずっとずっと忘れなかったので積年の夢を果たしたい。レジ横で販売する地元のオヤツ《焼き餅、がんづき(蒸しパン)》などは安定の美味しさ。そもそも東北は食べ物の外れがあまりない。頼んだ伝承園定食は、ひっつみの出汁が美味くて痺れる。派手なオカズはないけれど基本の米は美味しく根菜が安定の力強さで、こういうのを毎日食べて過ごしたい。食で心根が改善されそうな気さえする。

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園内の『曲り家』は昔話に出て来そうなぽってりとした大きな屋根の造りで、そのてっぺんには草が生えていて所々に花も咲いている。芝棟(しばむね)という建築形式らしい。世界で芝棟建築があるのは日本とフランスだけらしいが、藤森照信先生のタンポポハウスは現代の芝棟建築になるのかな。屋上緑化の先駆けだ。

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建物の中は独特の風習である蚕の神様『オシラサマ』が家の中に祀られている。窓のない御蚕神堂(オシラ堂)で赤い壁とオシラサマにぐるっと囲まれると胎内にいるような不思議な空間で魅入ってしまう。以前、気仙沼で民家に祀られたオシラサマの話を聞いたが十二単の様に着せられた布は12年で一巡りする。一家に一対が普通であるらしい。

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日帰りするには時間が限られて名残惜しいので、帰りの電車を一本遅らせてぶらぶらする事にした。蒼い山々と田園風景は、まるで「まんがにっぽん昔話」の世界だ。農道の脇には花が植えてあり清々しい気持ちでサイクリングできる。遠野のこういうホスピタリティはとても良い。サイロみたいな家があるのも面白い。

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しばらく走ると緑の風景に白い幽霊が立っているのが見える。どんどん近付くと、ソレは2mくらいの水柱だった。ジャバジャバジャバと水が流れている。水道管が壊れたのかどうしたのか誰もいないのでわからないので、とりあえず幽霊とはサヨナラした。

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その後は遠野城下町資料館遠野市立博物館を時間いっぱい巡る。博物館では企画展『遠野物語と怪異』の期間中で、遠野らしい河童のミイラ、ケサランパサランや青森のアマビエ的な幻魚など小規模ながらも充実していた。常設展も充実。古いオシラ様、山の伝説、鹿踊りなど遠野自体がデフォルトとして怪異に満ちた美しく素敵な里なのである。

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お世話になった観光案内所に自転車を戻して(関係ないが観光案内所にコインシャワーがあるのは便利)河童の交番に見送られて銀河鉄道に揺られて帰る。

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今度来る時は泊って、じっくりと物の怪が出て来る時間まで楽しみたい。

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